― 実務家として持続的に収入を得るための現実的モデル ―
特定社会保険労務士・作家 北出茂(受験指導講師)
社会保険労務士という資格は、本来「企業の労務管理を支える専門職」である。しかし現代の労働社会では、もう一つの重要な役割がある。それが労働紛争の実務家としての役割である。
解雇、未払い残業代、ハラスメント、雇止めなど、労働問題は日々発生している。そしてその多くは、裁判に行く前の段階で解決される。ここに、社労士が活躍できる大きな領域がある。
私は長年、労働相談の現場に関わってきた。その経験から言えることは、社労士が労働事件を適切に扱えば、月40万円程度の収入を安定して得ることは十分可能であるということである。本稿では、その現実的なモデルを整理してみたい。
労働事件の市場
まず確認しておきたいのは、日本社会における労働紛争の数である。
厚生労働省の統計によれば、毎年数十万件の労働相談が寄せられている。
その中には
・解雇
・未払い残業代
・パワーハラスメント
・退職トラブル
などが含まれる。
しかし、これらの問題の多くは裁判にまで発展しない。
実際には、労働局のあっせんや交渉によって解決されるケースが多い。
ここに、特定社会保険労務士の役割がある。
収入モデル
月40万円という収入は、決して非現実的な数字ではない。
例えば次のようなモデルが考えられる。
モデル例
月4件の労働事件を扱うと仮定する。
着手金 5万円 × 4件 = 20万円
さらに、解決金が発生した場合、成功報酬として10%を受け取るとする。
仮に平均解決金が50万円であれば、
成功報酬 5万円 × 4件 = 20万円
合計
月収40万円
もちろん事件の内容によって金額は変動するが、この程度の収入は十分に現実的な水準である。
重要なのは営業ではなく信頼
労働事件で収入を得るために、派手な営業は必ずしも必要ではない。
むしろ重要なのは信頼である。
労働問題は、人生の重要な局面で発生することが多い。
解雇された労働者にとって、それは生活そのものの問題である。
そのため相談者は、専門家に対して強い信頼を求める。
信頼を得るためには
・誠実な対応
・正確な法律知識
・冷静な判断
が必要である。
実務の世界では、評判が次の仕事を生む。
労働者側と企業側の両方を見る
労働事件に関わるとき、注意すべき点がある。
それは、労働問題を単純な「善悪の対立」として見ないことである。
確かに悪質な企業も存在する。
長時間労働を強制し、残業代を支払わない企業もある。
しかし一方で、多くの中小企業は厳しい経営環境の中で企業を維持しようと努力している。
人手不足
原材料費の高騰
社会保険料の負担
こうした状況の中で経営を続けている企業も多い。
だからこそ、社労士にはバランス感覚が求められる。
労働者の権利を守りながら、企業の持続可能性も考える。
そのような視点を持つ専門家こそ、長く信頼されるのである。
実務家としての武器
労働事件を扱う社労士にとって、特に重要な武器が三つある。
①法律知識
労働契約法
労働基準法
労働組合法
これらの基本法を理解していることが前提である。
②交渉力
労働紛争の多くは交渉で解決する。
感情的対立を避け、合理的な解決点を見つける能力が必要である。
③文章力
あっせん申立書
意見書
交渉文書
実務では文章を書く機会が多い。
明確な文章を書ける専門家は信頼される。
社労士という仕事の魅力
社労士の仕事は単なるビジネスではない。
それは社会の公正を支える仕事でもある。
不当な解雇に苦しむ労働者
労務管理に悩む経営者
その双方の間に立ち、合理的な解決を導く。
それは決して派手な仕事ではない。
しかし社会にとって重要な役割である。
実務家として生きる
月40万円という収入は、決して豪華な数字ではない。
しかし、実務家として自立した生活を送るには十分な水準である。
重要なのは、無理な拡大を目指さないことである。
・誠実な仕事をする
・相談者の信頼を得る
・実務経験を積み重ねる
この積み重ねが、結果として安定した収入につながる。
社労士という職業は、派手ではないが息の長い仕事である。
そして労働社会が存在する限り、その役割がなくなることはない。
参照情報
・社会保険労務士法
・厚生労働省「個別労働関係紛争解決制度」
・労働契約法
・労働基準法
・労働政策研究・研修機構(JILPT)資料