息子は青森にいたときから、全国を網羅する運輸会社の青森営業所の内勤をしていた。古本屋が倒産してから、一時、季節労働者みたいに群馬県のスバルの組み立て工場に出稼ぎで行っていたが、四年前にそこの面接を受けて入り、運行管理者の資格を取って、運行支持をしたりしていた。内勤は事務だから給与は安い。それよりはトラックの運ちゃんのほうがずっと給与はいい。それも昔の話で、いまはあまりよくないと聞いた。

 平塚に引っ越してきて、社内で異動の申請をし、厚木営業所に昨年の夏から転勤してきて、平塚から車で通勤していた。それが、パワハラで半年で辞めることになる。

 いくらでもいまは仕事はあるから、東京も通勤圏内に入れて次の転職を探していた。横浜まで30分で通えるから、いい会社はある。息子もまだ40才だから、いままでよりもいい仕事はあるだろう。と、面接を受けて入ったのが、平塚の会社なのだが、運送の仕事で、内勤ではなく、最初は配達員になる。湘南一帯のアマゾンの下請けのようで、それが忙しい。車は軽の新車を与えられて、それで倉庫に出勤し、そこから配送。制服もあったらいいと、いままではなかったのが、息子の提案で作らせた。それを着て、大船、鎌倉、辻堂、湘南台、横浜市瀬谷区まで広いエリアを配達して回る。朝は7時過ぎに起きて、朝飯も食べず、子供を保育園に連れてゆき、そのまま出勤。夜は毎日10時は過ぎる。遅くなると12時に帰ってくる。晩飯もいらないと、寝てしまう。疲れ果てていた。家で作るご飯は、翌朝に弁当に詰めて持ってゆくのだが、家では食べない。大丈夫かと健康が心配になる。それで、エナジードリンクをいつも用意してテーブルに置いてある。

 さっそく事故った。追突で、相手も会社の車でバンパーだけのようだったが、向こうはむち打ちのように首を傷めたとか。保険ですべてやるが、配送の運転手はそれが多いから怖い。息子の話では、iPhoneを見ながら、ルートを走るようなのだ。ナビもあるが、iPhoneの地図のほうが混んでいないルートを教えてくれるのだとか。どっちも脇見運転にはなる。それがなければどっちに進めばいいのか判らない。まして、担当の区域は鎌倉なら、狭い谷戸の奥まで入っても、バックで戻らないといけない行き止まりばかり。道も狭い。人身事故だけは気をつけろよと話している。母親からは、案じて数珠を送ってきた。お守りみたいなものだ。

 体力も使うし神経も使う。それで、勤めてひと月半でげっそりと8キロも減量した。膝も痛く、整骨院に通う。痛風まで出て、歩くのが痛くてかなわない。それに加えて花粉症、三重苦で働いている。運転手も不足していて、入ってもそれだから、すぐに辞める。息子はいままでの内勤よりも体を使うから運動になっているというし、精神的ストレスはないという。人間関係で辞めたので、一人仕事は気楽でいいという。

 

 息子の話を聞いていると、いまの配達の仕事が如何に無駄で大変なのか判る。政府は、この4月から、ドライバーの残業規制をして、働き方改革をする。それが2024年問題となっているのが、いまなのだ。そういうときに息子はそこに飛び込んだ。改善したいところはやってみて判るという。政府が残業だけを捉えて政策を実行に移すのではなく、配達員に実情をよく聞いて、その問題点をまとめて対処しないといけないのではないのか。時間の問題だけでは解決しないと、息子の話でよく分かった。

 時間指定の配達をすれば、配達員の負担が軽くなるのではなかった。われわれはシロウト考えでそう思っていた。不在票を書いて入れて、再配達も大変だが、それよりも時間指定は、その時間にまたそこに行かないといけない、ルート変更と何度も同じ道を行ったり来たりしないといけない時間の無駄が発生するのと、時間に追われてストレスが溜まり、焦って事故を起こすのだ。

