武力の連鎖を断ち切れるか

――イスラエル・米国の対イラン攻撃が投げかけるもの

 

特定社会保険労務士・作家 北出茂

 

イスラエルとアメリカがイランに対して軍事攻撃を開始したと表明した。

イラン側も反撃を始めたとの報道が相次ぎ、情勢は急速に緊迫している。ワシントンからの中継では、ドナルド・トランプ大統領が現地時間28日未明、SNSで動画声明を出し、米軍が大規模作戦に着手したと明らかにしたと伝えられた。

 

トランプ大統領は「核開発の野心を放棄する機会を拒否したイランの差し迫った脅威を排除する」と述べ、イラン革命防衛隊に武装解除を要求した。さらに、イラン国民に対し「自由の時が近い」と呼びかけ、事実上の体制転換を示唆したとされる。

 

しかし、ここで問うべきは熱情ではなく法である。

 

武力行使は、国連憲章第2条4項が原則として禁止している。例外は自衛権(第51条)か、安全保障理事会決議に基づく措置である。

今回の作戦がどの法的根拠に依拠するのか、具体的な証拠とともに国際社会へ提示されなければならない。

正当防衛の要件である①「急迫不正の侵害」②「必要性」③「均衡性」が満たされるかは厳格に検証されるべきである。

 

私は社労士として、手続を軽視する組織の末路を見てきた。国際政治も同じである。

説明責任を尽くさず、強い言葉で相手を断罪するだけでは、武力の連鎖を止められない。悪質な行為――民間人被害を顧みない攻撃、恐怖を利用した扇動、敵対国の国民を一括りにする言説――は、いかなる立場であれ許されない。

 

イランの核問題をめぐっては、かつて国際原子力機関(IAEA)が査察を実施し、2015年には包括的共同行動計画(JCPOA)が成立した経緯がある。その後の離脱と制裁強化が不信を拡大させたことも否めない。外交の積み重ねが崩れたとき、真空を埋めるのは軍事である。だが軍事は問題を「解決」せず、「凍結」か「拡散」をもたらすに過ぎないことを、私たちは歴史から学んでいる。

 

中東の安定はエネルギー市場、海上輸送路、そして世界経済に直結する。日本のような資源輸入国にとっても他人事ではない。ホルムズ海峡の緊張は原油価格の高騰を通じて家計を直撃する。戦争は遠い国の出来事ではなく、生活の問題である。

 

だからこそ、いま必要なのは三つである。
第一に、即時の緊張緩和と人道回廊の確保。
第二に、第三国を含む多国間枠組みによる停戦仲介。
第三に、核問題を含む包括的安全保障対話の再開である。

 

体制転換を外部から武力で迫る発想は、しばしば長期的不安定を招く。主権と自己決定の原則は尊重されねばならない。同時に、国内で人権侵害があるならば、それは国際人権法の枠組みで是正を求めるべきである。軍事と人権を短絡的に結びつけることは危うい。

言葉は武器にも橋にもなる。指導者が選ぶ言葉は、兵士の引き金に等しい重みを持つ。強硬なメッセージが短期的支持を集めることはあっても、長期的平和を保証しない。

 

私は勇気を、強さの誇示ではなく、対話を再開する決断だと考える。国際法に立脚し、証拠を示し、説明責任を尽くすこと。民間人の命を最優先に守ること。報復の連鎖を断ち切る知恵を絞ること。

 

戦火の映像が流れる今こそ、冷静であることが最大の勇気である。武力の応酬が拡大しないよう、国際社会は一致して自制と外交を促すべきである。歴史は、怒りの瞬間ではなく、踏みとどまった瞬間に前へ進むのである。

 

平和は願うだけでは守れない。法と理性と説明責任によって支えられるのである。


参照情報

  • 国際連合憲章第2条4項・第51条

  • 国際原子力機関イラン核査察関連資料

  • 2015年イラン核合意(JCPOA)文書

  • 国連人権規約(ICCPR)

  • 中東情勢に関する各国政府・主要メディア報道(28日未明時点)