「よし、手分けして詰めていこう。最も体の大きな5齢幼虫が優先だ。1齢と卵は焼却処分。庭に焼却炉があるから、そこで焼けばいい」
「了解。俺やるよ。そうだ、アヤコさんも一緒にどう?」
「うちは別件で来たんやで?」
「でも暇でしょう?火をおこしながらガールズトークしようよ。楽しいと思うけど」
壁にもたれかかって休んでいた文子はしぶしぶ体を起こし、クリスと一緒に作業を始める。
「じゃ、ボクも」
そう言って動きかけたガクの襟首を掴んでレイラが言った。
「ガクはどう考えたって、幼虫の仕分けがいいだろ。飼育班の腕の見せ所だぞ」
「ああ、そうだった!任せて、だてに毎日虫の世話してないんだから!」
レイラにおだてられて、ガクは俄然やる気になったようだ。
「タクト、悪いがあっちの繭の方を外してくれ。資産価値が高いから、潰さないように気をつけてくれよ」
レイラの指さす方向を確認すると、天井から紐で格子状の枠組みのようなものが吊り下げられていた。そこにびっしりと白い繭が入っているのが見える。
「それ、下に置いていいから。お前の身長なら、脚立使わなくても余裕で届くだろ」
指示通り、マス目状になっている枠を取り外す。紙でできているらしくさほど重くはないが、幅があるので腰にきそうだ。
―なんでオレだけこんな重労働―
少し思ったが、巨大カマキリの件ではほとんど役に立っていないことを思い出し、言われたままにする。
繭は光を優しく反射して美しかった。まるで柔らかい宝石のようだ。
「そう言えば、レイラさん」
タクトは大声で、幼虫を選別するレイラの横顔に話しかける。
「資産価値がどうのって言ってませんでしたっけ。これ、星瞬がどこかに売却するんですか?」
レイラは手を止め、振り向いて言う。
「それはケイトーのものになるんだ。公式発表はまだだけど、星瞬はケイトーに吸収合併されることが決まったらしい」
「何ですって」
急に小さなうめくような声が聞こえた。あの白髪頭の男性の声だった。
「あ、いやすみません。作業を続けてください」
次の瞬間には、男の顔は無表情に戻っていた。
繭は動かないので、取り外す作業は割と楽だった。1つ目の枠を外し終え、2つ目の枠に手を伸ばす。枠の右端に、何かが動くのが見えた。
〈おまけ〉
カイコの幼虫はアゲハチョウの幼虫などと同じく脱皮して姿を変えながら大きくなっていきます。
最初は、ケゴと呼ばれる1齢幼虫。体中に毛が生えているためこう呼ばれます。
『虫めづる姫君』で「絹は毛虫が作り出したものだ」と熱弁するシーンがあるので、この姫君が愛した毛虫はケゴやクワコの幼虫だった可能性もありますね。
見づらいですが、大きくなった5令幼虫はこんな感じ。眼状紋と呼ばれる模様がありそこが目のようにみえてしまいがちですが、目は頭の先端部分にあります。そこまで目立つものではありません。この時期になると、ものすごくたくさん桑の葉を食べます。
息子の幼稚園時代、この5齢幼虫を飼育しました。シャリシャリ言わせながら桑の葉をもくもくと食べる姿は最初不気味に見えましたが、激しく動く様子もなくただ食べて排泄して寝ているだけなのでだんだん可愛く見えてきましたね。懐かしいです。
「インセクト・パラダイス」は完全フィクションの小説です。
毎週木曜日に更新予定です!
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あらすじ
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