新しい掃除の場所が六月から増えた。今度は平塚駅の南側で、三か所が増えた。駅に近いが、四階建のマンションとテナントや事務所が入る会館で、管理人さんはいないので、われわれ掃除夫がその代わりを勤める。午前とは言っても二時間の契約だが、実際はやってみるとその半分で終わる。ただ、わたしだからで、普通のじいさんたちなら、ゆっくりのんびりだから、二時間びっしりとかかるのだろう。

 

 初日にマンションに自転車で行ってみる。朝はいままでは息子の出勤に合わせて7時に起きていたが、これからはまた早朝出勤で、息子が寝ているときに朝飯食べて、6時半に出てくる。早起きは気持ちがいい。歩いてもいいが、孫を夕方、保育園に迎えに行くので、ママチャリで走る。

 二回ほど現場の案内もされて、掃除道具の場所とか、掃除区域などを前任のじいさんから教えてもらう。たまにわたしにその方から電話が来て、言い忘れたことがあると、もう郷里に帰っても、気になるらしい。そのマンションに行ったら、なんともすごいことになっていた。ゴミの日に合わせて働くが、7時からの掃除が、マンション前のゴミ置き場というより、歩道の並木脇にただ、住人がゴミを積んでいて、その上にネットをかぶせているだけなのだが、カラスがつついて、ゴミの袋を取り出して穴を開け、そこからゴミが路上と歩道に散乱していた。そのゴミが風で飛んで、隣近所と向かいのマンションまで飛んでいた。それを何人かが、掃除していて、わたしを忌々しいように睨んでいる。前任者からは、そのことは伝えられていた。何度かクレームが来ていたので、カラスが来ないように、ゴミの収集車が来るまで、近くで見張っているのだとか。

 それは聴いていたが、こんなにひどいとは思わなかった。これは大変だと、箒で掃くが、と、ゴム手袋を買ってくるのを忘れた。それとゴミ袋もいる。それがないので、仕方がない、生ゴミを素手で掴む。汚いとは思うが、それよりない。住人の出したゴミ袋で余裕のあるのをまた開いて、それに突っ込む。残飯はまだいい。生理用品やら紙おむつやら、使ったコンドームなどが散乱している。それを手づかみして集める。いくら昔は古本屋で、黴だらけの本を拭いて綺麗にしたことがあっても、これはたまらない。まだ魚の骨やご飯などのほうが汚くない。

 それを袋に入れて綺麗にしていたら、向かいのマンションの奥さんがやってきて、何回もこういうことがあって、いつか話してやろうと思って我慢していましたと、わたしに言うが、すみませんと謝り、今日から初めてここの掃除を頼まれたものでと弁解。奥さんは毎度そうなので、ネットではカラスが間からほじくるので、役には立たない。いくらネットの端をブロックで重石をしていても、カラスは頭がいいから、いくらでも隙間を見つける。それよりは、ホームセンターでも安く売っている、折りたたみの籠にしたらいいでしょうと言う。分かりました、それは管理会社に連絡しましょうと、わたしにはイエスという権限がなにもない。聴いたまま伝えることしかできない。初日から、さっそくクレームでも住人同士のトラブルに巻き込まれる。カラスが悪いので、わたしは悪くないと思わず、そのカラス対策をなんとかしろと言うのは分かる。歩道だから、ゴミの籠の常設はできないから、朝に住人の誰かが折りたたみの籠を出してくれたらいい。ゴミの回収がわたしがいたときなら、それから籠を畳んで裏に運ぶのはやるが、わたしも一日いるわけではないから、住人がしてくれないと困る。ネットは誰かがかけてくれるので、それはいままで通りやってくれるだろう。

  別の日にそこに行ったら、マンションの住人の中年ご夫婦が散乱したゴミの掃除をしていた。6時半過ぎから起きて毎度やってくれていた。すみませんとカラスに代わって謝る。よそからゴミを持ち込む人がいるらしく、そいつが夜中に出すのだとか。そのことで管理会社に電話したら、出したゴミの中に領収書や相手の住所氏名が分かるものがあったら、取り出して報告と提出してくださいとお願いされたという。どうも事業所のゴミらしい。それは有料の契約なので、一般ゴミとして黙って捨てに来るらしい。その証拠で訴えることができると不動産屋は言うらしい。住人からセコムと契約しているのたでから、エントランスから駐車場とゴミ置き場がみんな見えるところに防犯カメラを設置してくれと頼まれる。そうすれば不法駐車もナンバーが分かるし、外からゴミを持ち込む人の顔も写る。一応、話してみますが、いまはどこも放置で、頼んでも知らん顔ですよと、いままでのマンションがそうだったことを話す。老朽化したマンションは問題が多すぎるので、金はかけられないのだ。

 

 隣のマンションの掃除のおばさんと話したら、カラスが来ないようにただゴミ収集が来るまで見張っているのが仕事なんだとか。それもまた大変だ。おばさんはカラスが嫌う唐辛子をゴミの周辺に撒いておくと言う。わたしはそれで思い出し、熊撃退用の唐辛子スプレーも売っていると話したら、それにするわといいことを聴いたと喜んだ。わたしがネットで調べたら、買わなくても自分で作れるらしい。その作り方を見て、さっそく自分でスプレーの容器だけ百円で買ってきて、唐辛子と焼酎と酢を入れて何日か置いたものをゴミの日にその周りにシューと撒いた。効果は果たしてあるものか。

 

 前の10階建のマンションでは、金網のゴミステーションがあった。それでも天井はネットで、そこの隙間からカラスが侵入したり、ゴミが金網にくっついていたら、そこをつついて取り出していた。穴や隙間がないか毎度見て、そこをワイヤーでくくったり、入れないようにしていた。どこもここもカラスには困り果てている。路上にゴミが散乱しているのはよく見る。あれは誰がやるのか。住人同士、誰かが掃除しないと、家の前が生ごみが散らかり、汚い。うちのマンション前のゴミ集積場も、うちだけの場所ではなく、両隣のビルとマンションも出す場所だから、隣の管理人にも挨拶しないといけないと言われていたが、こちらの帰った後の掃除は隣の管理人さんがやっているらしい。それだから、折りたたみの籠を買うにしても誰がその費用を負担するのかという問題もある。大きなものはいらないので、たいした金額でもないだろうが、その保管はうちののマンションでするのか。

 もうひとつ、前の奥さんと話して分かったのが、前日の夜にゴミを出す人がいることだ。それはネットをかける前の夜で、早朝にカラスたちはモーニングサービスだとこぞって飛んでくる。だから、ネットをかける前にすでに生ゴミは散乱した状態なのだ。それなら、前日からゴミは出さないでくださいと、よくそういう貼り紙を見るが、そうするかと奥さんに言ったら、そうもゆかないでしょう、夜晩く仕事から帰って、午後出勤の人は朝は寝ているから、ゴミは出せないので、前日の夜に出すのだから。それで籠がいいと言うのだ。

 

 火曜日に掃除している三階建のマンションでは、そこの専用のゴミ籠を並木脇に常設していた。それは歩道の使用許可をちゃんととっているのだろう。わたしはそこにいつもゴミを入れて整理もしている。そういうのが一番いい。

 カラスはいつも窺っている。わたしの存在は鬱陶しいのだ。カラスの敵になる。箒を手に追い払う。やつらも虎視眈々ではなく烏視眈々と見ている。隙を見せたらいけない。よし、やってやろうじゃないか。カラスに宣戦布告する。そうして日夜カラスとの戦争が各地で見られる。