結論から言って、ゴア描写やわいせつ描写に甘えないと大人向けを表現できないのはクリエイターとしてどうかと思います。

 


〇悪趣味なだけのわいせつ描写

 

「ゲゲゲの謎」で私がもっとも、とくにあきれたのが、鬼太郎の知名度に甘えたアニメ映画なのに性的虐待、近×相×という生々しいわいせつ要素がある事です。


これを指摘すると「水木先生の原作を読んだ事ないの?w」と笑われることがあります。
たしかに水木先生はアダルトな話も多数描いていらっしゃいます。
しかし原作を一読すればわかる通り、水木先生の「ヒワイ」は「たくさんの裸の美女達にモテモテ♪」のようなあけっぴろげでお下品な「ヒワイ」です。


この映画のように陰湿な悪趣味さはありませんし

水木先生が本気で描いたエログロは「ゲゲゲの謎」の雑なエログロなどとうてい太刀打ちできません。


そもそも水木先生の原作で近×相×や性的虐待を扱った話なんて、私の知る限り思い出せないんですが、あるのでしょうか?


たしかに6期の小説版では性的虐待がテーマの話もあります。
しかしあれはあくまでも鬼太郎親子が手掛けた事件の一つでしかありません。

むろん、原作設定になんら影響はありません。
「ゲゲゲの謎」もあくまで過去に目玉親父が解決した事件の一つであればまだ良かったかもしれません。
しかしよりにもよって幽霊族の歴史を乗っ取るわ、
そんな重要なエピソードで悪趣味わいせつを見せるわ、
「ゲゲゲの謎」制作陣のやりたい放題さに怒りを通り越してあきれてきます。


今作最大の被害者であるパクラレの横溝先生の作品には近×は出てきます。
しかし「犬神家の一族」にはそういう要素はありません。
「犬神家の一族」は親子愛の話です。
「ゲゲゲの謎」の陰湿さや卑猥さは、横溝先生のダークな世界観を猿真似しただけの、単に悪趣味で幼稚なだけのわいせつにしか見えませんでした。


たしかに「ゲゲゲの謎」にはPG-12指定がついています。
しかし「指定はあるが鬼太郎の映画ならちょっと怖いぐらいだろう」と思い家族で見に来た鬼太郎ファンの観客もいたのではないでしょうか。
きっと「目玉の親父が若い頃の話だなんて楽しみだね」と子供さんと見に行った方もいたはずです。
なぜそう言い切れるかって?
実際に映画館の「ゲゲゲの謎」上映ホールから幼い子供の泣き声がした報告を見たからです。
まさか、楽しみにしていた鬼太郎の映画で未成年の近×相×を見せられるとは思わなかったでしょう。

 


そのときの親御さんの心境を想像したらぞっとします。
私が親御さんだったら
「今までは鬼太郎は家族で楽しめたけど、これではもう今後、家族で見られないな」と思ってしまいます。


ことわっておきますが私も最初は、ゲゲゲで初の本格的大人向けホラーなんてどうなるんだろう!とワクワクしていました。
それが、なんですかこのエロに目覚めたばかりの厨二が横溝小説にハマって考えたような幼稚なわいせつ映画は。
水木作品という珠玉のブランドに泥を塗られたような気持ちです。

じゃあお子さんがエロ目的で親に隠れて見るかと言うとそれもないと思います。

6期とちがって絵の人が変わってるんですがこの人の絵、アニメ本編とちがってマネキンです。

女性性やアダルト要素をやたら強調するわりに絵がのっぺりしてて生気がぜんぜんないし

それが目的の人を満足させるような官能シーンがあったわけでもないので。



〇血やわいせつ要素がある=大人向け?

冒頭でも書きましたが、ゴア描写やわいせつ要素に甘えないと大人向けを表現できないのはクリエイターとしてどうかと思います。
本当に優れた作家は内臓や血をぶちまけなくともグロを表現できますし、オバケや幽霊なんか出さずとも怖さを表現できます。


猟奇的なら大人向けという発想はもっとも幼稚な発想です。
それはただの「子供だまし」です。
大人は猟奇エログロが見たくなったら最初から猟奇作品を選びます。
一般向アニメで猟奇性なんて出されても大人は興ざめです。


