小説、普通の暮らし~過去の話はここから見て下さい。
この作品はフィクションです。実在の人物、団体、事件などにはいっさい関係ありません。
ーー普通の暮らしを持続させるためには、相当の努力が必要である。
…………………………
真子が出演したテレビ番組は、浅田さんの活動の記録だった。
福島の放射能汚染を気にして自主避難した真子たち母子と、石巻の浜で牡蠣の養殖業を営む家族の復興支援。
牡蠣はグリーンコープで販売するようだ。
真子は、商品の汚染の有る無しは問題じゃなかった。
もっと根本的な問題を
どうして誰も考えないのか、不思議だった。
放射能汚染のある地域での生活は更に放射性物質を生み出すということが、なぜわからないのかわからなかった。
汚染地で生産したものを外に出すということは、どういうことかを少し考えればわかるのに、
みんなどうしちゃったんだろう。
復興するためなら、
放射能汚染を考えることを放棄するのか?
菜種を福島で栽培し、その種を九州で栽培し加工するスタッフになるのはごめんだ。
放射能汚染をバラまく側になるのは
いくら仕事とはいえ、イヤだ。
浅田さんは黙っていた。
避難者支援のスタッフも黙っていた。
二週間前に浅田さんの提案で開いた、真子と中庸のピアノコンサートを聴きに来て、涙を流していた人たちは、息をのみ真子を見つめている。
すると、浅田さんと同じ牧師が
Γ真子さんは、ワガママだ!」
と言った。
Γみんな、東北で頑張っているのに、かわいそうだと思わないのか!勝手に福島から出て来て、一方的に放射能が怖いという意見を他人に押し付けるな!そうゆうやつがいるから、風評被害が生まれ、生産者が泣いてるんだよ!」
みんなも頷いている。
風評被害。
生産者がかわいそう。
放射能汚染が危険だという勝手な考えを押しつけるな!
って顔で、みんな真子を見てる。
……………………………
…………………………
あれれ?
二週間前のピアノコンサートを聴いた時は、
放射能汚染が確実にあるのに、
それを避ける自由がなかった事を
真子と一緒に怒り、
真子たち親子の境遇に涙していたのは、
嘘だったのか???
……………………
…………………………
浅田さんは黙して話さない。
………………
…………………………
避難者支援のスタッフの一人が
こう言った。
Γ真子さんは、福島から出られただけで、恵まれているんだよ。だから、今も東北で頑張っている人たちを応援する気持ちになって欲しい。」
…………………
…………
バカだコイツら
バカばっかりだ……
ああ…わかってた。
話すだけ無駄だって
ホントは知ってたけど
ホントにここまでバカなんだ。
そして、原発事故は
みんなにとって、
他人事なんだ……
あ、浅田さんに頼んだ、署名を催促したけど、そういえば貰ってない。
1ヶ月前にΓ僕も反対よ」って石巻から運ばれてくるがれき反対の署名を頼んだけど、
浅田さん、署名を集めてなかった。
その理由が
今日見た番組でわかった。
そう、浅田さんが、がれきの広域処理に反対するわけがない。
どちらかというと、石巻の震災がれき受け入れに賛成の立場だったんだ。
真子は、
さっきから黙って何も話さない浅田さんの様子を見て
浅田さんの立場を理解した。
市長と携帯で話せる仲と言っていた浅田さん、
がれき反対の署名は、軽く1000人すぐ集まると言っていた浅田さん、
真子が、福島の土壌汚染の値を北九州の人たちに伝えたいと言ったら、返事をしなかった浅田さん、
番組を見るために集まった、この日を最後に
浅田さんから、自宅に招待されることはなくなった。
放射能汚染を理解していない人たちによる、避難の支援だった。