古事記の世界感じゃない。邦画 『ヒルコ/妖怪ハンター』 | コワれるまで ALLORA

古事記の世界感じゃない。邦画 『ヒルコ/妖怪ハンター』

古い映画です。

スター 沢田研二主演。
『ヒルコ/妖怪ハンター』(1991年)。

私が30過ぎくらいの作品です。

封切り前から当時のSF雑誌とか映画雑誌(確か私はもっぱら季刊「宇宙船」(朝日ソノラマ刊))で紹介されていて、私は興味はありましたが、やっぱり映画観るなら大物。

1980年代末から1990年代初めにかけては、話題作が目白押しでしたからね。

『バック・トゥ・ザ・フューチャー シリーズ』『ロボコップ シリーズ』『ゴジラvsキングギドラ』『ゼイラム』(1991年)(は、封切り直後コケた・・・)などなど。
どうしても『ヒルコ』が霞ますよね~。



さてこの映画、最後の伏線の回収が上手で、そこはすごくよかったです。

ただ私、この映画の設定というか「倭」のコンセプトの用法にちょっと違和感を抱くのです。

どこぞの痛~いネーミングセンスのロボットアニメではありませんが、引用元と映画の世界観が合ってません。

主人公の考古学の名前は稗田
(ひえだ)
礼二郎。
「古事記」編纂時の語り部、稗田阿礼
( ひえだのあれ)
をもじってます。

比留子
(ひるこ)
古墳(実在はしません)の扉を開ける呪文は、古事記の冒頭の一節。
天上界に初めて、姿の見えないビッグ3の神様が現れた部分です。

逆に、古墳を閉じる呪文は、古墳内に落ちていた王冠の中に入っていた紙片に書かれた、イザナギが醜くなった妻を残して黄泉の国から逃げ戻り、千引
(ちびき)
岩で塞ぐ一節でした。

問題は比留子
(ひるこ)


主人公のジュリーは
「比留子とはこの地方に伝わる伝説の化物で、古事記にも出てくるんだ」

と言ってますが、ここが全くの創作。

ヒルコとは、あまりメジャーな神様ではありませんが、古事記が物語るイサナギ、イザナミのたくさんの子供たちのなかの、長男である水蛭子
(ひるこ)
です。
3歳になっても足で立てない不具の子 で、舟に乗せて海に流したと書かれています。

その後、もしかしたら幸いにもこの子は生き延びてどこかに漂着したかも知れません。
それが、海の向こうからやってくる異相の海神《恵比寿
(えびす)
》と結びついて、エベッサマ信仰≒ヒルコ信仰となっていると言われています。

なので私が言いたいのは、全然古事記の世界観でないのに、不用意に神名
(カムナ)
とか乱用してほしくないな、ということです。

もっとも本作には原作があって、それは「少年ジャンプ」に連載されていた諸星大二郎の漫画『妖怪ハンター』(1974年)。
その第1話と第2話が本作の原作なのだそうです。

その原作のときから主人公の名前が稗田阿礼
( ひえだのあれ)
にあやかってしまっているので、映画のせいだとは言えないです。



CG を使わず、蜘蛛のようなヒルコの操演とか、旧いけれどもけっこう見ごたえあります。

血しぶきに耐性のある人なら十分楽しめる、ファンタジックホラーです。