われらが仲間の出版社社長が急逝して、青森ペンクラブも困った。われわれの同人誌もいまだに出せない状態で、彼のパソコンに入っている。緊急役員会で、今後のことをどうするかと先のペンの総会で話し合われた。誰もペンの会誌と会報の編集と印刷をする人がいないと、そうした印刷物や本を出すことができなくなる。

事務局長もしていた社長は、大きなモノクロレーザープリンタを持っていて、それで、実は本文のプリントまでしていたのだ。それを会員は知らない。紙代とトナー代だけをペンに請求して出してもらっていた。表紙のカラー印刷だけはオフセットで、印刷屋に頼み、そこで製本もしてもらっていたので、会誌は安く仕上がっていた。160ページ前後で200冊か300冊ぐらいの部数であったろうか。いまは会員数も減って、50数人だから、一人2冊としても120冊あればいい。後は青森の地元の書店といっても、みんな潰れてひとつよりないが、そこで売ってもらう。

その印刷製本に30万くらいが前はかかっていた。今年はどうなのか。それは彼のパソコンの中に決算報告が入っているので、確かな費用は判らない。問題は外注するかどうかだ。どこかの出版社に丸投げすれば、今度は彼がしていた文字起こしというものが有料になる。いままでは彼はペンのためにボランティアであった。それがすべて費用になるというと、200冊の本を仕上げるのに、50万ではきかないだろう。会員がすべてパソコンができて、データでメール添付で送ってくるのではない。おじいちゃん、おばあちゃんたちばかりだから、原稿用紙に震える字で書いてくる。中には、切り貼りして、ここに挿入という指示があったり、20枚の短編小説もテキストで打たないといけないとか、それに時間がかかる。いまはどれぐらいか。文字数にもよるが1ページあたり2000円とか取られる。もっと取られるところもある。

本文はスミ一色でいい。いまは白のコート紙を使っているが、書籍としてはクリーム色の書籍用紙も同じくらいの値段だ。そのほうが本らしい。表紙の表と裏には写真が入るので、表紙だけはオフセット印刷にしないといけないが、同人誌印刷の会社では、それはたいした金額ではない。問題は、本文までオフセット印刷にすると料金が三割とか上がる。少部数の印刷製本では、オンデマンド印刷が安くなる。いままでも、彼がしていた自前のレーザープリンタで出していたので、それは同じで、見た感じは変わらない。それなら、三割は安くなるオンデマンド印刷でいいとなる。

同人誌というと、どうしても安く、見てくれが悪いと思われているが、いまはかなりよくなっている。わたしが、前に青森にいたときは、詩の同人誌も息子たちがマンガの同人誌で頼んでいた広島の栄光とか長野とかにあった同人誌専門の印刷会社に頼んでいたのを聴いて、そこに頼んだ。詩の会員は8人よりいない。それで100冊作ればいいので、A5サイズで、表紙はカラーにして、本文30ページぐらいはスミ一色にした。詩だから、一人2ページぐらいで済む。それに目次とあとがきと同人名簿、遊び紙が入る。それで費用は14000円だったから、一人2千円の徴収で間に合った。10冊ずつ配布して、残りはペンの仲間に配ったり、図書館や文学館に贈呈した。本を作るというのは、そういう発送費用も手間もかかる。

 

わたしが懇意にしていた弁護士先生に頼まれて、同人誌「遥」をやらないかと誘われたとき、その編集をやることになった。頼まれて引き受けたときは、会員さんも10数名で、後でその倍くらいに増えたが、ページ数も最初の第一号は50ページぐらいが、どんどん厚くなり、300ページまでなった。それはもう単行本だった。それを隔月で出していたが、その編集と版下作成のために三日間はびっしりとかかった。手書き原稿は文字起こし、校正も郵送で出さないといけない。そのとき、わたしは古本屋で自費出版や簡単な新聞などを仕事で引き受けていた。まだパソコンが普及してくる前で、大きなキャノンの電子編集機を使ってやっていたが、それはフォントが明朝とゴシックよりないので、割合といまのパソコンよりは初期のものでなんでもできなかった。記録保存はフロッピーディスクだった。

