―そう言えば、このオンブバッタは一体何だろう?「フィアンセ」と呼ばれていた気がするけど―
冷静さを取り戻したタクトは、夢から覚めたような顔でその不思議な姿を見つめた。
「ねえねえ、そのオンブバッタは女の子?可愛いよねえ」
ガクも似たようなことを考えていたらしい。
「おいガク、名前がフィアンセだからってメスとは限らないぞ」
「違うよ兄ちゃん、オンブバッタはメスがオスを背負うんだ」
―オンブバッタが背負っているのって子どもじゃなかったのか―
タクトは少し恥ずかしくなる。
「さよう。名はフィアンセと申す」
2人のやりとりをさほど気に留めない様子で、セルウィンが答えた。
「セルウィンはあたいの同期なんだよ。あいつの方が年上なんだけどな。騎乗部隊のエースでね。今日は加勢に来てくれたんだよな?」
「うむ。よもや、かようなことになっていようとは思わなかったが」
「いやー、悪い悪い。すっかり油断したよ。せっかくだからついでに、荷物運ぶの手伝ってくれないか?」
「お安い御用。それがしが下りて、彼女の背に乗せて歩こうぞ」
「わーい、やったあ!」
「ただし2つまでであるが」
「分かりました、オレは自分で持ちます」
セルウィンはするりと下りると、暑苦しくて仕方ない様子でヘルメットを外す。顔を見てタクトは小さく「あ」と言ってしまった。目鼻立ちの整った、絵に描いたような美青年の顔がそこにあった。
鞍の上に1つ、後ろの荷物置きらしきところに1つ袋を固定し、セルウィンは手綱をひいて歩く。
「らっくちーん!」
ガクは今にもスキップしそうな軽い足取りで歩いている。その後ろを、ぐったりしたタクトが袋を背負いながら追う。レイラは最後尾につけている。一応警戒しているらしい。
車に到着した頃には、日は地平線に半ば沈みかけていた。「ヘッドライトつけなくちゃだな」レイラは独り言を言いながら、車にエンジンをかける。
「セルウィン、世話になった。先に帰っておいてくれ。社長によろしく伝えといてくれよ」
「御意。それでは失礼つかまつる」
―なんか、いろんな時代の言葉が混ざっている気がするなあ。きっと、あれこれ観てごっちゃになってるんだな―
タクトはひそかにそんなことを考えた。
セルウィンは片手を挙げて礼をすると、ひらりと背にまたがる。フィアンセが強く地面を蹴った。夕日とヘッドライトが、その姿を明るく照らしていた。
〈おまけ〉
ガク、タクト、レイラに続き4番目の主要キャラクター、セルウィン登場回が終わりました。
名前、かなり適当につけていますが一応スウェーデン出身という設定です。
私の個人的な思い入れで「ムチを操る長髪の美形キャラクターを出したい」とひねり出したのが彼。
北欧系の彫りの深い顔を描いたつもりですが、あまりうまく描けません…。
髪は肩甲骨にかかるくらいの長さのつもりです。
ただの美形ではつまらないので、マイペースすぎる変わり者の設定で。
時代劇は、日本語の勉強のために観ていた両親の影響で好きになったとか。
大河ドラマなどを含めいろいろ観るそうです。
特に好きなのは、『甘えん坊将軍』と『水戸赤門』らしいですよ。
「インセクト・パラダイス」は完全フィクションの小説です。
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