詩集の出版を自分でやってみたら

 

 

 この半月、旅行を挟んで、同人誌のサンプルに自分の詩集をお試しで作ってみようと、取り組んだ。まずは、いまネットで『終世紀』という三年くらい続けている詩から、ピックアップして、一冊の詩集にしてみようと取り組む。それは一日で終わる。そのための編集ソフトをダウンロード版で久しぶりに購入した。いまから15年前までは、同人誌はわたしが手がけて、そのときにお世話になった同人誌専門の広島の印刷会社栄光さんにまたお願いする。

 DTPソフトのパーソナル編集長は使い慣れているとはいえ、ブランクがあるから、なんとか詩集のような簡単なものから始めるのがいい。ワードでは細かな編集作業ができない。そういう本にするなどには向いていない。

 二校まで終わり、さて、それを栄光印刷にマイページから送信する段になる。いままで使っていたメルアドでは使われていますと、15年前のものが出たが、住所も電話番号もすべてが変わったので、面倒だから、別のアドレスで会員の再登録した。

 見積りはそのときにもう出る。詩集は何編入れたのか、180ページにもなる。それで漫画ではないから、ノベルスという文集としてのセットにした。いろんなセットがあり、同人誌のスタイルで選択できる。セット内容を取り決めるのは選択するだけでいい。表紙は130キロの厚さのエンボスにしようかばふん紙にしようとかと悩む。で、両更クラフトにした。本の風合というのは紙質にもある。手触りは大事にしたい。わたしは上質紙の白は嫌いで使わない。それが無難なんだろうが、なにか安く見える。自然なほうがいいのは、蒲鉾に似ている。くろぼこと言って、漂白していないナチュラルな色合いが本物と思っていた。次に本文の紙を選ぶ。クリーム色の書籍用紙120キロくらいにした。少し厚い。本文も白では無難だが、それはイラストや写真が入るときはいいが、わたしの詩集はそんなものがないし、文字だけなので、普通の小説の単行本のような紙にする。次に選ぶのは、カバーをつけるかどうか、それによって、値段は変わるが、たいした金額でもないから、カバーをつけてもらう。その紙質も選ぶ。カバーだけは四色カラーで、写真が入り、それも自分で撮ったいままでのアルバムから選んだが、なんとなく、この先のディストピア社会への予言という写真を選んだ。表紙にも前後に写真が入るが、栄光の規定ではモノクロとあったので、カラーの写真をモノクロに直して挿入した。表紙の写真は古本屋時代に建て場という、紙のリサイクル場に捨てに行ったときに撮った写真で、本の墓場だった。裏には平塚の砂丘にいまもあるお地蔵さんの写真にした。誰か水死した子供がいて、その供養のために風車とお菓子と玩具が置かれている悲しい風景が、なんとも賽の河原の石積みの地蔵和讃の風景で、それを使わせてもらう。

 カバーの写真はカラーなので修正なしで、取り込んだ。表は平塚の砂浜に点々と続く波打ち際の足跡。裏は、京都に晩秋に旅した三年前のときのもの。高山寺から清滝川を歩いて、愛宕念仏寺で撮った石佛たちの笑顔。あだし野念仏寺の奥にあるいい寺だった。

 

 そうしていろいろと選択したら、A5判で50冊だけ作るので、すぐにその場で見積が出る。65000円と出た。安い。単行本でも軽装本で無線綴じだが、カラーのカバー付きでその値段だ。すべてデータ入稿で、十日くらいで出来上がるのだとか。わたしは急がないし、漫画の同人誌のようにコミケの期限に間に合うとかそういうものではないから、焦らない。

 

 本文と表紙とカバーをそれぞれPDFに変換してデータ入稿もマイページから入れる。それで終わったと思ったら大きな間違い。世の中は変わっていた。わたしが15年前に栄光に入稿したときは、データではなく、版下だった。同人誌の原稿を文字起こしして校正を終えた完全版下を台紙に貼り付け、センターも決めてと、糊で貼り付けて郵送したのだ。昔はみんなそうだった。それがいまはデータで送る時代になったとは知っていたが、そんなに簡単ではなかった。

 まずは、栄光さんから、再入稿のお願いがきた。表紙の背文字とカバーの背文字がずれていると。真ん中に来ないと恰好悪い。それでどうするか。向こうからはそのために表紙とカバーのテンプレートを用意しているので、ダウンロードして加工して送りなおしてくださいと指示。ダウンロードは簡単だった。ページ数と紙質も入力すれば、本の厚みの束が計算されて、センターに背文字がぴたりと入る。わたしが送った原稿にはトンボという裁断する範囲指定もないし、束という本の厚さまで考慮していないので、寸法が狂うのだ。それは向こうではいくらいくらの縦横の寸法でとやり直し。そのサイズにユーザーカスタマイズで直して送るが、それもずれていると印刷製本がストップしたまま作業ができないと返信してきた。テンプレート通りにしてほしいと。そのテンプレートが加工できない。文字と写真の入力ができない。どうも拡張子が違う。それでネットで調べたら、AIというのは画像で、そのためにイラストレーターやフォトショップが必要だと出た。それはいくらするのかとAdobeを見たら高い。何万円もする。無料のものはないかと調べたらが、ダウンロードできない。タブレットはWindows11だが、環境が違うのか。頭にくる。たかがサンプルで作るのにソフト購入の費用がかかりすぎる。それ専門で同人誌印刷を仕事としてやっていたときなら必要なコストだが、老後の暇つぶしには高額だ。そこで止まった。

 どうするかと栄光さんとメールで相談。きっと若い人たちばかりが漫画で使っている会社に、高齢者が利用するというのもないのだろう。フォトショップもイラストレーターのソフトも持っていないと相談したら、親切に別の上司の方か、返信がきて、それなら、こちらに任せていただければ、こちらでやりますと来た。そうしていただけたら助かりますとお願いした。細かいことは気にしません。納期も別に期限はありませんからと、みんなお任せにした。背文字は面倒だから削除した。なくてもいい。ずれるよりはいい。ようやくゴーサインが出た。よかった。

 版下切り貼りの時代から、突然データ入稿へと飛んできた浦島太郎だった。大丈夫か? 世の中はデジタルに移行して久しい。わたしも乗り遅れないように勉強しよう。