ITDGを十分確保するという目的でリスニングルームの外形を設計した場合に導き出される部屋の外形について前回の記事で扱った。

ただそれは必要最小限の形状であり、実際は形態が複雑すぎると建物の設計として逆に脆弱化したり作りづらかったりすることもあるし、トイレや音の出る機器を遮断する空間など他の空間も必要になってくるので、前回の部屋の形のままが最高というわけでもない。

別荘としてリスニングルームを考えた場合一日の生活の全てに必要なアメニティが揃えることが必要であるが、その場合浴室や洗濯機を収納する部屋なども一緒に設計しなければならない。
ITDGを10ms確保したリスニングルームの形状で別荘を作ったと仮定していろいろ考えてみたが、あまりうまくいかない。空間を有効利用してパズルのように組み替えたりしてみるが、結局のところ今考えているのは仮想のリスニングルームではあるので浴室を作るとしてどのくらい使うのか重要視するのか、浴室を設置するスペースは確保しつつも設置するかしないかは後で決めるという想定なのか、仮想であるが故に決まらない部分があるため、また収まりもあまり良くない感じもあり、こちらは一度棚上げすることにした。

このリスニングルームを離れ小屋と仮定しての設計の場合トイレや冷蔵庫の防音スペースなどは必要であるが、それ以外の浴室などは母屋にあれば十分なので必要ない。その場合このリスニングルームの形状は収まり良く配置できる。





上方の斜めになっている部分はフラッターエコーや定在波の軽減に役には立っているが、建築上の支障があるようであれば直線にしてしまっても部屋の広さはそこまで大きくはならない。


複雑な形状をしているので定在波の正確な把握はできないが、単純な直方体と考えると縦横高比はおおむね1.79:1.56:1で縦横比があまり理想的とは言えないが悪いというほどでもないという感じではある。
さすがにこれくらいの大きさの部屋であると25Hz以下も理論上でも出るようにはなるようである。


部屋の形状をとりあえず決めたところで、反射波を上にあげてから上から拡散波を降らせるような壁面設計を今後考えていきたいと思う。
前回の記事でフラップを使って空気抵抗をかけて広々とした響きにすればいいのではないかと考えた。
だがそれを実践した設計を考えようとしたがあまり思うようにいかなかった。
やはり反射を何かしらの方法で制御しようとして壁際に何か仕掛けを作ると結局反射面が近くなってしまいInitial Time Delay Gap(ITDG)が短くなってしまい、広く感じる要素を入れると同時に狭く感じる要素も入ってしまう。

そんなわけで、そもそもの部屋のITDGが十分大きく余裕があってはじめて反射面の制御の自由度が上がるのだろうと考えられる。
部屋の形や大きさの設計をITDGを効率良く極力大きくすることが仮想リスニングルームの一番最初に重視すべき点なのではないかと思うようになった。
ITDGを大きくするにはスピーカーとリスニングポジションの近くに壁を設置しないことが基本となる。
ステレオスピーカーの配置を2.5m間隔で正三角形上にリスニングポジションを設定し、スピーカーとリスニングポジションの1.8m以内には壁を設置しないという設計を考えることにした。側壁の一次反射面はITDGが短くなりやすいのでその部分はさらに壁を遠ざける必要がある。


それを実現する最小限のスペースの寸法は以下になる。


シミュレーションでのITDGは10ms近く確保できることになる。拡散や吸音での対応と違って、直接音の到来から10msの間は床からの反射音以外に直接音に混入するものがないため音の明瞭さや開放感を得られる可能性が高い。


全体的な反射波の挙動を見てもあまり偏りがない空間になっている。


コムフィルタ効果のシミュレーションを行ったが200Hzが膨らみそうであり250Hzが減衰しそうではあるがそれ以外に極端な偏りはなさそうな気はする。


リスニングルームの核の部分の間取りとしてはこんな感じである。



建物として他のアメニティを入れたいし、アメニティを含めた全体的な建物として合理的な形にしたいし、拡散や吸音や反射のコントロールなどを入れたいとは考えているが、エッセンシャルな骨格部分の設計をこの形としてそこから肉付けしていこうと考えている。

