保育園の先生から何かあると息子に電話がくる。わたしが夕方、自転車で迎えに行ったときも保母さんから言われる。四歳児の孫が歯が痛いと泣くのだとか。それはそれはとパパがあちこちの小児歯科に予約の電話をいれていた。それがどこもいっぱいで断られる。後でその理由が判ったのだが、夕方の時間帯はどこも予約でいっぱいなのだ。歯科から空いている日にちは再来週の何曜日の何時ですと言われる。こっちの都合では予約なんかできない。保育園に迎えに行ってそのまま歯医者へというお母さんが多いから、そうなる。仕事もしている人も多いので、昼間の予約とか午前の予約しかできないのだ。

 孫はご飯を食べたら、保育園では全員に歯磨きをさせている。家ではパパが毎度やっているが、本人が嫌がるので、簡単に。わたしが見ているときは忘れてやらない。わたしの場合は若いときまで食後に歯磨きと習ったが、いまは食前に歯磨きなのだ。いつからそうなったものか。朝飯前に歯磨きをして、寝る前にもするが、昼飯のときは外なので、いちいち歯磨きなんかしない。最近はキシリトール入りの糖分のないガムを噛んだりはしている。

 自分にそういう習慣がないので孫のことまで気が回らない。それで虫歯になったようだ。パパは仕事で歯医者に連れて行けないので、わたしの出番となる。予約で見つかったのが平塚の街中のアーケード商店街の中にある小児専用歯科で、そこなら子供扱いに慣れているだろうと、そこに予約したが、昼なので、おやつの時間3時には間に合わない。保育園では毎日おやつを出している。

 自転車で迎えに行くと、お昼寝の時間で、みんなすやすやと大広間で寝ていた。そっと先生に顔を見せると、連絡帳に書いてネットで送っていたので、昼寝をさせていない孫を連れてきた。

 それから歯医者へ。お魚さんがいっぱいいるんだよと孫は言う。待合室に熱帯魚がいっぱい水槽で泳いでいた。それが気に入ったらしい。やはり混んでいる時間帯で、何人ものお母さんと幼児が来ていた。診療室から女の子の泣き叫ぶ声がする。大丈夫か? その声で怯えないか。普通なら、われわれ大人もその泣きわめく声で恐れをなす。逃げ帰る人もいるかもしれない。

 

 わたしの子供のときを思い出した。わたしも小さいときから虫歯だらけで、夜中によく泣いた。隣室で寝ていた曾祖父が襖を開けて、うるさーいと怒鳴る。それで、親父が起こされて、しぶしぶ近くの館という歯医者に連れてゆく。先生も寝ていて夜中に何回も起こされるのでたまらない。今度痛くなったら、虫歯を抜くからと言われて、それがまた恐ろしく、子供ながら、痛くても泣かないように我慢した。ちょうど、いまの孫と同じく四歳児のときだ。おふくろは、わたしの虫歯は自分の責任だと言った。ケーキ屋であったので、その屑やスクラップをカウンターにしゃがんでいつも食べていたという。それがわたしがおなかに入っていたときで、生まれてきてから、生えてきた歯は白く透き通っていて、みんなすぐに虫歯になったのだとか。爾来、歯医者とわたしは何十年のつきあいになる。いまは部分入れ歯が上と下で、前歯は差し歯で、本当の自分の歯は半分よりない。最近では千葉にいたときの三年前まで、稲毛駅前の歯医者に通っていた。歯医者はいまは嫌いではない。歯垢をとってもらうとすっきりとするし、痛くはない。

 孫の治療中に待っていて、そんなことをいろいろと思い出した。治療の途中で先生に呼ばれて説明を受ける。虫歯は四本あって、後四回通院してくださいと。うちは中学までは片親だからか、子供の病院代は無料なのだ。それでも自費で虫歯になりにくい薬を塗るのもあるからご検討をと言われた。また待合室で待つ。麻酔をかけて歯を削ったので、しかめ面した孫が口に脱脂綿の棒を噛んで出てきた。歯科助手のお姉さんが、全然泣かないし、立派でしたよと褒める。最初にパパが連れてきたときは、孫は先生にこう言ったとか。「痛くしないでね、痛くしたら、ぼく泣いちゃうからね」と、みんなを笑わせていた。それでもわたしの顔を見たら、うるうるとしていた。麻酔が切れるまで二時間は噛んでいてください。それまで何も食べられません。

 それからママチャリで家まで帰るが、いつもなら二人で大声で歌ってゆくのだが、孫は神妙に噛んだまま、ちゃんと言うことはきいている。

 わたしも年に一度、市から来る健康診断に歯医者もあって、それを無料で受けている。そろそろガタが来ているか。歯は大事で、入れ歯も合わなくなる。いまのところは歯間ブラシもしているし、歯槽膿漏とは言われないから、歯茎は丈夫なのだ。小さいときから歯医者通いで、歯については痛みよりも費用が心配で、できるなら養生して持たせたいと思うのだ。