子供向けであっても大人をうならせる名作はたくさんあります。
子供向作品の劇場版は一緒に視聴する両親の鑑賞に耐える作品にするため、ストーリーに大人もうなる工夫がこらされています。
クレヨンしんちゃんやアンパンマンの劇場版は絵も脚本もひじょうに凝っているのは有名ですね。
私が見たのは「クレヨンしんちゃん モーレツ!オトナ帝国の野望」でしたが、この作品はエログロなどなくとも多くの大人を泣かせました。


ほんとうの大人向とは、そういうことです。


「ゲゲゲの謎」はことさら大人向を主張するくせに
知らない人の葬儀に赤ネクタイで押しかけるという常識および社会性の無さ、
御粗末すぎるムラ社会描写や戦争は一部の悪人が起こすのだという稚拙な思想といい、
まともな倫理観および社会経験のある大人が作った映画とはとうてい思えません。
6期本編も「電気妖怪」や「河童の働き方改革」「SNS中毒vs縄文人」等大人向の話がたくさんありましたが
生々しいわいせつ表現なんていちどもありませんでした。


〇真の6期因習村ホラー「水虎が映す心の闇」



そもそも「ゲゲゲの謎」の銭ゲバ一家は極端すぎてリアリティがありません。

人怖系のホラーとしてもお粗末です。
本作を「人間のリアルな悪を描いている」と評価するむきもありますが

どこが?という感じです。
こんなリアリティのない薄っぺらい極端な一家を例に出されてもねぇ…と呆れてしまいます。


6期本編第64話「水虎が映す心の闇」の方がずっと田舎や人間の恐ろしさを描いていました。

アニメ1期版水虎も人間の怖さが描かれていましたが6期版は

(さすが日曜朝に放送するにはちょっとやりすぎじゃないか?)

と思ってしまうぐらいぶっ飛んでました。

日曜の朝からお母さんがいじめられて土下座させられるシーンを映しちゃだめですよ…

 

しかし閉鎖的なコミュニティで起きるいじめの闇を描いたホラーとしては傑作だったと思います。

はっきり言って「ゲゲゲの謎」より「水虎の闇」の方がずっとリアルでみごとな因習村です。

だって「ゲゲゲの謎」とちがって「水虎の闇」は、嫌な家族だけでなくいじめに加担する他の村人もちゃんと出てるんですから。
「水虎の闇」も海外のホラー洋画「キャリー」を下敷きにしていますが「ゲゲゲの謎」のように芸のないモロパクリはしていません。


どうせ6期で人怖系因習ホラーをやるなら「水虎」回のスタッフに「ゲゲゲの謎」を担当してほしかったです。
私はむしろ大人向けの水木作品を期待していました。
因習もののミステリなんて絶対妖怪ものと相性がいい筈です。
どう料理したって美味しくなる素材です。
それなのに…

いまとなっては、凡作でも短編でもいいから、ただ水木先生の世界を大事にした作品であってほしかったです。


〇「巷説百物語」の思い出

かつて、京極夏彦先生が「怪」にて連載されていた「巷説百物語」がアニメ化されました。

その際「舞首」という回が改悪されました。

(ラストもけっこう改悪されました…)

原作にない性的虐待が入れられたのです。


確かに京極先生も「京極堂シリーズ」では近×を書いていらっしゃいます。
しかし原作の「舞首」はそんなもの無くても充分後味が悪く、えげつない話になっていました。
「真相なんか知らなけりゃ良かった」という最後の文章の後味の悪さがありました。
「怪」で「舞首」を読んだ時は改めて京極先生の凄さに圧倒されました。

当時ネットで小学生がアニメ「舞首」を見て「エログロの極致!」と騒いでいるのを見てげんなりしました。
おそらく、初めて見た深夜のホラーアニメのアダルトシーンに興奮しているであろう彼らは覚えたての言葉で大騒ぎしていました。
当時、私はこれを見て安易なエログロ要素入れるから「舞首」が子供向になってしまったと落胆しました。
年を取った今なら、微笑ましい光景だねと笑えるかもしれませんが…。

「ゲゲゲの謎」を見て、あの「舞首」の時の事を思い出しました。



〇近×相×がある!…だから、なに?