以前に側壁を格子戸をしきつめて、その内側に棚を敷き詰めて、棚の中で音響調整すればいいという結論になったが、結論としていた根拠は可変性を極力多くしつつも、居住性を確保したという理由であった。



その設計も少し疑問になるような引っかかりがあり、そこに手を入れられそうなので再び考察してみる。
改良の余地ありその1は格子戸の部分である。戸の構造なので剛性が確保しづらいため共振などの問題が起こりやすい。そして格子は拡散効果も期待できるが規則正しく配列されているのでコリメーションエコーが起こる可能性も考慮しなければならない。
格子の配列や材の大きさなどに変化を持たせればコリメーションエコーは防ぐことができるが、そんな特殊な格子を作って貰えるのか、自作するとしたら作って見た目上まともなものになるのかという問題がある。
そして側壁を格子戸で覆うほど多量に使用するため、格子にネガティブな音への影響があった場合に、その影響が結果的に音響に非常に大きな結果をもたらすおそれがある。
さらに格子の後ろの棚でさらに音響調整をするはずなのだが、格子が見た目の悪い音響調整材を目隠しする効果も期待している。ただその目隠しがうまく隠れるのかという疑問もある。

そしてこの間の考察で、壁に入射する音をなるべく天井に反射させて天井から後期反射音を供給するのが良いのではないかという案を出したが、このような設計をしたくても壁面が棚である場合、上方に音を反射させようとしても棚板で防がれてしまうので、格子+棚ではそのような音響調整を行うことができない。可変性を最大限持たせたつもりではあったが、明らかに試行錯誤できないパターンが出てきてしまった。

部屋を新たに設計する必要性があるように感じているのは上記のような問題の解消が目的である。まだ詳細には詰められている訳ではないが、普通の壁の内側に折り戸のような機構で動かすことができる2つめの壁を作ると良いのではないかと考えている。

位置を変えることのできる壁を使って、スピーカー側から動き出すときに空気抵抗が大きくなるような配置にする。




板をこの方向にすることで初期反射音の方向を逸らして初期反射音の量を小さくする。初期反射音の到来を遅らせる。そして反射音が前に進みづらくなり、床があるから下にも進めないなら上に進みやすくなるので相対的に上からの後期反射音が増えることが期待できる。

反射波の5回分のシミュレーションでインパルス応答を見てみると、棚状に垂直に板を設置した場合


空気抵抗を大きくする方向に設置した場合


明らかに反射波の到来が遅れているようなシミュレーション結果にはならないが、音像の障害になる反対の側壁からの反射波を後者の方が抑制しているのが分かる。

500本分の音波の分布を見てみると、
垂直な棚板


空気抵抗をかけた板


音波の分布の偏りが後者の方で減っていることがよく分かる。
このような板を設置できるような部屋(だけれども普通の部屋にもできたり、別のアイディアにもできたりするような可変性もある部屋)を設計してみると良いのかもしれない。
前回の考察でもあったようにリスニングルームはホールと同じ設計ができれば良いという話でもない。
広さが違い過ぎるし、音量の確保は問題にならないので響かせる目的が違うからだ。
そしてレコーディングスタジオと同じにすればいいというものでもない。リスニングルームは正確さも重視されてよいが、官能性が一番重視されるからだ。

それならば小空間のステレオリスニングルームの設計の方向性がどのようなもので良いかというのを考えてみる。
・初期反射音の軽減とコントロール
・残響の確保
・残響音のベクトルのコントロール(上方移動)
この辺りがリスニングルームでホールやレコーディングスタジオと別の設計思想を行わなければならないのではないかと考えられる。

