日曜になるとどこかにゆきたくなる病で、息子たちとは別行動。それでわたしはまた元の一人暮らしのときのような時間ができた。息子たちは車ばかりで、わたしもそれについて行くと歩かない。自転車ばかりだし、歩くこともしなければ。

 一昨年の三月初めに、小田原の下曽我に梅を見に行ったが、そのとき、太宰治が太田静子を訪ねて下曽我の静子の別荘に滞在したとあったので、そこを見に行くつもりが、見つからずに諦めた。今回は、下曽我散策コースの地図をネットで見つけて、その中に別荘の大雄山荘があったので、リベンジで行ってみようかとなった。

 下曽我は梅園もあり、小田原市の郊外だが、何もない田舎だった。たしかコンビニはあったが、自分でおにぎりを作り、おやつにドリンクも作って持ってゆくことにした。

 昨日までは雨で毎日ずっと暴風雨であったが、ようやく晴れた。それっとばかり出かける。平塚から東海道線で三つ目の国府津駅で御殿場線のローカル線に乗り換えて、一つ目が下曽我駅だった。前にもそうだったが、そこからの駅はPASMOが使えないで、手動で改札口で駅員さんが引いてくれる。下りたところには何もない。二度目なので、地理感覚はある。駅横に梅の里センターがあったので覗いてゆく。トイレも確認した。センナ茶を飲んできたので、朝から二度もトイレには急行していた。大丈夫か。トイレのない田舎では困る。

 

 まずは歩いて、宗我神社まで坂道を歩いた。そこだけ曽我と字が違う。途中に、ここの出身の尾崎一雄の文学碑があった。『むしのいろいろ』からの一節が刻まれている。尾崎一雄は、『すみっこ』という小説が好きで、うちの息子も片耳が聴こえなくて手術をしたが、その折りにちょうど読んでうるうると泣いた記憶がある。尾崎一雄の墓もあるというが、地図は簡略化したもので、その横道を探したがない。小路を入っては畑で行きどまり。諦めた。宗我神社に入る。おばあちゃんが一人いていいカメラで写真を撮っていた。境内の大きな木の上を狙っている。見たら、宿木か。枝にいっぱいまんまるいぼんぼんりのような寄生している緑が見られた。わたしはおばあちゃんに、「あれって、宿木ですよね」と聴いたら、そうですと、二人して珍しいと言い合い、わたしもスマホで写真を撮った。望遠にすればボケるから、おばあちゃんのようなちゃんとしたカメラがあればと、実はこの日の夜に頼んだ一眼レフの安物が配達されるのだ。スマホは五年も使って、バッテリーが劣化してもう使えない。それはまた後日のブログで。

 次にそこからぐるりと回って、太田静子の別荘、大雄山荘の跡地を探して歩いた。10数年前に火事で全焼してからは、何も残っていないというが、その太宰と静子が歩いたであろう風景に立ってみたい。判りにくいところで、傾斜地に畑と家々。農家のおばあちゃんが作業をしているところで聴いたら、教えてくれた。城前寺の先という。その寺はすぐで、境内には曽我兄弟の菩提寺とあって、子供の兄弟の像もあった。父の敵討ちで有名だが、小さな五輪塔の墓二つもあって、お参りしてくる。

 寺から先に行くと、何もない藪に柵だけ回してあるところがかつて別荘のあったところのようだ。芭蕉が一本立っていて、石灯籠が摩耗してかろうじて、そこに人間が暮らした形跡を残していた。よく見たら、そこを先ほど通り過ぎていたのだ。なんだ、歩いて探したところじゃないか。その前の農地の縁石に腰かけて、昼飯のおにぎりをはむ。きっと、この石に太宰も座ったかもしれない。おにぎりは食べなかったろう。太田静子の日記を拝借して、そこから名作の『斜陽』が生まれた。戦前戦後にもここを太宰は訪れ、医者の別荘で、裕福な生活の一片を覗いた。

 

 目的は達成したので、今度は梅だ。小田原は梅干しが名産で、下曽我にはいくつもの梅園がある。一昨年はそれを見に来たが、今年は早く、看板には、「梅まつりは終わりました」とあった。見たら、花は散り始めていた。売店もないようだ。一昨年は1リットルの梅酢が300円で売っていたのを買ったし、梅のお菓子も出張販売の店で買った。それがいまはもう終わっていた。と、通り道の農家の軒先で、みかんなどの即売をしていた。覗いたら、湘南ゴールドやレモンのB級品と色が悪く小さいが、袋にいっぱい入って百円だから買い求めた。蜂蜜レモンのドリンクをまた作ろう。

 ハイキングコースの地図を見ながら、次に寄ったのが二宮尊徳の遺髪塚。その辺りに実家があった。歩きながら本を読む銅像と碑があるところで休憩。満江御前屋敷跡が公民館になっていて、それもちらりと見た。梅はもう終わりでも咲き残っているだろうと、曽我梅園に入る。前にも見たときは満開で人も車もすごかったが、誰もいない。それでもしだれの紅白が咲いていたので写真。それをいとこ会のLINEに送る。青森の従妹からは、こちらは積雪20センチですと返信。すみません。

 

 と、ここまで来たら、下剤の漢方のセンナ茶が効いてきた。腹はぐるぐる。仮設トイレはあったが、使用禁止でテープが貼っていた。大変だ、どこかにトイレがないか。梅なんか優雅に鑑賞しているときではない。線路の上を歩道橋。その上に立つと、遥かにショッピングセンターが見える。そこまで間に合うか。後は畑ばかりだ。急げと、もじもじと小股で走る。農家の人が畑仕事をしていた。そこで、いまはたい肥は高騰していて大変でしょう。できたての湯気の上がっている産地直送の下肥が無料でいまなら使えますが、いかがでしょうか、中身は保証します、栄養のある自然のものばかりでできていますから、添加物はありません、と懇願して、畑に直播したい。

 そんな冗談を考えているときではない。ようやくスーパーのロピアが見えた。間に合った。トイレに入り、どっと疲れる。スーパーでもまたいろいろと買い物。日曜で混んでいる。その先にヨーカドーもあり、さらにショッピングセンターやホームセンター、飲食店が並ぶ。小田原市の郊外の鴨宮だ。何度か買い物にも来ていたところ。姉からメールで、桜餅を買ったと書いてきたので、おれも食べたいと、ひなまつりの日で、甘党だから、さっそくスーパーでそれも買う。またマックでコーヒーの休憩で読書とブログを書いてと、そこまで歩いて2万歩だから、そこから国府津駅まで歩いたら、ダウンするか。途中の座れるところならどこでも座って、休み休み帰ることにした。梅は終わって、次は桜か、春は花見に忙しい。