ロストゼネレーションを「嘲笑」する社会は衰退する

――怒りの背景にある構造を直視せよ

 

特定社会保険労務士・作家 北出茂

 

「ロストジェネレーション」と呼ばれる世代がいる。おおむね1990年代後半から2000年代初頭、いわゆる就職氷河期に社会へ出た人々である。景気後退、金融不安、企業の新卒採用抑制の直撃を受け、非正規雇用からキャリアを始めざるを得なかった世代である。

彼らの言動を「気持ち悪い」の一言で切り捨てる風潮がある。しかし、それは知的怠慢である。怒りや不満の背後には、必ず構造がある。私は社労士として、非正規雇用、低賃金、解雇紛争、生活困窮の現場に立ち会ってきた。そこにあるのは怠惰ではない。報われなさである。

1 構造的不利益という現実

総務省や厚生労働省の統計が示す通り、氷河期世代の非正規比率は長期にわたり高止まりした。初期キャリアの不安定は、その後の賃金カーブに影響を与える。人的資本論が示すように、若年期の職業訓練機会の欠如は生涯所得を左右する。

努力不足と断じるのは簡単である。しかし、採用枠そのものが絞られていた現実をどう説明するのか。社会の入り口が狭かった世代に対し、同じ物差しで成果のみを問うのは公正ではない。

2 不公平感の正体

彼らの中には、大企業や公務員が「特権を享受している」と感じる者もいる。ここで言う「ズル」とは違法行為を指すとは限らない。税制優遇や雇用安定、福利厚生の充実が、自らの不安定と対比されるとき、不公平感は増幅する。

実際、日本は法人税の実効税率引き下げや各種減税措置を重ねてきた。一方で消費税率は段階的に引き上げられ、現在は10%である。

消費税は逆進性を持つ。低所得層ほど可処分所得に占める負担割合が高くなる。理論上は給付付き税額控除などで緩和可能であるが、体感としての重さは消えない。

「消費税しか払っていない」という認識は正確ではないにせよ、日々の買い物のたびに支払う税は心理的負担が大きい。税制の全体像が十分共有されていないことも、不信を増幅させる。

3 政治不信と代弁者の出現

既存政治に対する不信が強いのも特徴である。「選挙の時だけ甘い言葉」という感覚は、説明責任の不足から生じる。政治資金の透明性、政策決定過程の公開、ロビイングの可視化が不十分であれば、疑念は当然である。

その中で、既存体制に挑戦する姿勢を前面に出す政党や運動に期待が集まる現象は理解可能である。弱者の代弁を掲げ、消費税減税や社会保障拡充を訴えるメッセージは、切実な層に届きやすい。

しかし重要なのは、「思い」の背景を理解することであって、嘲笑することではない。「思い」を侮辱する言動は民主主義の敵である。悪質なレッテル貼りや排除の言説は断じて許されない。

4 情報環境の功罪

彼らはSNSや動画配信を通じ、膨大な情報に触れている。だが情報過多は必ずしも理解を深めない。アルゴリズムは感情を刺激する情報を優先表示する傾向がある。怒りや不安を煽るコンテンツは拡散しやすい。

だからこそ、メディアリテラシー教育が不可欠である。陰謀論に傾く者を嘲笑するのではなく、なぜそれが魅力的に映るのかを分析しなければならない。

5 彼らが求めているもの

ロスゼネ世代や非正規労働者が求めているのは破壊ではない。尊厳である。

  • 安定した雇用

  • 教育の機会均等

  • 医療と福祉の安心

  • 多様性の尊重

  • 環境と平和の持続

これらは急進的な要求ではない。むしろ憲法と国際人権規約が保障する普遍的価値である。

雇用の安定を求める声は、最低賃金引上げや同一労働同一賃金の徹底へとつながる。教育無償化の議論は、人的資本投資としての合理性を持つ。再生可能エネルギー推進は、気候変動対策として世界的潮流である。

6 理解こそが成熟の証

社会の成熟度は、異なる声をどう扱うかで測られる。排除か、対話か。私は後者を選ぶ。

 

ロストジェネレーションは被害者意識の塊ではない。過酷な環境を生き抜いてきた現実主義者である。失敗体験が多い世代は、制度の脆弱性に敏感である。そこにこそ、改革の種がある。

悪質な差別や誹謗中傷を許さず、同時に誤情報には冷静に反論する。感情を否定せず、事実で支える。それが実務家としての私の姿勢である。

 

彼らを「気持ち悪い」と切り捨てる社会は、自らの弱さを隠しているに過ぎない。彼らの声を聴き、構造を正し、制度を改善する。その積み重ねこそが民主主義である。


参照情報

  • 総務省「労働力調査」

  • 厚生労働省「非正規雇用の現状」

  • 財務省「税制の概要」

  • OECD “Income Inequality Data”

  • れいわ新選組政策資料

  • 国際人権規約(ICCPR・ICESCR)


勇気とは、怒りを笑うことではない。怒りの理由を掘り下げ、制度で応えることである。ロストジェネレーションの声は、社会に突き付けられた問いである。その問いから目を背けないことが、次の時代をつくる第一歩である。