・初期反射音の軽減とコントロール
以前に取り上げた「論文小空間における音楽の明瞭さに関する評価要因の調査」にあるとおり、小空間では初期反射音は音場への不明瞭感をもたらす。そのため初期反射音は無処理だとマイナスの存在となる。
だが、音量を-2dbだけ小さくした側方の初期反射音は音場の明瞭感を増加させる効果があるとされる。また初期反射音を極力減らそうとすると吸音率が下がり後期反射音、残響も極端に減ることとなる。
そのため初期反射音を全てはなくさないが、量を減らしたり、一部を吸音したりするなどのコントロールが望ましいということになる。

・残響の確保
ただライブとデッドというように残響が多い部屋はライブというポジティブな言葉で表現され、残響が少ない部屋はデッドというネガティブな言葉で表現されるように、響きが少ない空間はあまり気分が上がるような環境ではない。無秩序なライブは音響障害となるが秩序だったライブさが作れればそちらの方が望ましいとなる。
小空間の場合残響時間は必然的に短くなる。ホールのように勝手に残響時間が長くなる空間や、残響が少なくても成立するスタジオのような空間(考え方によるが)よりもよっぽど残響時間に関しては注意しないと残響は残ってくれない。

・残響音のベクトルのコントロール(上方移動)
基本的にホールと比べて小空間リスニングルームは天井が低くなりがちである。一般家屋で天井高に限界があるのはどうしようもないのでそれ自体の解消はできない。
天井高が高いと2つの変化が起きることが考えられる。1つは天井からの音が遅くなること。これは当然だろう。もう1つは天井からの反射音の割合が大きくなることだ。
高天井でも人間の座高は変わらない。なので高天井の空間の場合、低天井の空間と比較して、相対的に空間の底の方にリスニングポイントが存在することになる。
底の方にいると下や横からよりも上から降ってくる音の方が相対的に多くなる。このあたりの響きの特徴も小空間とホールの響き方の違いの1つと考えられる。

以上の点が小空間のステレオリスニングルームの場合に入れるべき独特の要件になってくるのではないだろうか。
これらの要素を同時に具備しようとするときの発想として以下がある。
初期反射面となる部分は天井方向に反射するようにする(もちろん全反射とはいかないので、リスニングポジションにも入るが軽減されていれば問題ない)。初期反射面以外の側壁も天井方向に反射させてもいいのかもしれない。
初期反射音は天井で再び反射し、天井で拡散させる。スピーカー→壁→天井→リスニングポジションを経由した反射音は後期反射音となり上方からの後期反射音の増加に貢献する。

このような反射拡散の挙動を示す為には以下の要件が必要になる。
・側方壁の斜め面での反射
・天井での拡散

リスニングルームはいろいろできるようにした方がいいという結論で以前一応ついたが、その辺りをちゃんとできるほどの可変性を備えた設計が必要ではないかと思い始めている。
久々のコンサートに行き、小ホールの音響を聴いてきた上で、オーディオルームのような小空間でどのような響きの設計をするのが良いのかというのを改めて考えさせられた。

他のところで散々言われているとおり再生音楽で生演奏を完全再現するという原音再生は不可能である。
ただそれは音源が加工されているからだとか、情報が失われているからだとかそういった言われ方でされている場合が殆どである。
それを否定する訳ではないが、個人的には他の要因も大きいような気はしている。

やはり小空間の音源再生は直接音や早期間接音の割合が多い。コンサートホールで実際に聞くよりも響きが少なくなり易い。
そもそも音源の中に収録されている音は直接音の割合が多く、部屋が響かせる後期間接音や残響も少ないのでそうなりやすいのではある。音源の中に直接音が多いのは間接音が過度に入り過ぎていると明瞭さがなくなるというのもあるが、音源に入っている音源は引き算ができないので蛇足になりそうなものは控えめにしておくのは理にかなっている。
そのため小空間での再生音楽は急峻なトランジェントになり易く、聴いていて音圧の変動が激しく落ち着かない印象を抱かせる。

そういう場合、オーディオ愛好家は機材やスピーカーを変更することで解決を図ることが多いがそれでは本質的な解決はできていないのではないかというのが自分の意見ではある。
初期反射音や残響は様々な方向から入ってくるものであるが、スピーカーからの付帯音はスピーカーから出てくるものである。響きは入ってくる方向によって様々な聴覚上の印象を与えるものであるので、ステレオスピーカーからの付帯音で解決できるものではない。
イマーシブオーディオで反射音再生専用のスピーカーを設置することは解決策になりうるが対応音源が極端に少ない問題などもあるので実用的にはならないだろうから現時点では解決策として有用ではない。

