労働組合はどこまで政治に関与すべきか
―日韓労働運動と安全保障問題の交錯
特定社会保険労務士・作家 北出 茂
かつて、ソウル国際大学で開催された国際会議に出席したり、ソウル市長と面会をしたり、韓国の労働組合幹部(民主労総)とも懇親を温めたことがある。
さて、近年、全国労働組合総連合(全労連)と、韓国の全国民主労働組合総連盟(民主労総)との連帯が注目を集めている。
とりわけ問題となるのが、中東情勢、なかでもホルムズ海峡への艦船派遣をめぐる議論と、労働組合の関与である。
これは単なる外交問題ではない。
労働運動がどこまで政治に踏み込むべきかという、本質的な問いを我々に突きつけているのである。
韓国における「労働組合=政治主体」という現実
まず押さえておくべきは、韓国における労働組合の位置づけである。
日本において労働組合は、主として
・賃金
・労働時間
・雇用保障
といった労働条件の改善を中心に活動する。
これに対し、韓国の民労総は明確に政治的主体として行動する組織である。
実際に、
・大統領選挙への影響
・弾劾運動への関与
・外交・安全保障問題への発言
といった領域に踏み込んでいる。
この背景には、韓国社会における民主化運動の歴史がある。
労働運動がその中心を担ってきた経緯から、労働組合=民主主義の担い手という意識が強いのである。
艦船派遣問題の構造
ここで問題となるのが、ホルムズ海峡への艦船派遣である。
韓国はアメリカ合衆国と強固な同盟関係にある。
したがって、対外的な軍事行動について一定の協調が求められる。
しかし国内政治は単純ではない。
・与党内の分裂
・国会承認の必要性
・世論の反発
・民労総を含む労働運動の圧力
これらが複雑に絡み合う。
結果として、
-
派遣すれば → 国内政治リスク(弾劾・政権不安)
-
派遣しなければ → 対米関係悪化
という板挟み構造が生まれるのである。
労働組合の「国際連帯」が意味するもの
問題はここからである。
日本の全労連と韓国の民労総が、艦船派遣反対というテーマで連帯した場合、それはもはや単なる労働問題ではない。
国際政治問題そのもの
となる。
なぜなら、
・安全保障
・外交政策
・国家主権
に直接関わるテーマだからである。
ここにおいて労働組合は、「労働条件の交渉主体」から「政治的アクター」へと変質する。
行動力の差が示すもの
民労総のデモ映像を見ると、その特徴は明確である。
・若年層の参加
・強いエネルギー
・継続的な動員力
・街頭での存在感
これは日本のデモとは明らかに異なる。
日本では、
・高齢化
・動員力の低下
・政治的無関心
が指摘される。
この差はどこから来るのか。
それは「当事者意識の差」である。
韓国では、政治が生活に直結するという認識が強い。
そのため、労働組合もまた「社会を変える主体」として行動する。
社労士としての視点
―労働組合の本分、民主主義と労働運動の距離とは何か
ここで冷静に考える必要がある。
労働組合の本来の役割は何か。
それは
労働者の生活と権利を守ること
である。
安全保障問題に関与すること自体を否定するものではない。
しかし、それが過度になれば
・組合員の多様な意見を抑圧する
・本来業務が希薄化する
・組織の分裂を招く
というリスクがある。
では、労働組合は政治から距離を置くべきなのか。
答えは単純ではない。
労働運動は歴史的に、
・普通選挙の実現
・労働法制の確立
・社会保障制度の構築
に大きく貢献してきた。
つまり、民主主義の発展に不可欠な存在である。
韓国の民労総の行動力は、確かに学ぶべき点が多い。
しかしその力は、使い方を誤れば社会を分断する。
日本の労働運動は、逆に慎重すぎる側面がある。
だがその慎重さは、安定を支えてきた面もある。
重要なのはバランスである。
労働組合は、
労働者の生活を守る現実主義と、社会を良くする理想主義
この二つを同時に持たなければならない。
私は社労士として、こう結論づける。
真に強い労働運動とは、声の大きさではない。
生活を守りながら、社会を動かす力である。
その力をどう使うかが、これからの日本と東アジアの未来を左右するのである。
参考資料
・全国民主労働組合総連盟 声明文
・全国労働組合総連合 関連発言・動画資料
・日韓労働運動史研究
・外務省「中東地域安全保障資料」
・厚生労働省「労使関係白書」
・ILO(国際労働機関)資料