「きょうとユニオン」の訪問記

 

――現場にこそ、民主主義は宿る

 

特定社会保険労務士・作家 北出 茂

 

私は社労士として数多くの労働相談に向き合ってきたが、制度や法律だけではすくいきれない「人の営み」が、労働現場には確かに存在する。

それは、怒りであり、不安であり、そして何より「生きていこうとする意志」である。

今回、京都の地に根を張る地域合同労組「きょうとユニオン」の訪問記をまとめるにあたり、その思いを改めて強くした。

本稿は、単なる団体紹介ではない。労働組合とは何か、民主主義とは何か、そしてこれからの労使関係はどこへ向かうべきか――その本質に迫る記録である。


■現場にある「小さな拠点」の重み

京都駅から南へ歩くこと約10分。九条通り沿いの一角に、きょうとユニオンの事務所はある。決して大きくはない建物の一階。しかし、その空間には、数多くの労働者の人生と闘いの記憶が積み重なっている。

対応いただいたのは、委員長の笠井弘子氏、書記長の服部恭子氏。印象的であったのは、「特別な人が活動しているのではない。普通の人が、普通に声を上げられる場所でありたい」という言葉である。

この「普通であること」こそ、実は最も困難で、最も価値のあることなのである。

■地域共闘から生まれた“最後の砦”

きょうとユニオンの結成は1988年。バブル経済の只中にあっても、すでに非正規労働者や解雇問題は社会の底流に存在していた。

当時、既存の企業別労働組合では救えなかった人々――パート、派遣、臨時労働者、失業者――そうした人々に「門戸を開く」ために生まれたのが地域合同労組である。

これは極めて重要な意味を持つ。

企業別組合は企業内の秩序維持に寄与する一方、企業外に排除された労働者を守ることは構造的に難しい。そこに地域ユニオンが登場したのである。いわば、「労働者の最後の砦」である。

しかし、ここで忘れてはならないのは、経営者側にもまた「守るべき現実」があるということである。中小企業経営者は、資金繰り、人材確保、取引先との関係など、極めて厳しい環境の中で意思決定を迫られている。

だからこそ、本来あるべき労使関係とは「対立一辺倒」ではない。

・違法行為は断固として是正する
・しかし、企業の持続可能性も視野に入れる
・双方が現実に立脚した解決を探る

このバランスこそが、社労士としての責務であると私は考える。

■歴史が証明する「闘い」と「再生」

きょうとユニオンは、バブル崩壊、阪神・淡路大震災、リーマンショックといった時代の激流をくぐり抜けてきた。

特筆すべきは、2015年の「iWAiコーポレーション争議」である。若い労働者たちが307日間に及ぶ職場籠城ストライキを展開し、最終的に勝利的和解を勝ち取った。

ここから学ぶべきは何か。

それは、「労働者が声を上げたとき、社会は動く」という事実である。

同時に、企業側にとっても重要な教訓がある。紛争が長期化すれば、企業の信用・ブランド・人材確保に深刻な影響を及ぼす。つまり、初期対応こそが最も重要なのである。

労務管理においては、「問題が起きてから対応する」のでは遅い。未然防止と対話の積み重ねこそが、最大のリスクマネジメントなのである。

■「人が足りない」という現実

現在、きょうとユニオンの組合員は約200名。その9割が個人加入であり、職場単位での組織化は進んでいない。

ここに、日本の労働運動の本質的な課題がある。

・担い手不足
・高齢化
・財政基盤の脆弱さ

これは労働組合だけの問題ではない。企業においても同様である。人材不足は、日本社会全体の構造的課題となっている。

服部書記長の「後継者が二人ほしい」という言葉は、極めて現実的であり、同時に切実である。

また、子育てや介護と両立しながら活動を続けてきた経験は、現代の労働問題そのものである。ケア責任を負う人々が社会活動から排除されない仕組みをどう作るか――これは企業にとっても避けて通れないテーマである。

■ユニオンの役割は「闘うこと」だけではない

きょうとユニオンの特徴は、労働争議だけでなく、読書会、映画会、農業体験、福祉座談会といった活動にも力を入れている点にある。

これは極めて重要である。

なぜなら、人は「労働者」である前に「生活者」だからである。

賃金や労働時間の問題だけでは、人は救われない。孤立を防ぎ、つながりを作り、文化を共有する――そうした営みがあって初めて、人は再び立ち上がることができる。

これは企業経営においても同じである。働きやすい職場とは、単に制度が整っているだけでなく、「人が人として尊重される場」であることが不可欠なのである。

■民主主義は「現場」で試される

私は強く思う。

民主主義とは、選挙や国会だけで完結するものではない。職場で、地域で、人と人が向き合う現場でこそ、その真価が問われるのである。

異なる意見を排除するのではなく、対話すること。
力で押さえつけるのではなく、合意を探ること。
弱い立場の声に耳を傾けること。

それこそが、民主主義の本質である。

労働組合がその役割を果たすとき、社会はより健全な方向へ進む。一方で、企業もまた、労働者を単なるコストではなく「共に価値を生み出す存在」として尊重することで、持続可能な成長が可能となる。

■おわりに――勇気は連鎖する

笠井委員長は言った。

「ユニオンで過ごした時間は、いつも楽しかった」

この言葉の重みを、私は忘れない。

闘いの中にあっても、人は希望を見出すことができる。いや、闘うからこそ、希望は生まれるのかもしれない。

社会は簡単には変わらない。しかし、一人が声を上げれば、それはやがて連鎖する。

勇気は、伝播するのである。

そしてその連鎖こそが、民主主義を前へと進める原動力なのである。


■参照情報

・きょうとユニオン(京都地域合同労働組合)聞き取り内容
・同ユニオン30周年記念誌(2018年)
・コミュニティ・ユニオン全国ネットワーク資料
・労働組合法、労働契約法等の関連法令
・労働政策研究・研修機構(JILPT)各種報告書