ただオーディオ再生は大きな部屋を用意するとしても限度があり、ホールのような残響時間を得ることは不可能である。仮に自分がビルゲイツだとして無尽蔵の財産をはたいてプライベートホールを作れたとしても家庭用のスピーカーはそのような容積で本領発揮できるようには作られていないし、広すぎて居住性も良くないので資金的な問題以前にホールと同じ残響を獲得するのは正解にはなり得ない。

ホールの演奏のような音を小空間で完全に再現するのは現実的ではないという理由については以上のように洗い出すことができた。
ただ完全再現は無理だからと言って無制限の妥協を肯定したくはないし、原音とは別物だから再生音楽は別方向の鳴り方でいいのだとは思えない。
以前から何度も述べている事だが、趣味なんだから自分が好きだと思うものなら何でも良いというのでは自分の感覚という極めて曖昧なもので探求することになり結果的に自分が長期間好きだと思えるものにならないことがほとんどだからである。
自分が好きも大事だが、他の尺度も必要であるし、その尺度は原音の完全再現とすることはできない。では他に何であるのかということになる。
ホールの鳴り方を完全再現できないにしても、部分的には不完全に再現することはできるだろうし、そもそもホールの鳴り方の特性が聴感上の良いという要素だけで占められているわけではない。生の楽器の音を客席全てに届けるという音量増幅と音圧の平坦化という目的もあるため、その辺りは音質的にはデメリットにもなりうる。
ホールの鳴り方の音質的に好ましい部分は小空間でも再現可能な範囲で取り入れつつ、小空間でも機器の再生では不要な部分は排除した音響が小空間では目指すべきものと思える。

明瞭感の多少の支障にはなるが霧に包まれたような残響はやっぱりあるべきだとは考える。直接音のエッジがなくなってしまうのだが情報量が落ちる訳ではなく、聴感上の心地よさは向上する。一聴するだけだと残響のある音の好みは分かれそうだなと思いつつも繰り返し聴くと気に入る人が多いのではないかと思う。

ではホールの残響は不可能だとして実現可能なエッセンスはどのようなものをどのように組み込めばいいのかということになるだろう。
小空間では一次反射音が早く到来しすぎるのはホールと比較すれば覆せない事実ではある。だからと言って一次反射音は直接音を補強しつつ良い影響を及ぼすこともできるので単純に吸音して排除しても良い音にはならない。
ホールほどはいかないにしてもある程度の時間差を確保できるようにセッティング(側壁から離す)をする方が良いのであろうということにはなるし、時間を遅らせるという目的でのある程度の拡散(というより耳に届くまでの反射経路の複雑化)をするのは正当化されるだろう。
小空間がホールのような残響時間を確保できないのも事実ではある。できないにしても小空間でも包まれるような感じの残響は良い影響があることは各所から言われている通りであり、不自然にならない程度に質の良い残響を作りたいところではある。
拡散させてLEVを作るにしても拡散させるときに音圧の減衰をなるべく少なくしつつ、時間を稼げるようにできれば、その目的には適いそうではある。
となれば少ない反射で効率的に拡散するという手段が必要であるし、拡散体で細分化される反射波の時間差を多く確保するという手段が必要である。
前者は円柱や球体などの形を利用することなどがあるし、後者は厚みのある拡散体が必要ということにもなるだろう。
そして拡散体の吸音率が低く反射率が高いことも響きが残ることには繋がる。音響調整材は軽さが必要なのでせいぜい木材程度までしか用いられないが、建築と一体化させたコンクリート系材料なども必要なのかもしれない。
パスカル・ロジェのオールドビュッシープログラムのコンサートがあったので、コロナが以前ほどの脅威ではなくなってきた折もあり参加した。
ロジェのフランス音楽はデッカの録音が豊富にありその音源をよく聴いていたから、というのもあるが高崎芸術劇場の音楽ホールで演奏されるということが一番の決め手だった。