アニメ鬼太郎で近×相×を描いたのは本当に大失敗だったとしか思えません。
これで鬼太郎は、一般上映したアニメで簡単にこういう事をやる作品だと思われてしまいました。
水木先生をはじめ、貸本時代、マガジン時代、1期からの優れたスタッフさん達が培ってきたアニメ鬼太郎の看板にひどい泥が塗られてしまいました。


「近×相×が出るんだぞ! どうだすごいだろう」
って言われてもねぇ…って話です。
前述した「舞首」の件から、お子様はすごいと思ったでしょうね、お子様は。

でも大人からすれば
「だから何? それが話にどう関わってくるの?」って話です。


設定では、あの家族の女性は全員手を出されているそうですが

それを聞いても「その設定に何の意味が?」としか思えない。

 

現に、オタク系のまとめサイトでは

「おいすげーぞ!鬼太郎のヒロインて実の祖父に(以下略)」と

誤解を招く言い方で騒がれていました。

完全におこちゃまが騒いでるだけの状態になってしまいました。


あの家族は近×に溺れたせいで狂っていったとか
近い血を重ねていったせいで霊力が増したとかそういう設定でもあるかと思ったんですが
そんなもんいっさいありませんでした。
ストーリー上それが意味があったわけでもない。

安易にアダルト要素を入れようと言う発想がそもそも幼稚、おこちゃまの発想です。


そしてなにより、水木先生生誕100周年記念作品のアニメでそういう幼稚なまねをした事がいちばんいただけない。
幽霊族はそんなアホな連中にやられたんだ、となってしまう。
それが感心しません。

国民的妖怪漫画の金字塔の看板に、稚拙で悪趣味な泥を塗られた事が残念でなりません。

横溝作品だって必ずしもそれが出てくる訳じゃありません。
田舎なんてどうせそういう事してるんだろうという作り手の偏見が透けて見えます。
こんなもんただの犬神家の近×パロディAVです。
横溝先生にも失礼きわまりない。


〇ゴア描写

ゴア描写に関しては特にグロいともなんとも思いませんでした。

私はホラー映画は見ませんしゴア映画なんて見た事もありません。
たぶん見ても目をつぶってしまうと思います。
そんな私でも「ゲゲゲの謎」の死体や虐殺シーンは「ふーん」としか思いませんでした。
長女の目玉とかギャグマンガかと思いました。
水木先生の原作の血の描写に比べたらトマトジュースです。

血さえ描いときゃ大人向け、カッコいいでしょ!という思い込み自体が幼稚というか、ダサいと思います。


〇ポスターと声優さん達


血の話が出たのでついでに。
映画のポスターも意味わかりません。
トマトジュースまみれの地蔵の中でぼけーっと突っ立ってるゲゲ郎と水木青年と焦点の合わない目でぼけーっとしてる鬼太郎。
あの地蔵は幽霊族を弔うものなのでしょうか。
だとすればあの場にいるべきは水木青年じゃなくて鬼太郎母でしょう。
映画を見た後で見返すと、そんな悲しい忌み地で無表情でぼけーっと突っ立って、この人達なにやってんだろと思いました。
もっと悲しい顔とか、怒った顔すればいいのに。
あのポスターは「70年も放置しないでとっととこうやって弔えよ」という意味でしょうか。

そもそもこの映画はキャラデザスタッフが違う人なので(※1)絵に6期のような凄みがぜんぜんありません。
6期の「幽霊電車」の最後に見せた鬼太郎の表情のようなゾッとするような恐ろしい画が見たかったのに、残念でなりません。



もう1枚の、血の池の中で鬼太郎が寝ている絵。
「ゲゲゲ忌2022  アニメ特別上映会inシアタス調布」にてこのポスターが初公開されました。

声優さん達は、このときはまだストーリーについて、何も知らされていませんでした。
沢城さんが
「監督が言ってたんですが、映画を見た後でこの絵を見返すと、あぁ…ってなるんだそうですよ~」
と楽しそうにおっしゃっていました。

 

 

確かに私も「あぁ…」ってなりました。

あまりに幼稚な真相にあきれて。

そして、こんなベタで目新しさの無い後付けをとっておきのアイデアのようにドヤ顔で沢城さんに話す監督の程度にも「あぁ…」となりました。


「ゲゲゲの謎」でたっぷり女性蔑視を見せられたせいか、監督が沢城さんに言った言葉すらも、女性に対する底意地の悪さを感じてしまいましたが、それはさすがに私の勘繰りすぎでしょうか。


※1 キャラデザどころか、主要スタッフはすべて別人、6期に少し関わった程度の末端スタッフだけです。
これでよく6期を騙れたものです。バカバカしい。


〇土中誕生譚が台無し


例のポスターの話ついでに。
原作の鬼太郎は母の死体が埋まっている墓石をのけて、自力で生まれました。
これは今までのアニメでも全て同じです。

これは民俗学の専門用語でいうところの「土中誕生譚」にあたります。
全国に分布する「子育て幽霊」「飴買い幽霊」「産女」などの話が元になっています。
「子育て幽霊」の話で生まれた人はたいてい尊い人に成長しています。
「ゲゲゲの鬼太郎」という話は、長年語り継がれてきた民話がベースになっているのです。

