買って住みたい街の関東での第二位に平塚市が選ばれた。毎年やられているようで、去年は平塚は三位だった。人気が上がっている。わたしは別にそんなことを調べて千葉から移住してきたのではなかった。海の傍で暮らしたいとは若いときからで、学生時代にも板橋から半年だったが、横浜の山下公園まで歩いてすぐの中華街裏に下宿した。青森でも浅虫温泉の海の見える少し高いところに土地を買って家を建てた。自室のベランダからはむつ湾と湯の島が見えた。

 四年前に、東京も嫌になり、千葉は稲毛に引っ越したが、そこも自転車では稲毛海岸までは15分で行き、よく夏は泳いだ。湘南で暮らしたいとぼんやりと思い付き、探しに歩いたのは三年前だった。ちょうど一月二月に海辺の街がいいと、伊豆の西海岸と東海岸も候補にして不動産と街の住みやすさを確認して歩いた。静岡までなら東京に通える。仕事は辞めてリタイヤしたので、別に通勤圏内は意識しなかった。どこでもマリンスポーツができて泳げるところならよかった。

 それ以前から、よく東京にいたときも泳ぎに湘南には来ていたが、三浦半島もぐるりと一周したし、葉山から逗子、鎌倉、江の島、大磯、小田原、真鶴、熱海と各駅停車のように降りて散策し、ネットで賃貸情報を得て、マンションを見に行ったりしていた。そのときは、平塚という地名は念頭にはなかった。茅ヶ崎や鵠沼は有名だが、どうもビーチでは平塚の名は出てこない。あれは三年前の三月初旬だった。そのときのことは、別のブログの『コロナノコロ』というのに書いている。たまたま、電車で通りかかって、ふらりと途中下車したのが初めて降りる平塚だった。北口の不動産屋の看板がいっぱいあって、その中のひとつに飛び込んだ。年金だけで生活するので、ワンルームでできるだけ家賃は安いほうがいい。それで海まで歩いて20分以内という条件で探してもらう。いくつかピックアップして、前に暮らした追分という街中や駅まで歩いて20分以内で行けるところに決めた。そこに昨年の夏まで暮らした。もし、息子一家と暮らすのでなければ、いまごろは沖縄に移住していたかもしれない。

 二年住んだら飽きる性格なので、いままでも二年おきに引っ越しばかりしていた。最初の平塚の感想は、駅前からして青森と同じく商店街でアーケードが続いて賑やか。田舎でも都心まで東海道線で1時間で通勤圏内だ。それと商店を歩いたら、どこか青森と同じ臭いがした。人口は26万でふるさとの青森市よりはやや小さいが似たようなサイズで、海があり、川があり、山が見える。千葉と東京は山は見えなかった。ららぽーとのショッピングセンターが大きくあり、スーパーもいろいろとある。買い物は便利そうだ。青森の中心地には善知鳥神社が街のシンボルとしてあるが、ここ平塚にも真ん中に平塚八幡宮がある。ただ、歩いてみて驚いたのが、青森よりも活気があるのだ。それは青森にはない工場がいっぱいあって、北側一帯は工場地帯で、大手の企業の工場で埋められている。そうか、ここは太平洋ベルトラインだった。それも、茅ヶ崎や藤沢、大磯などの近隣都市には工場はあまりないが、平塚は工場だらけで、空気が悪いのじゃないのかと思ったが、そうでもなく、住んでみたら、騒音もなく、公園はいっぱいあり、うちのマンションのすぐ裏には総合運動公園があり、草原や子供の遊び場、無料の動物園に薔薇園、日本庭園に水遊び場、池に噴水、野球場に体育館、湘南ベルマーレのサッカースタジアムと、これは楽しめると思った。さらに大きな美術館もわたしの年では無料で、博物館も充実している。歩いて10分のところにある図書館も蔵書はかなりありそうだ。

 そうして、海まで歩いたら、砂丘があり、ビーチバレーをしていたり、サップやサーフィンをしている若者たちでいっぱいだ。よし、ここに決めたと契約した。家賃もワンルームで七階建の五階で、富士山と丹沢国定公園の大山が見えて、家賃は29000円だった。そういう物件がごろごろとある。東京では千代田区のど真ん中で暮らしたが古いワンルームで8万くらいとられていた。二人で暮らしていたが狭かった。

 飲み屋もすごい。工場の工員たちも多いだろうから、夜の街も華やかで、クラブや居酒屋はいっぱいひしめきあっている。そのせいか、やんちゃも多いし、がらが悪いと昔は言われたが、いまはそんなこともなく、治安はいいし、事件も少ない。それを見た息子は、今度、開拓しようと、孫を元嫁に任せて、二人で飲み歩きたいという。わたしは酒はあまり飲まないので、平塚に来て三年、太極拳の仲間たちとは居酒屋や小料理屋で飲んだこと以外、一人では行かない。年金生活ではそうそう飲み歩ける予算なんかない。

 息子が今回は、また転職を考えて動いているが、仕事はいくらでもある。その点も平塚は仕事の場としても、家賃の安さ、物価も安いので、生活条件は揃っている。東京からこちらに来ると、野菜と果実と魚は嬉しい値段だ。暮らしやすいということもある。移住したい第二位というのは納得する。三年暮らしてわたしも思う感想だ。東京は一極集中で人口は増えているが、地方はどこも人口減で毎年下がり続けている。が、ここ平塚と隣の茅ヶ崎は人口が増えてきている。移住者が多いということだ。それでマンション建設で市街地はあちこち工事をしている。東海道の宿場町という歴史もあるし、戦前は文化人や作家などが別荘を構えたり、隣の茅ヶ崎と大磯もそうだし、鎌倉も近いので、文学散歩は楽しめるくらいある。青森と同じく昭和20年の7月に空襲でぺろりと焼けてしまったので、古い建物は残っていないが、それだけに新しい街の息吹は感じられる。市長もまだ若いから行動力はありそうだ。

 去年は北側にイオンのアウトレットモールもオープンし、東海道線南側に近く大型ショッピングセンターがオープンする予定だ。駅ビルの商業施設ラスカも充実していて、わたしはそこで来客があると飯を喰い、屋上庭園が好きな場所で案内する。昨日もそこで本を読んで日焼けしていた。

 自然が多く買い物便利、なによりも海があるのがいい。湘南というブランドも聞こえはよく、平塚で暮らしていると言っても、そこはどこ? と聴かれるのが面倒くさく、湘南ですと答える。引っ越して半年の息子を小田原や箱根の温泉に30分で行くから連れてゆき、湘南平のパノラマを見せて、神社巡りをさせ、花菜ガーデンで孫を遊ばせと、遊ぶところがいっぱいあるから、そうか、親父が移住した理由が判ったと、気に入っていた。釣り道具も青森から持ってきたので、これからは釣りも孫としたいと言う。遊びも暮らしも自然と共にできる街、平塚はいま人気沸騰なのだ。