コロナで忘年会も新年会もなくなった、ここ数年だが、今年から、また、太極拳の仲間たちは、春先の会食をしましょうと、みんなで体育館での練習の後に、各々の車に分乗して、北側にあるいまいという寿司屋に集まることになった。いまいは、ランチも個人の受け入れもしていない、予約制の団体さん専門の店らしく、住宅街の中にそういう店があることすら、わたしは知らなかった。地元の人たちの間では、知る人ぞ知るといった店なのだろうか。

 うちの孫娘たちが通う中学の近くにあり、その辺は店もないし、とりわけて行くべきところもないので、通ったこともない。中学には運動会のときに行ったきりで、息子は親としては面談に行ったりはしていたろう。

 いまいの駐車場は広い。車が何十台か入れる。それは団体さん専門なので、また、車でなければ来られない場所にある。バスで来ても、少し歩くし、細い道を入ってきて、かなりややこしい場所にある。

 

 練習はいつも土曜日の1時からなのだが、その日だけは11時からの2時間の練習にして、早めに終わると、総合運動場からは車で5.6分で来るところだが、そこまで向かった。私は歩いても自宅からは行けるが、車で行くから乗りなさいよと、おばさんたちと一緒に便乗した。うちの近くに暮らしている仲間のおばさんは、自転車で体育館に来ていて、そのまま自転車で向かったが、車より先に着いていた。

 

 いまいは、古い店らしく、寿司屋というよりは料亭と言った雰囲気で、古い門があり、庭は手入れが行き届いて、風格も感じられた。松の木が上は切ってあるが、下の枝をみんな残して、それが地上を這うようにさせているところは、庭師のこだわりと芸を感じさせた。

 中には小上がりもいくつかあり、少人数の会食もできるようにはなっている。われわれは15人だから、大広間に用意されていたが、畳の部屋に敷物で、椅子と大きなテーブルで助かった。足が悪いわたしは、長時間座るのが苦手で、和室で座卓ならどうしようかと思っていた。それが椅子なら楽でいい。

 床の間には古い掛け軸。横額にも描かれた絵が江戸時代のものかと思う古さが、その店の格式を伝える。仕切りに使う衝立障子には、カルタのサイズの和紙が貼られているが、その絵柄がみな違うので面白い。それをわたしが指摘したら、女性たちは感心したように、わたしが気がつくと言うのだ。古いものが好きなのと、古本屋時代からの癖で、ついつい値踏みもしたくなる。

 その素晴らしい庭を眺めながら、会食が始まるのだが、その前に、いつもお世話になっている先生に花束贈呈のサプライズ。みんなと申し合わせていたようで、わたしも知らなかった。乾杯の発生は一番の長老、御年は知らないが、八十は越えている三段か四段か、それも知らないで申し訳ないが、先生の次に教えてくれる元気な男性から。その方が持ってきたのが20年くらい前の集合写真で、このクラブが発足したのがそのころで、みなさんまだ四十代前半でお若い。髪も全員黒く、そうなんだと、ビフォーアフターを比べて眺めていた。

 車で来られている人はノンアルで、わたしと何人かはビールで口を潤す。最初に膳がついた。料理も並ぶが、どれも品がある。刺身に天ぷらも出て、茶碗蒸しから、鯛のおすまし、焼き魚も鯛だろうか。さんざん食べた後に、どんと握り寿司が出た。それだけで、普通は会費ぐらいだろう。最後にアイスが出たが、長老は乳製品がダメというので、わたしがいただく。甘党とはみんな知っている。

 クラブの歴史とはいっても、今世紀に入ってからだが、その前の話も出て、半分は入れ替わったが、みなさん続けている。昔はいまの演技の倍はやられていた。四十八式というのもあるし、カンフー体操もやっていた。いまは、二十四式と三十二式の套路のほかに教えてくれるのは三十二式と四十二式の剣で、四つを毎回繰り返し教えてもらっているが、まだまだあるのだ。それは若かったから、みなさん覚えたようだが、いまはもうダメと言う。体と頭がついてゆけない。わたしも四十代のときはまだ馬力もあったし、へこたれなかったろうが、七十過ぎてからは、運動は可動範囲がますます狭くなる。

 

 みんな年配の人たちが寄れば集まれば病気と医者と薬の話。わたしが緑内障だというと、それはどういうものと聴いてくる。視野が狭くなり、点眼薬で進行は止めているが、完治することはないという。それで視野が左目だけ狭くなるので、みんなと合わせて演技するときに、左側の人が見えないのだと話す。血圧の話にもなり、年恰好が同じなので、食事療法の話には耳を傾けている。

 

 食事会が終わり、庭を見て、江戸時代の古い門も見学。銅板が貼られたところは緑青でふいてそれなりに古さは感じられる。銅で作られた細工ものが飾られているのは照明で、それは新しい。郵便受けの口が鬼の口になっているところが面白い。

 平塚だけではないだろうが、歴史ある街では、こうした何百年か昔の門だけはそのまま残してあり、現代建築と不思議にマッチしているのがいいと見て歩いている。あちこちに残されているのだ。うちの住まいの周辺にも点在してあり、門くらべもしてみる。

 

 今度は夏にビアパーティもいいなと、そういうことも話に出てくるだろうか。それにしても以前はみんなでよく集まったのが、コロナでやらなくなった会食も久しぶりで楽しい時間をもてた。先生にはLINEで撮った写真を送って、またやりましょうと書いた。そんなに酔うほど飲んではいないが、食事を楽しむのがメーンでよかった。