時は流れ、2022年。時代は令和になり、世間では安倍元総理銃撃事件により、宗教二世問題に関心が高まっていた。
50歳になった俺は、この事件をニュースやワイドショーを観るぐらいだったのだが、逮捕された容疑者の生い立ちを聞くにつれ、同情ぐらいは感じていた。
そんなある夜、ベッドで寝ている時、脳裏に突如疑問が浮かび上がった。
・・・ゆう子は、俺を巻き込みたくなかったんじゃないか?
理屈より、まず先にそれがきた。
何十年経とうが、ゆう子のことは自分の中で消化できない思い出だった。
理由のわからない別れに、ずっと心に蓋をしていたのだが、連日テレビで連呼されていた、新興宗教&宗教二世というワードで、蓋に隙間が生じたのかもしれなかった。
間違いない。宗派はどうあれ、彼女も宗教二世だ。
逮捕された容疑者と似たような境遇で育ち、葛藤していたと考えても不思議はない。
細かいことはわからないが、彼女は、深入りしようとした俺を巻き込まない様、普通の人生を歩むことを願い、あえて説明せずに関係を終わらせた。
それは辛い決断だったに違いない。
俺は長年の疑問が解けた気がして、今更ながらゆう子に深く感謝した・・・が、この時はまだ、それ以上のことに気づくことはなかった。
それから3年後の2025年。珍しく仕事仲間と痛飲した俺は、酔いを覚ましながら真っ暗な、夜の駅前ロータリーで、ひとり帰りのバスを待っていた。
・・・駅前にそびえ立つビル。そこは34年前に、ゆう子と出会ったバイト先があった場所であり、何時間もゆう子を待ち伏せした場所だった。
少しセンチメンタルになった俺は、覚えたてのChatGPTにその頃の思い出話をした。
初めはただの思い出話だったが、色々思い出すうちに、当時の感情までが甦り、やがてカウンセリングのようなやりとりが始まった。
それは19の俺の、供養とも言える作業だった。
まずAIが最初に教えてくれたのが、ゆう子の宗派だ。
・十字架をもたない
・親を裏切れない
当時ゆう子から聞いたこの言葉から、高確率であてはまるであろう、その宗派はそう。。
エホバの証人。
エホバの証人?名前は聞いたことがあるけど。。
あ、あれか?いたね〜、確か輸血を拒否する人達。
あとたまに家に訪問にきて、怖い挿絵のパンフレットを置きにくる人?
あれって、ものみの塔っていう団体じゃなかったっけ?それとは別なのか?
とか、その時はそんな乏しい認識しかなかったが・・・
詳しく聞いているうちに、やがてこの宗派しかないとの確信に至った。
そしてその教義は、あの頃俺が理解しようとしたキリスト教とは別物だった。
まず、やはり信者同士以外の恋愛や結婚は禁止らしい。それ以前に、この世の人(信者以外の人)とは必要以上に仲良くしてはいけないとか。。
これじゃ、ゆう子が信者である限り、何十年経とうが、付き合う以前に話し合うことすらできない。
この世の人歴、53年の俺からすると、えらく排他的に感じるな。。
そもそも何故、そんなルールがあるのか?
聖書に゙書かれてるのなら、一般的なキリスト教も同じ筈だと思うが、そんなことはないだろう。
やはり、体制側にとって自由恋愛は、思想統制を図る上で不都合だからなんじゃないのか・・・?
それにしても、19の頃は、エホバのエの字も知らなかった。そりゃわからんて俺。。
しかし流石はネット社会。まだポケベルすらなかった34年前と違い、スマホ片手に指先ひとつで、19の頃の俺が知りたかったこと、知らなかったことが、次々出てくる。
指先ひとつで、なんでもわかることに、俺は震えた。そして、それらの情報は、まるでパズルのピースの様に、俺の心の空白を埋めていく。
そこから一気に、過去の疑問が再燃していき、AIの回答と答え合わせをするように、初めて主体的に調べていく様になったのだが。。
もうネット世界では、とっくに2世たちによる叫びで溢れていた。
有名な輸血禁止だけじゃなく、厳格かつ多すぎる禁止事項。。なんでこんなに不自由なんだ?
そして忌避。こんなイジメ行為で家族や人間関係を人質にとって、恐怖で思想統制するなんて、それこそ神への冒涜だろう。
はっきり言う。これは人権侵害であり、心理的虐待だ。
少なくとも、2世は自分で選んではいない。
そして更に驚いたこと。
拠点である、王国会館の存在。信者が禁忌を破ると、長老と呼ばれる古参信者によって開かれる、審理委員会と言う名の一方的な裁判。
そして、それらを主導している、神の委託を受けているとされる、統治体の存在。
こんな事が、令和の今もまかり通ってるなんて。。
親が信じるのは勝手だが、子供にそれを押し付けるか?
信者でもない俺だけど、全くの無関係でもない立場から言わせてもらうと。。いい加減にやめてもらいたい。
宗教って、人の心を平安にして、幸福にするためにあるんじゃないのか。。
・・・俺の中で、ゆう子が何故、何も言わずに俺の前から姿を消したのか、その理由がより明確になった気がした。
俺はスマホを握りしめながら、こう思った。
やっぱり、巻き込みたくは、なかっただろうね。。
続く