「どういうことだ?」
レイラが不服そうに言う。
「すみません、説明不足で。この人工変異種のカマキリの被害報告が出てから、我々も駆除にあたっているのですが。生態がよく分かっておらず、探し出すのもひと苦労で。これだけ大きいと生け捕りはほぼ不可能ですからね。今回、麻酔があるとはいえ生きた状態で見つけられて幸いでした。お礼を申し上げます。ありがとうございます」
2人は、文子に向かって頭を下げる。
「研究のため、このままの状態で持ち帰らせてください。逃げ出さないよう拘束する道具もありますので」
そう言うと、荷台から粘着テープとロープを取り出した。前脚を折りたたんでぐるぐる巻きにする。中脚や後ろ脚も手分けして同じように巻いた。体にロープを巻き付け、「せーの」と息を合わせて引っ張り、荷台の向こう側に回って要領よく引き上げた。その後、荷台の端にまとめてあった、鎖を格子状に編んだような重そうなネットを、カマキリの上にかぶせて固定する。なるほど、ここまですればたとえ万が一麻酔が切れても、容易には逃げられない。
「ご協力、ありがとうございました」
あっけにとられる一行の前で、2人は行儀よく頭を下げる。
「はっ!」
ガクが突然何かを思い出したかのように声を上げ、文子のもとに近付いた。
「アヤ姉、ケガはない?カマキリにつかまれたんでしょ?」
「苦しかったんは確かやけど、血は出とらんで。運が良かったんやな」
文子は急に姉呼ばわりされても、さして動揺はしていないようだ。
「そうだ、そこの方。大事を取って、トラックに乗ってはどうでしょうか。騎乗用の昆虫より安定していますし」
警備隊のより年長らしき方が、文子に話しかけた。トラックの後部座席を手で示す。少し狭そうだが、余計な荷物など置いておらずすっきりしていた。
「そちらの髪の長い女性の方も、良かったら。手を怪我されているようですし。もう1人なら乗れます」
「それがしらは、デネボラと申すところに行くつもりであるが」
セルウィンが困ったように言った。
「大丈夫ですよ。すぐ近くですし。ここでは有名な場所なので、道も分かります」
ありがたくその言葉に甘えることとなり、トラックに先導されてデネボラの子会社のある場所に着いた。
タクトが不思議そうな顔をする。
「ここが、デネボラですか?」
〈おまけ〉
昆虫に麻酔なんかできるんかい、と心のどこかで突っ込んでいる読者もいることでしょう。文子の使った毒針で麻酔を注入したら大カマキリが動かなくなったという筋書きですが、そんなことはできないように思えるかもしれません。
でも確かあったんですよ、『ファーブル昆虫記』で、昆虫に麻酔をかける話。ファーブルができたんなら、未来の人間ができてもおかしくないですよね。
虫に麻酔をかける昆虫もいます。ジガバチあたりがそう。クモとかアオムシとか、幼虫のエサになる虫に針を刺して麻痺させて巣に運びます。以下、やや閲覧注意画像あります。
今年の夏、ベランダにハチが巣を作りました。多分、キゴシジガバチあたりかなという感じがします。
あまり人を刺さないハチのようではありますが、何かの拍子に触ってしまうとよくありません。うちは子どももいることですし、退散願おうと思いました。
そんな時に活躍するのが蚊取り線香です。殺虫剤で親のハチを殺すことは可能なのですが、やはり穏便に退去いただきたいもの。親が少し巣を離れたタイミングで火をつけました。親は少し戻ってきましたが結局巣に近付かず、どこかへ去っていきました。おそらくこの煙を危険と判断したのでしょう。
おそるおそる巣を取り壊すと、何やら明らかにハチじゃないものがたくさんいました。目を凝らすと、どうやらクモっぽいのです。どういうことかと最初思いましたが、落ち着いて考えたら幼虫のエサだと察しがつきました。クモは仕方なく割り箸でつついてつぶしましたが、なんかすごくレアな感じがしました。麻酔かかっていても生きていたんじゃないかと思います。でないともっと干からびますから。
さらに奥の方を崩すと、今度は明らかに幼虫っぽい白い芋虫が2匹。こちらも南無と唱えてつぶしました。悪く思わないでほしいです。ごめんなさい、ハチのお母さん。
「インセクト・パラダイス」は完全フィクションの小説です。
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