高崎芸術劇場の音楽ホールはホールとしては小ぶりで席は400席程度しかない。だからオーケストラなどは入れる大きさではなく、ソロや小編成の演奏会しか行われない。
ただ、音響調整用にふんだんにリブが配置されており、木材の反射面が非常に多くなっていたりと響き方がどんなものか興をそそるものになっている。
3年前に開業したがコロナ禍もありなかなか訪問できずにいたが最新の知見が反映された響きになっていると期待できる。
そして小さめのホール(間口12.5m高さ13m)だけに響き方の傾向がオーディオルームの参考になるかもしれないというのもある。
大ホールだと音質よりも音量の確保が第一に優先されてしまう。大きな空間に生楽器の音を全ての席に十分届けることが大変なのでそちらに割かれてしまうし、大きい空間だと反射音が大きい分遅れが大きくなってしまいがちであるが、小さいホールだと音量は響きで無理に増幅させなくても確保できる分、響きの美しさに割り振ることが期待できそうである。

自分的にどんな響きが気になったポイントとして
・収容人数は犠牲になるが、音質が期待できる。
・小空間よりは明らかに大きいが、大きすぎないので参考にはできる
・最新の知見によって設計された響き
・音楽専用ホールとして設計されている

このあたりが気になっていたので機会をみてこのホールで鑑賞してみたいと思っていた。

実際に鑑賞した感想としては、またこのホールで鑑賞したいなと思えるものであった。
ロジェの若い頃の録音は持っているが、今はそれなりの高齢になっているので若い録音のように技巧の多い部分を素通りするように演奏するようなイメージではなかったが、端正で正道で安心感のあるフランス印象派の演奏はロジェらしいなと思えた。

残響は長すぎず、嫌な感じもなく、冷たい霜の霧を纏ったような付帯音を感じた。
ホールの間接音の成分は多いので楽器自体の明瞭感はスピーカーオーディオの方が明瞭には感じた。ただそこが明瞭ではなくても情報量のマスキングを感じないというか、後でオーディオの方を聴くと無駄にコントラストが利きすぎてゆったり聴けない感が出ているように感じた。
部屋のサイズやスピーカーの性能を考えると当然ではあるがホールの生演奏では低音の量や質が全く異なり、豊かで美しく自然で後に残らない引き締まった低音が出ていた。自室で同じ曲を聴いてもそもそも低音の量が不足しており、量を増やしたところで質がまったく再現できていない。

大ホールのオーケストラだとオーディオルームと条件が違いすぎるのでスルーできていた部分が小ホールのソロだとオーディオルームとの鳴りとの比較で思わされる部分も多いなと感じた。
そもそも小空間の録音再生で再現するのは無理であるから、そこを目指しても仕方ないにしても音楽ホールの心地よい響きを再生音に移植できる部分があるとすれば、どうやれば組み込めるのかと考えさせられてしまう。
脳内で考えていてもまったく整理がつかないので次の記事で考察したいなと思う。


ほぼ日刊イトイ新聞より引用
https://www.1101.com/ikegaya2010/2010-10-01.html


「やりはじめないと、やる気は出ません。
 脳の側坐核が活動すると
 やる気が出るのですが、側坐核は、
 何かをやりはじめないと活動しないので。」

これ専用室でのオーディオリスニングに関しても同じ事言えるなぁと思ってしまった。
防音を施した専用室であれば音量を気にせず音楽を聴くことができる。
調音を施せば響きを望ましいものにすることもできる。
ただ音楽鑑賞のやる気が上がる存在かというとそうでもない一面も持っている。

専用室というのはオーディオリスニング専用という意味なのだろう。
それ以外の活動の適性は基本的に考慮しておらずオーディオ専用という定義にはなる。
だからその部屋を使おうと思うのは「オーディオを聴きたい」というモチベーションがあるときになる。

