小説、普通の暮らし~過去の話はここから見て下さい。
この作品はフィクションです。実在の人物、団体、事件などにはいっさい関係ありません。
ーー普通の暮らしを持続させるためには、相当の努力が必要である。
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浅田さんの家に集まって、私たちが出た番組を見た数日後、浅田さんから連絡がきた。
浅田さんは電話口でこう言った。
Γ真子さん、僕は石巻のがれきを止めることに、一切協力出来ません。北九州から出て他の場所に移住することを勧めます。」
真子は浅田さんに必死で頼んだ。
ダメだとわかっていたけど、
必死で頼んだ。
Γ3か月前に100万以上使って移住したばかりです。今すぐ移住は不可能です。
署名だけでも協力して頂けませんか?
子どもたちは既に福島で原発事故後9か月も放射能汚染のある場所で生活してるから、本当に心配でたまらないんです!
私はこれ以上、子どもたちに放射能が混ざった空気を吸わせたくないんです。
家庭も捨てて、福島を出て放射能汚染から逃げて来たのに、移住した場所で放射能汚染のあるってわかっているものを燃やされるなんて、悔しい…本当に悔しいです。
お願いです。
私は北九州に知り合いが1人もいません。
浅田さんが署名できないなら、私が自分で集めに行きますから、北九州の人を紹介だけでもして頂けませんか?
最後まで私は諦めたくないのです。
お願いします!
お願いします!」
浅田さんは、必死に頼んだ真子に返事をせず、
冷たくこう言って電話を切った。
Γ次の住処を探して下さい。」
浅田は
真子を切って、東北の復興支援を選んだんだ。
………………………
浅田に切られた真子は必死だった。
Facebookで知り合った、浅田さんの元同僚で、浅田さんと仲が悪いと言って、友達申請してきた牧師に北九州にある教会を紹介してもらい、片っ端から訪ねて行った。
紹介され訪問した教会の牧師は、全て反応が良くなかった。
なんか、変なん感じだった。
要は署名出来ないということだった。
署名出来ないことは、人それぞれ考え方の違いがあるから、仕方ないのだが、
紹介されたところなのに、話すらまともに聞いてくれなかったのだ。
すっかり落ち込んだ真子だった。
子どもたちのことを思うと涙が出てきた。
涙が落ちてきたのと同時に
怒りも湧いてきた。
知らない場所を車で移動しながら、
泣いたり、怒ったりしてるうちに、
絶対に諦めたくないと強く思った。
真子のそんな思いが通じたのか、
行き当たりばったり走っているうちに
牧師から紹介されなかった同じ宗派の教会を見つけた。
真子はクリスチャンではないが、
子どもたちを教会系の牧師先生が園長の幼稚園に通わせていたので、何となく教会巡りしようと思ったのだ。
偶然飛び込んだ教会の牧師と
一時間ぐらい話をした。
Facebookで知り合った牧師に紹介された牧師は、話すら聞いてくれなかったが、
この牧師は福島の土壌汚染の話や写真を示したら、驚いていた。
色んな話をした。
福島から出て、移住した経緯や、今の暮らしについて。
いわき市で撮ったガイガーカウンターの写真を見て驚き、自分が聞いた話と全く違うと、真子の話を真剣に聞いていた。
牧師は署名に協力したいと言ってくれた。
でも、牧師にも組織があるから、一存では出来ないとのことだった。
来週牧師の集まりがあるから、そこで承認されたら、署名するって約束してくれた。
家に帰ると夕方Facebookで知り合った牧師から電話が来た。
Γ真子さん、どうだった?」
Γ紹介して頂いた方々には協力出来ないと言われましたが、偶然飛び込んだ教会で話を聞いてもらえて、来週協力出来るかどうか、返事をしてもらえます。」
Γえっ?他の教会には行かないようにって言ったのに、行ったの?
どこの教会?
何て言ったの?」
真子は偶然飛び込んだ教会でのやりとりを全て話して、
Γとにかく、希望を持って、来週の理事会まで待ってみます。」
と言って、電話を終えた。
一週間が過ぎ、約束した日に真子は牧師に連絡した。
すると、
あの禿頭を真っ赤にして怒っている様子がわかるほど、電話口で牧師が怒っていた。
Γあんたねえ、あんたが言ったことは嘘じゃないか!
あんた、虚言癖があるんだって?!
ガイガーカウンターの写真だって、偶然ああいう高い数字が出ることがあるっていうし!
私たち○○教会は、福島の避難者は助けません!
石巻で頑張っている生産者の復興支援をします!
がれき受け入れに賛成します!
署名もしないし、
署名の協力もしません!
あんたはバカだ!
自分勝手!
死ぬというなら、死ねばいい!
福島に住んでいたのも、
北九州に避難したのも
自分で選んだんだろ??!
自業自得!
人でなし!!」
と言って
とりつく島もなく電話を切った。
…………………浅田だ…………
○○教会の理事会の会長は浅田だもん……
酷い言葉を浴びせられ、
頭が真っ白になった。
チラッとFacebookで知り合った牧師もグル?って思ったけど、すぐに打ち消した。
本当に怖い目にあい、宗教の闇を感じるのは、もう少し後。