53歳になった今、ふと自分の人生を振り返りたくなり、19歳の頃の失恋を思い出した。


断片的な記憶ではあるが、これ以上断片的になる前に、ここに記録しておくことにする。


そして、この記録をあの頃の自分と彼女に捧げる。



・・・あれは1991年、今から34年前の夏だった。


当時、俺は専門学校生で、とあるドーナツショップで、アルバイトに精を出していた。


アルバイトを始めて1年ぐらい経った頃だろうか、仲の良い、先輩アルバイトKさんにこう声をかけられた。


マイケル(俺の仮名)、今度花火大会に彼女と行くからさ、マイケルもゆう子(仮名)を誘って一緒に行こうよ。


花火大会というのは、毎年8月に開催される、地元主催の、大規模な花火大会だ。


ゆう子というのは、アルバイトの後輩で高校2年生。肩に触れるぐらいのショートヘアで、体型は少しだけふくよか。地味で真面目な印象だが、どことなく品がよく、優しげなまなざしをしていた。


まともに話したことはないが、所謂どストライク。


今俺が一番気になっている、はっきり言えば好きな人だった。


ゆう子の第一印象、いつから好きになったかは覚えていない。


気づいたら、好きになっていたのかもしれない。


先輩アルバイトKさんは面倒見のいい人で、シャイな俺になにかにつけて話かけてくれた人。


よく覚えてないが、恐らく俺はKさんに、ゆう子が気になるとか好きだとか話していたんだろう。


ひとまず俺は、アルバイト中、つかみのつもりでゆう子に声をかけ、花火大会に誘ったが、断られた。


ただ、どう断られたのかは覚えていない。
きっと、親に確認したらダメだった、そんな現実的な理由だったんだと思う。


数日後、仕方なく花火大会にはKさんと男2人で行き、その時、Kさんからのアドバイスで、改めてデートに誘うことにした。


ここも残念ながらよく覚えてないのだが、ゆう子を誘った時の反応が、決して悪くなかったこと。Kさんも、その反応ならイケるはず、と言って背中を押してくれたんだと思う。


それから2日後、あきらめきれない俺はアルバイト中のゆう子をもう一度誘ってみた。「ゆう子、今度俺と付き合って欲しいんだけど。」


彼女のリアクションは、意外なものだった。


顔を赤くして、片手で顔を隠し、もう片方の手で俺を叩いたのだ。


(ん?これって。。?)


彼女は続けて、また信じられない言葉を投げかける


「マイケルさんって、カッコいいじゃないですか。私なんかでいいんですか?」


(え?カッコいい?俺が?)


そんなこと、人生で一度も言われたことがなかった俺は、思わず、こう返した。


「・・・じゃなかったら、そんな事言わないよ!」


軽い気持ちで誘ったんじゃないって気持ちが出過ぎて、少しムッとした態度になったかもしれないが、これは本心から自然にでた台詞だった。


するとゆう子に、「私なんかのどこがいいんですか?」

って聞かれたから、


「なんていうかこう・・・雰囲気だよ!」


って答えた。


そう。単に顔が好みとかだけじゃなく、笑顔や話し方、所作、全部ひっくるめて好きだという表現が、雰囲気という言葉につながった。


すると彼女は恥ずかしそうに「私なんかでよかったら。」と言ってOKしてくれた。


彼女が顔を真っ赤にして仕事に戻った時、先輩女子バイトがゆう子に、「フフ、何かいいことあったんだ。」なんて声をかけてる光景を覚えているが、舞い上がりすぎたのか、その後はよく覚えていない。


しかし、なんたる幸運。。


初めは、単にデートに誘ったつもりだったが、どうやら告白されたと思われたようだ。


ま、結果的にそれでよかったんだが、こんなに嬉しいことはない


それまでほとんど恋愛経験のなかった俺。


19年生きてきて、間違いなく幸せの絶頂だった。



それから数日後、一緒に帰ろうよと言って、バイト帰りの彼女を駅まで送っていった。


初めての二人きり。ワクワクする俺。


歩きながら話をしたが、そこで意外な展開になった。


ゆう子から、うちはクリスチャンだから、付き合うのは難しいかも。。的なことを言われたのだ。


当時の俺のクリスチャン、キリスト教に関する知識と言えば、


・十字架を持っている
・日曜日は安息日と言って、教会でお祈り?してる
・ノアの箱舟
・アダムとイヴ

ぐらいなもんだった。


なのでゆう子にも、十字架持ってるの?


って聞いてみた。


すると彼女は、


十字架は持たない。

って答えた。


俺は、ノアの箱舟とか、アダムとイヴなら知ってるよ、というと、ゆう子は嬉しそうだった。


「マイケルさんは、神様っていると思いますか?」


って聞かれた俺は、「いるとは思うけど、なんかこう・・・人の形をしてるんじゃなくて、大きな意識的存在かな?」って答えた。


ゆう子は、私はいるって信じてるんですよ。って静かに言っていた。


しかし、こうやって二人で歩いてるのも、親にバレるとまずい、とも言っていた。


(えええ?それってそんなに厳しいの?)


俺は内心そう思いつつ、・・・それって辞められないの?と素朴な疑問をぶつけてみた。


ゆう子は、友達にも、そんなの辞めちゃいなよって言われる。。


と言っていた。


?話していて、何かが噛み合わない気がする。あれ?俺たち、付き合うんだよね。。と。


ここで俺の中に浮かんだシンプルな疑問が、思わず口をついて出た。


「ゆう子は、俺のこと。。どう思ってるの?」


もう一度、ゆう子の気持ちを確認したかったのかもしれない。我ながら、ストレートな質問だった。


ゆう子は顔を赤らめながら、絞り出す様に「マイケルさんのことは・・・好き、ですけど」って言ってくれた。けど。。


けど。



親は裏切れないから。。



この言葉を最後に、駅に着くまで何を話したか覚えていない。


俺の頭の中は、


そんなことってある??


この現代日本で、好き同士なのに付き合えないとか。。


わからない。信じられない。。


これだけだったと思う。




そして数日後、ゆう子とバイト先で会った時、


この間のこと・・・やっぱり、なかったことにしてください。


ときっぱり言われた。


これはつまり、俺の告白への返事そのものをなかったことに、という意味だった。


そして当時の俺には、その理由を理解する言葉も、推察する知識も経験も、そのまま受け止める度量も、まだなかった。



続く