それからパソコンになって、パーソナル編集長という編集ソフトに出会い、それを導入したら、なんとも使いやすい。仕事としても捗る。古本屋の仕事がボランティアの同人誌で何日も潰れるので、息子が怒った。ただでも貧乏な古本屋に、ボランティアはあるかと。時間も金だと言う息子の気持ちは判る。それで、先生に同人を抜ける話をしたら、先生が編集をするというので、ソフトのディスクを貸して、やり方を弁護士事務室で教えた。先生も忙しい人だから、大丈夫だろうか。それからまもなく、同人誌は終刊した。

そういうことがあって、いま、またパーソナル編集長のダウンロード版を購入して、まずは、手始めに自分の詩集を出してみようと、サンプルのつもりで完全データ入稿できるまで推敲もした。ここ三年で書いて、ネットでアップしてきた詩の中で、笑えるものばかり集めた。そう深刻な詩で難解なのは書けない。どうでも笑ってくれたらいい。ピックアップした詩集は180ページになった。表紙はカラーだが、写真は自分がいままで撮ったものがいっぱいあるので、その中から選んだ。スマホだから、画素数は800万画素とかたいしたものではないが、扱いが小さいので、そんな粗は気にすることはない。本文は書籍用紙にしてもらい、50部より作らないので、オンデマンド印刷と安くした。カバーもオプションで付けられるというので、カラーで羊皮紙に印刷してもらうよう版下を作った。文字もいっぱいある。昔は少なかったが、いまは選び放題だ。オンデマンドはスミにてかりが出るのが難点だが、スミベタ面積が小さいと気にしない。印刷と紙と書籍としての風合いは大事なのは、古本屋を何十年もしてきたからよく判る。製本は無線綴じにして、ノンブルはシンプルに小さく扱う。詩集だから、目次はなしで、あとがきというシラケたものは書かない。奥付には私家版とした。価格を取るような詩ではないので、非売品なのだ。無料配布で終わりだから、あくまでもどういう出来か見るためもある。あの同人誌を作っていたのが、いまから15年前だから、あれから随分とよくなったろう。遥の同人誌は青森市内の書店七か所に自分で卸して歩いた。その返本と代金回収までやる。青森、弘前、八戸の新聞社にも送り、記事にしてもらい、図書館にも送る。同人誌でなく、個人の本であれば、国会図書館にも二冊送ることになっていた。自費出版社をやめてからも、国会図書館から前年に出された出版物はありませんかと手紙が来ていた。

 

われわれの同人誌がいま宙ぶらりんになっていたので、それはわたしがやることになるだろう。みんなパソコンができるので、データで原稿をもらえたら、楽ですぐにできる。ところが、一人長老さんが、データも怪しく、ワープロで書いたような原稿そのまま先日の総会のときにいただいてきた。スキャナがあればOCRソフトでテキストにできるのだが、スキャナも買わないといけないかと思っていたら、いまはなんとスマホでできるのだ。無料のOCRという文字認識ソフトをスマホにダウンロードして、長老の原稿をスマホのカメラで撮影すると、それがすべてテキストになって保存された。文字の誤変換もなく、綺麗に入る。ページごとに写真を撮って、彼の原稿をすべてわたしのパソコンに入れられる。世の中は便利になったと感心する。スキャナもいらない。高いOCRソフトも買わなくていい。なんと15年後はよくなったことか。思えば、わたしが20年前に使っていたデジカメは30万画素であったし、プリンターの解像度は300dpiで、それが20年経ったら、4800万画素とか、2400dpiが普通になる。昔は粗く汚かった文字も画像もいまはくっきりと綺麗になったのか、それを確かめたい。