 息子が頭にくるのは、小さな封筒は、郵便受けでいいのに、大きな団地やマンションでもドアまで持ってきてくれと、住人が横着することも負担になる。封筒の小さな配達物は重要なもの以外は全部郵便受けでいいではないか。それがセキュリティを何度も通り、長い廊下を歩いて、エレベーターで上まで、そして住人に手渡し。その往復の移動時間と距離はすごく疲れるという。中には足の悪い高齢者たちもいて、郵便受けに取りに行けない人もいるし、高齢化した大きな団地では、いくら呼んでも出てこない。耳も遠いし、認知も入り、老人マンションも行きたくないという。

 水の配達も大変で、それはやりたくないという。ミネラルウォーターが24本入ったダンボール箱は30キロはないが、かなり重い。それをマンションの20階まで運ぶ。一個いくらの配送料でも水は効率が悪く、第一、それで膝と腰を傷めた。水の配達はいまは増えて、どこでもサーバーを設置して飲んでいるが、日本の水は安全で富士山も見えるところで、美味しい水とは思うのだが、そういう贅沢をしている家が多い。

 置き配は盗まれないかと、心配はするが、盗まれる確率はかなり低いらしい。何が入っているか判らないもので、そういうものを盗んでも金にはならない。まして、高額商品は置き配はしない。盗む人も金になるかどうか判らないものに手は出さない。それだから、置き配はいいのだ。うちのマンションにも宅配ボックスがあり、そこに入れてくれる。大きなものは入らないが四つあるロッカーみたいなものに、慣れている郵便局や佐川、ヤマトは入れてくれる。だから時間指定もいらないし、留守でもいいから、それは効率がいい。前のマンションはドアの横にガス管のパイプスペースがあり、そこに配達物を入れてくれていた。郵便受けに入らないものは、そこにたいていは入る。置き配よりは通路が邪魔にはならない。

 とにかく、いろんな工夫をして、配達員の負担にならないように、国民に呼びかけて、一日二日かかってもいいから、配達日数が増えても文句は言うな、できるだけ再配達をしないように協力する。そのために宅配ボックスの設置に政府は補助金を出すとか、そういうことで配送問題を考えたほうがいい。現場の声を聞かないで、労働時間の短縮と、それだけでは解決はしないのだ。

 これを書いているときに、日経新聞に書かれていたのが、ヨーカドーが食品だけでなく、買い求めた商品を最短20分で配達する配送を再来年までに整備して行うサービスを始めるとあった。オニゴーという配送サービス業と手を組んで、配送料は10%から20%は高くなるが、車のない人や高齢者のためにそういう配送を行うというのだが、果たしてできるのか。時代に逆行するようなサービスを始めて、何かおかしい。運転手不足で、郵便局も値上げして、配達日数が一日二日は遅れるというときに、経営陣は何を考えているものか。

 

 息子と昔はどうだったという話をしていた。宅配便なんかなかった半世紀以上昔の、わたしの若いときは、鉄道で送った。チッキと言って、ダンボール箱に荷札に住所を書いて、紐で縛ったところに荷札の針金を巻きつけて、それを自転車で駅まで運ぶ。りんごなんか重いのに、よく運べた。丸通の荷物受付窓口で出した。赤帽さんが荷物を列車まで運んでいた。東京の学生生活のときは、列車の切符があれば、その手荷物扱いで安く送れた。実家からなんでも食料を詰めて東京に送らせた。台所を探して、缶詰とか調味料、乾麺など、あるものを詰めた。それだけあれば、半月は喰えるとか。

 そういう時代で、後は郵便局の小包だった。近くの郵便局に持って行って出した。いまのように、翌日配達とか、昨日はアマゾンからサプリを頼んだら、朝にネット注文したのが、夜に配達されていた。どうしてそんなに急ぐのか。こっちは四五日かけてもいいと思っているのに、なんでも早くなるのが、配達員の負担になっている。これは消費者側の意識も変えてもらわねばならない。早く欲しい人もいるだろうが、そういう人には特急料金で別に高く取ればいい。運送はそれに関わるすべての人の意識改革で、みんなで協力しないと解決できない。遅くてもいい、料金がかかってもいい、できればコンビニに取りにゆくぐらいでないと、無理がどこかにかかる。昔に戻って、配達も考えないと、これはみんなの問題なのだ。