「せや、植物で染めとるからな。嫌な臭いせえへんわ。…そろそろ離してくれへん?なんか近いねんけど」
文子が迷惑そうな顔をする。
「ああ、ごめんね」
クリスは邪険にされてもめげる様子はない。にっこりと笑ってむしろ嬉しそうだ。
「ライバルだ…。間違いなくライバルだ」
ガクが珍しく低い声で、唸るように呟いた。
「おいおい、ガク。落ち着けよ。違うかもしれないだろ」
タクトが言うが、ガクはクリスを睨んだままだ。
「いや間違いないね。大人だって分かったらって、見境ないな!よし、今度から『アヤ姉』って呼ぼう!母性本能くすぐっとかないと」
「お前、そういうあざといところあるよな。天然かと思ってたけど作戦だったか」
タクトはガクを見上げながら軽くため息をつく。
「森の中を走るのはできるだけ避けましょう。またあのカマキリが出たら危ないですからね。調べたところ、近くに舗装のない道路があるようです。そちらの方が安全かと」
ナオミが今の話題には興味がない様子で淡々と話し、鞍にまたがった。タクトもしぶしぶそれに続く。
「さて、行くわよ!いい加減、急がないと日が暮れるわ」
そう言って容赦なく鞭をふるう。
「ぎゃああ!下り坂!後ろはましかと思ったけど、前見えないのも怖い!さっきと違った怖さが…」
「もう兄ちゃん、うるさいよ。ひゃっほう、楽しいー!」
「ちょっと、後ろで騒がないで!気が散るわ」
「なんや、あっちは賑やかやなあ」
文子はサーヤに揺られながらトロットに乗る3人を眺めている。
「相変わらず、無駄な動きが多いね。こっちは大丈夫、俺に任せといて」
クリスはにこやかに手綱をさばいた。
道路に出ると、勾配が少し緩やかになる。その分、若干蛇行していて遠回りになるようだが、安全のためなら仕方ないだろう。
「もうそろそろ着くんか?」
文子が少し振り返って言う。
「うん、そうだね。あと1キロくらいかな?数分で着くと思うよ」
クリスは微笑み、少しサーヤを減速させた。目の前に急坂が迫って来たからだ。
「このあたり、綺麗やなあ」
文子が呟いた。坂を上るにつれて視界が開ける。遠くの山並み、山間に広がる低木の畑、近くの木々の根元にはシダや秋の草花が茂っている。
坂を上り切ったところでサーヤが足を止める。分かれ道になっていた。左は獣道のように細いので、右側に進むのが正解だろう。クリスが右に体を向けかけた時、獣道の奥がカサリと動いた。
〈おまけ〉
乗り物に乗っている時って、下り坂の時の方が怖いこと多いですよね。
自転車くらいだったら、風を切って楽しいで済むんですが。ジェットコースターとかだときついです。そりとかも微妙。私、スキーなら得意なんですがそりはそんなに好きじゃないです。あれ、ほとんど方向転換できないじゃないですか。それが困るんですよね。
馬に乗っている時も、下り坂はちょっと慎重になりますね。上り坂の方が気が楽です。山の中を歩いたことあるんですが、その時は下り坂だと視界がより開ける感じがするので馬が足を滑らせないかとか余計なこと考えちゃってましたね。
サーヤの姿を描いたことがなかったので、今回出してみました。フィアンセとの違いは、全体的に色が濃い(赤みがかっているため茶色く見える)のと、少し斑点があるところですね。
「インセクト・パラダイス」は完全フィクションの小説です。
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