いい人との出会いに恵まれることで、自分が高まり、また強くなっていく喜びを感じる経験を、私も数多く重ねてきました。
勤めていた会社を退職し、独立したばかりのころを思い出します。
自転車一台で始めた自動車用品の行商でしたから、営業に訪ねる先々で、ずいぶんつらい思いもしました。
そっけなく門前払いを受けることが日常茶飯事でしたし、話を聞いてもらえる機械すら、ごく限られていました。
そんな中で、時折、私の訪問を受け入れ、座ってじっと話を聞いてくださる方に巡り合います。
みぞれの降る日に、あるお店の前で自転車を止めて中の様子をうかがうようにしたときに、扉が開いて中から手紙がでてきました。
その方は私の濡れた袖をつかんで、透き通るような明るい声で、
「寒いでしょう。冷たいでしょう。中へお入んなさい」
と私の肩を抱いて寄りそいながら、お店の奥のストーブの前まで押してくれたのです。
「手が冷たいでしょう。おあたんなさい。今、お団子を買ってきたところだから、ひとつ食べなさい」と、
テーブルにあったひと串をくださいました。
「ありがとうございます」といおうとしても、胸が詰まってしまい、声がかすれて、もうただ頭を下げるだけでした。
人対人として対応してもらえる。
話を聞いてもらえる。
それだけで、私は感動に包まれ、天国に登るような心地を味わいました。
「ああ、私も一生を通して、こういう人間になろう」
「弱い立場の人、つらくて苦しんでる人、さびしい思いをしてる人に温かい声をかける」
「その人の心を癒して温められるような人になろう」
と思いました。
私は温かな心をかけてくださったそのお方は、あの大歌手の藤山一郎さんです。
藤山さんは、奥様が小さなガソリンスタンドを営んでおられたので、その寒い日にたまたまお店に来ておられたのでした。
今でもあのときのことを思っただけで、胸が詰まるような気持ちがよみがえるとともに、「温かな人になろう」と決めた初心を思い出しています。
「幸せの原点回帰」
鍵山秀三郎さん
文屋より。
あなたにすべての善きことが雪崩のごとく起きます