ここで上記の脳の話が出るのだが、やりはじめないとやる気は出ない。
オーディオを聴きたいと思うにはオーディオを聴かないといけない。
だが専用室に行くのは「オーディオを聴きたい」というモチベーションがあるときだけ。
回路が閉じてしまっているようで取っ掛かりがないような話になっている。

オーディオは聴き始めるから聴く気が起きるのであれば
オーディオを専用室に追いやってしまうならば、別に起点が必要ということになる。

解決策1:ながら聴きするためのサブシステムを生活空間に設置する。
音楽鑑賞は真剣にリスニングするだけでなく、他のことをやりながらでも行うことができる特徴がある。
モチベーションの起点が必要であればサブシステムをそれにすればいい。
サブシステムは音質よりも設置しやすく面倒でないことが優先される。ゼネラルオーディオでも十分と言える。
ただ音楽鑑賞をなぜ専用室を設けてまで設置したのにそこを使わないのかという話にもなるし、楽曲のチョイスや再生する時間帯や音量などを同居人に配慮したり音漏れなどにも気にしなければならなくなる。

解決策2:モチベーションが上がらない時にも専用室にいく習慣をつける。
音楽鑑賞する気分が乗ってなくても聴いているうちに気分が乗ってくるはずだからと自分を言い聞かせて専用室に行く習慣を付けるというのは脳の働きを考えれば理にかなっている。
ただそうやって自分にムチ打って行動を起こさせてモチベーションを上げさせるというのは勉強やレッスンであれば有効な方法と言えるだろうが、所詮趣味であり娯楽であるオーディオリスニングでそこまですべきかどうかというとやや疑問ではある。

解決策3:オーディオ部屋を専用室ではなくいろいろできる部屋にする。
以前にも構想していた別棟のセカンドリビングとしてのオーディオルームにも通じることだが、音楽鑑賞をするための部屋として作ってはいるが、他の事をして楽しめるように配慮した部屋にすることが解決策にはなる。
オーディオを聴くモチベーションがないときでも足を運ぶ部屋であれば、他の目的でその部屋に行ったとしても、BGMとして聴いていた音楽でモチベーションが上がって真剣なリスニングをする意欲が出ることも期待できる。
ただ一般的なリビングでこれをやるとオーディオシステムが本格的であるほど日常生活と干渉して生活に支障をきたすので、メインリビングとは分離しなければならず、分離するなら大がかりなものとなってしまう。

どれも一長一短で決定打と言える案があるわけではないが、脳とモチベーションの観点からリスニングルームについて考察できる良い機会だったなあとだけ思えた。
12年前にblogが流行っていた頃に始めたこのblogが100万アクセスに到達したようだ。

このblogは他の人との情報をやり取りするというより、日記であり備忘録であり考えを整理するための作業であったりという自己完結した目的で始めたものであり、本質的には閲覧者が自分以外皆無でも問題ない。今もその目的は変わっていない。
運営日数も膨大であるため検索業者のクロールによるアクセスも膨大な量となっており、アクセス実数はもっと少ないものとも考えられる。

とはいえ100万アクセスというのは簡単なものではなく、継続という力によってもたらされたものであることは間違いない。今まで飽きっぽく長年同じ事を継続して研鑽していくということはほとんどやってこれなかった。内容の質はともあれ、ただなんとなく始めたblogをここまで継続できたことは少し誇りには思える。

それに今までに同じようなことに興味を持った人達が多少は覗いてくれて、何かを感じ取ってくれていることもあるかもしれない。自己完結しているblogとは言え、他者に何かの一助となってくれているのであれば、それは嬉しいことである。

最近はあまり記事にすることも減ってきてしまっているが、今後も細々と続けていきたいと思う。
youtubeのAcoustic FieldsのチャンネルのHear The Whole Pictureの動画を見ての雑感

音像の幅の広さに関しては音響学的に研究が進んでいる分野ではあるが、シアターの場合スクリーンの大きさで最適な音像の大きさは決まるので、スクリーンの大きさに適した音像の大きさにすることが必要と考えられる。

