スマートウォッチの安物を買ったのは、いまから7年前だ。1万円もしない中国製。ところが使い方が難しく、どこでも電話が鳴るので、電車で慌てた。会社の本部からの電話も、どうして出たらいいのかと切れて謝る。それはそのうち壊れて使い物にならず。安物買いの銭なくしだった。

 なんでも新しいものに飛びつくのはわたしの悪い癖だが、世の中についてゆきたいと、必死な高齢者はいまもだ。アップルの高いスマートウオッチなんか買えない。みんなiPhoneの最新の十何万もするのを平気で買うが、わたしはdocomoショップで三年前に1円で買ったスマホを使っている。それと別で、自分の今年の誕生日にと自分で自分にスマホを一万円もしないのを買って、それはカメラと音楽で使っている。今度は当たりで中国製だが、音もいいし、カメラとしても悪くない。

 と、太極拳の先輩のおじいさんが、腕につけているのが健康のためのヘルスチェックのスマートウォッチだった。わたしよりずっと年上でも、そういう挑戦しているのに感服する。負けてはいられないと、どこで買ったんですかと、ネットで購入したことを教えてもらい、わたしもまた新しくもないが、何年も前から出ていて、新聞の通販広告でも出ている腕時計を衝動買いした。それもまた中国製で6千円もしないものだった。本当かどうか、バイタルサインの血圧と心拍数、酸素濃度、歩数計、消費カロリー、血糖値、電話とメールもとれて見られて、電卓もあり、音楽も聴けて、睡眠管理もする。血液成分はどうして計るのだ。体温は正確なのかどうか。天気まで教えてくれる。ほんとうなのかと疑う。第一、血液検査もしないで、そういうのが腕にはめているだけで計測できるなら、医者はいらない。しかも、ちゃんと数値を記録までする。本当か? と疑っている。玩具ではないのかと、また安物買いの銭なくしになるのか。

 そういう健康グッズには目がないのは、健康オタクのわたしで、何でもそういうのは目ざとくあれこれと調べて比べて買う。

 それというのも、半年で親友や仲間が四人も死んだからだ。次々に仲良しでずっと若いときから文学と飲みの相手をしてきたのが、突然死んだ。それはショックであり、次はわたしの番かと思った。文学仲間の女史から手紙をいただき、わたしに親友たちの分まで、わたしに生きないといけないと、命令形で義務を負わせるように言う。まるで、その次はダメだからねと釘を刺したような。

 わたしは健康管理はしている。運動も食事も考えて、不健康な生活ではない。親友の火葬に立ち会ったとき、その娘と息子たちと待っていながら話したが、父とは真逆だと言われた。同じ老後の一人暮らしでも、わたしはいのち乞食(ほいど、で命を意地汚く惜しがる人)だから、いいことはなんでもする。健康食品からサプリメントと騙されてもしている。毒にも薬にもならないかもしれない気休めでもプラセボ効果はあるだろう。

 

 その一環がこの健康ウオッチなのだ。自分の健康管理は自分でする。誰も助けてはくれない。突然、ある日死ぬこともある。だけどその前兆はあるのだが、本人が気づかない。それをウォッチが教えてくれる。腕にはめて、スマホとBluetoothで連動されてアプリもダウンロードしたが、そこに記録がつけられる。それはいいのだが、時にはうるさい。まるで女房か専属の看護婦さんが傍についているように、1時間おきに猛暑の日は、水分補給した? と、ティーカップマークが出てきて、注意喚起する文言が流れる。天気で気温も表示されるが、それでウォッチは警告するのだ。わかった、わかった、飲めばいいんだろうと、持参しているドリンクをぐいと飲む。

 部屋でごろごろと寝ていたら、「起きて、動いて!」と、ぷるぷるとバイブでお知らせ。わかった、わかった、起きて散歩すればいいんだろう。寝せてもくれない。あまりうるさいので、通知をなしにした。それでも、これは一人暮らしで、不健康な生活をしている老人たちにはいいかもしれない。誰かが言わないと、何もしないふしだらな生活を見守る。ただ、数字はいい加減なのではないのか。体温は腕にセンサーを密着されているからある程度はいいかもしれない。血圧は最高と最低を腕のバンドで締めて計るのか。上が130の下が80と出ている。スマホにも歩数計があるが、それも目標を入れておくと、おめでとう、目標達成しましたと、教える。運動もチェックしてくれて、心拍数も異常に高くなると警告。スポーツマンならいいだろう。そういうライフログという記録も24時間計測していたら、何かあっても医者が調べたら病名が判明するか。

 まあ、腕時計として時間が一番だが、懐中電灯のように光ったり、電卓もあり、電話の着信、メールのお知らせと、小さいくせに、いろんな機能があり、これは老人には便利かもと宣伝する。いまはいろいろと出ているが、当たり外れもあるから、いいのに当たらないと安物でもドブに捨てるようなものもあるだろう。

 コロナで、こういう健康チェックのウオッチが次々にメーカーから出てくる。自分で自分の健康状態をリアルで知るのは必要だろう。それでも具合が悪いと、わたしの場合はすぐに病院に行く。市販薬は買わないし、自己判断はしない。その指標として、適当かもしれないが、信じてみたい数値が点灯している。


✳️これは買わないほうがいい。半月で液晶に線がいっぱい入り、見えなくなる。また、失敗した。