組織はなぜ迷走するのか①
―中道改革連合大敗から考える政治組織と企業組織の共通課題―
特定社会保険労務士・作家 北出 茂
2026年2月の衆議院選挙において、中道改革連合は極めて厳しい結果を突き付けられた。
公示前には172議席を有していた勢力が、選挙後には49議席へと激減したのである。これは単なる敗北ではない。政治組織としての方向性そのものが問われる結果であったと言える。
この選挙の舞台裏について、党の代表代行を務めていた元衆議院議員の吉田晴美氏が率直な証言を行っている。吉田氏は2021年の衆院選東京8区において、自民党の重鎮であり元幹事長でもあった石原伸晃氏を破り初当選を果たした政治家であり、若手ながら党の代表代行という要職を担っていた人物である。
しかし、その吉田氏でさえ、政党再編の核心となる決定を直前まで知らされていなかったという事実は、日本の政治組織の統治構造に重大な疑問を投げかけるものである。
私は社会保険労務士として政治連盟にも関わり、企業や労働組合の内部問題に長く関わってきたが、この出来事を聞いたとき、率直にこう感じた。
政治組織の問題は、実は企業の組織問題と驚くほど似ている。
密室で決まる組織は必ず混乱する
吉田氏の証言によれば、立憲民主党と公明党が合流し中道改革連合を結成するという重大な決定について、党の代表代行である吉田氏が知らされたのは「執行役員会のわずか1時間前」であったという。
これは通常の組織運営から考えれば極めて異例である。
企業の経営であれば、会社の合併や事業統合のような重大事項は、取締役会や経営会議で慎重に議論される。
労働組合であれば、組織統合は必ず大会や中央委員会などの正式な議論を経て決定される。
しかし今回のケースでは、党の代表である野田佳彦氏と、公明党代表の斉藤鉄夫氏、そしてごく限られた関係者による協議で決定が進められたとされる。
これは典型的な「トップダウン型決定」である。
トップダウン自体が悪いわけではない。
危機の時代には迅速な決断が必要な場合もある。
しかし、組織の理念や路線を根本から変える決定を密室で行えば、現場は必ず混乱する。
吉田氏が「びっくりした」と語ったのも当然である。
なぜなら、彼女は立憲民主党の候補者として戦う前提で選挙チラシを作成していたからである。
その前提が突然覆されたのである。
現場が理解できない組織は支持されない
今回の選挙で中道改革連合が大敗した理由について、吉田氏は一言でこう表現している。
「分かりにくさ」である。
この言葉は実に重要である。
政治において最も大切なのは、理念の高さではない。
有権者に理解されるかどうかである。
吉田氏は選挙期間中、地元の有権者から次のような声を何度も聞いたという。
「なぜこの二つの党が一緒になったのか」
これは当然の疑問である。
政治思想も支持基盤も異なる政党が突然合流すれば、有権者は戸惑う。
それが「どのような社会を目指すのか」という明確な説明なしに行われれば、なおさらである。
政治において理念は重要である。
しかし理念が説明されなければ、それは単なる混乱になる。
社労士の視点から見た「組織の説明責任」
ここで私は社労士としての視点からこの問題を考えたい。
企業でも同じことが起きる。
例えば、
・会社の合併
・事業再編
・労働条件の変更
これらを経営陣が突然決めた場合、現場では何が起きるか。
必ず次のような状況になる。
社員が混乱する。
現場が不信感を持つ。
組織の結束が崩れる。
だからこそ企業では、組織変更の際に説明責任が重視されるのである。
政治も本来は同じである。
政党は有権者から信任を受けて存在する組織である以上、重大な方針変更には説明責任が伴う。
それがなければ支持は失われる。
対立軸のない政治は支持されない
さらに吉田氏は、今回の選挙戦について次の問題を指摘している。
それは、自民党との違いが分かりにくかったという点である。
当時の首相であった高市早苗氏は強いメッセージを発信していた。
それに対して中道改革連合の主張は曖昧に映ったというのである。
政治において重要なのは対立ではない。
選択肢である。
有権者は、複数の選択肢の中から未来を選ぶ。
しかし選択肢が曖昧であれば、選挙は成立しない。
労働運動にも同じ問題がある
この問題は政治だけではない。
労働運動でも同じ現象が起きる。
労働組合が組織統合や路線変更を行う際、現場への説明が不足すると必ず混乱が起きる。
労働組合は労働者の代表組織である。
しかし、現場の声を聞かない組織は、やがて支持を失う。
私は多くの労働組合の内部問題を見てきたが、組織が衰退するときには必ず共通点がある。
それは
現場の声が上に届かなくなることである。
組織が生き残る条件
企業でも、労働組合でも、政党でも、組織が長く続くためには三つの条件が必要である。
第一に、意思決定の透明性である。
第二に、現場との対話である。
第三に、理念の明確さである。
この三つが欠けたとき、組織は必ず迷走する。
今回の選挙結果は、日本の政治組織に対して重要な教訓を示している。
それは、組織は密室では動かないということである。
民主主義とは時間のかかる制度である。
議論があり、意見の対立があり、そして合意が形成される。
しかし、その過程こそが組織の信頼を支えているのである。
結び
政治も企業も労働組合も、人間の組織である以上、同じ法則に従う。
組織は説明責任を果たしたとき強くなる。
現場の声を聞いたとき信頼される。
そして、理念を明確にしたとき支持される。
私は社会保険労務士として、これまで数多くの組織の興亡を見てきた。
その経験から言えることは一つである。
組織は人の信頼で成り立つ。
その信頼を失えば、どれほど大きな組織でも一瞬で崩れるのである。
参照情報
・中道改革連合
・立憲民主党
・公明党
・吉田晴美
・石原伸晃
・野田佳彦
・斉藤鉄夫
・高市早苗
・日本国憲法
・労働組合法
・組織統治(ガバナンス)に関する政治学研究