マルチチャンネルで上方向のチャンネルもあるので他のチャンネルで音像は多少は拡大されるが不十分だろう。
上下方向に音像の大きいアレイスピーカー的な縦にミッドレンジがいくつか並ぶようなスピーカーの方がシアター用途に適しているかもしれない。
ただでさえ映画の音響は派手なので、音像が大きい派手な音は相性がいい。スピーカーの素性のよさも重視すべきであるが、そのあたりも考慮して選択するべきなのだろう。

ではステレオ再生ではどうするべきか。結論から言えばどのような音源をどんな場所で聴いている状況を再現するかという目的によって音像の縦の大きさは決まるだろう。
大きな音像を作るシステムと小さな音像を作るシステムを分けても良いかもしれない。
ただ大は小を兼ねるというか、どちらを選ぶべきかというなら大きい音像を作れるシステムの方が優先すべきとは思われる。
小さい音像によってコンサートの遠い席から聞こえる音を再現してもそれで得をするのか?という話にはなるし、小編成の音楽を再現するために小さな音像にするにしても、音像が大きくなれば近くで聴いている感じが出るので不自然にはならない。小編成と言っても電子機器を用いたライブのような音場を再現するなら大きな音場で良いとなる。
小編成やソロの電気を使わない生楽器で比較的小さな楽器(ピアノのような大きな楽器は音像が大きくても良い)や生声の音場を再現したいのであれば小さい音像が良いが、音像が大きくてもそれほど不自然はないというように考えられる。

周波数特性が良いながらも全面的に好まれる訳ではない同軸のモニター志向のスピーカーは、この辺りの要素に目を向けると素性はよいけれどもこぢんまりしてしまっているというマイナス部分も見えてくる。
今月の日本音響学会の無料公開分はオンラインでの学会活動についてが主でありオーディオに関して関連性はほとんどなかったが「響きをみがく」音響設計家 豊田泰久の仕事 石合 力 著の書評が興味深いものであった。

以下引用
“残響時間はアルコールの度数のようなもので単なる目安にしかならない”“シミュレーションで得られた波形を見てここが悪いということはわかるが,理想的な波形というものはない”。
音響設計家としての豊田の言葉からは,ホールの音響には正解というものがあるわけではなく,最終的にはそこで音楽を奏でる演奏家が作り上げていくものだということが伝わってくる。

“誰が指揮をしてもいい音響をもつホールというのはありえない” が,“クリアな音と豊かな音の両立を高いレベル
で目指す” 理想のホールは,優れた演奏家との共同作業によって完成するのであろう。

引用終わり。

結局のところコンサートホールについて知見は有用ではあるが研究の果てにベストとなる唯一解があるわけではなさそうだということだ。
良い音にしていくには演奏家がホールの音響効果を正確に把握して、その特徴を活かした相性の良い演奏をしなければベストにはならないということになる。

これはリスニングルームでも同じことだろう。こうなってしまうと音が悪いというのはあるが、おそらく理想的な響きという唯一解は存在しない。
ただオーディオの場合はコンサートホールのように演奏側がリスニングルームの特徴に合わせて演奏を変えることができない。
オーディオ機材を変えるか部屋の音響を変えるということで対応するしかない。
残念ながら一般的にはどちらもあまりフレキシブルとは言えない。となるとオーディオ機器自体を自作や改造など調整が可能なものとするか、部屋の音響を調整できるものとしなければベストなリスニング環境とすることはできないのではないか。

自作でハイエンド機器に並ぶことは現実的ではないと考えるなら、やはりリスニングルームは調節性をより重要視すべきということになる。
そして扱う側が自分のオーディオシステムはこういう癖があるから部屋の音響をその癖を活かせるようこのように調整している、と測定データや聴覚上の印象を交えて説明できるようなものが1つの理想のリスニングルームということにはなるのではないか。

逆に言えば実際そういったことを1つも説明できない、部屋の音響に関してはオーディオシステムの音の特徴を一切考慮していないというものが至高の音と広く認めて貰えるとも思えない。