それにあんなチープな改悪をするのは感心しません。
野暮天が過ぎる。

鬼太郎は、惨殺され薬の材料にされている同胞たちの血みどろの中、薬品工場で生を受けた?
(生まれたのはあのあとですが覚醒したのは血の中なので)

ごめんなさい。
はっきり言います。
ださい。

重い裏設定のホラゲあたりにハマった厨二が授業中に妄想して黒歴史ノートにでも書いた改悪ですか?
口が悪くて恐縮ですが、よくこんなだっさいイモ改悪でGOサインが出たもんだと思います。
おそらくこれも何か他作品のパクリなんじゃないですか?
他のホラーSFゲームかアニメ辺りにありそうで、そんな目新しい設定とは思えません。



私はそうしたホラゲ的設定がださいとは言ってる訳ではありません。


「ゲゲゲの謎」の設定は水木先生の世界観にも6期にも、単純に合ってないんです。


「ゲゲゲの鬼太郎」という半世紀も愛されてきた日本人になじみ深い民話の器に
不似合いなシール(ホラゲSFの設定)をベタベタ貼ったことが野暮天の極みだと言っているのです。
別のホラーSF作品でやればよかったんです。

なんならアニメ鬼太郎のオリキャラでやればよかった。
 

ブランドの看板たる鬼太郎本人にそれをしたのがいただけない。
「看板にそんなことしちゃうなんて!」

という発想を画期的、独創的と思うのが素人考えであり

ださい、野暮天だと言ってるんです。


〇声優さん



前述しましたが、沢城さんは
「監督が言ってたんですが、映画を見た後でこの絵(鬼太郎が寝ているポスター)を見返すと、あぁ…ってなるんだそうですよ~」とおっしゃっていました。

 

私は、劇場公開後、沢城さんが「子供向けの映画もやりたいです」とおっしゃっていた事の方が「あぁ…」と思いました。


本当に「ゲゲゲの謎」が沢城さん達6期声優陣の望んでいた映画だったのでしょうか。


まさか鬼太郎の映画なのに、肝心の沢城さんと野沢さんがこんなにないがしろにされているとは思いませんでした。

だいぶ前に公開された「なぜ、生まれてきた…」というキャッチコピーの書かれた「墓場鬼太郎」のようなポスターでは、おふたかたのお名前しか書いていなかったのに。

どうしてこうなってしまったのでしょう。


古川さんも一応はねずみ男役で出演していらっしゃいますが、あれじゃただの村人Aです。
藤井さんも熱心に「通りすがりの犬でもいいから参加させてください!」とおっしゃっていました。
藤井さんも「ゲゲゲの謎」に出ていらっしゃったようですが、誰役だったのかまったくわかりません。
おそらく電車の中か、もしくは村にいた子供あたりでしょうか。
ご本人が「通りすがりの犬でもいいから」と言ったからといってそれを真に受けて6期本編の重要なキーキャラを務めた方をまさか本当にモブ役にするとは…。

ゲゲ郎役の声優さんも好きな声優さんではあるのですが、この方は今まで鬼太郎に関わった事はありません。
ほんとうなら野沢さんで、できれば今までのアニメゲゲゲに縁のある声優さんに出てほしかったです。
今作の声優陣では、今までのアニメゲゲゲに関係ある人が妙に少ないんです。

4期ねずみ男の中の方はご本人も大の鬼太郎ファンで、5~6期にもゲスト出演してくださいました。
これだけ長い作品だし業界にも熱烈なファンも多くいるのに、そういう方が集まらないのも妙だなと思いました。

私は長年の水木ファンを自負していますが、声優ではありません。
でももし私が声優だったら、たとえ機会があっても内容を知ったらお断りします。

 

重ね重ね何度も書きますが「ゲゲゲの謎」なんていうヨタ話は原作にも今までのアニメ鬼太郎にもいっさいありません。


原作者の水木先生は6期放送前に亡くなっておられます。


「ゲゲゲの謎」は無関係な人たちが勝手に偽造したバッタもんです。


原作者の身内が考えた話だからってなんですか、親と子供は別人です。