AI時代の労働者防衛論 ――社労士が現場で見た「新しい支配」と闘うために | 北出茂 大阪・枚方の社労士の働き方ブログ 【三方良し】ブログ

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法律家20年、開業10年のコンサル。働き方、資格、法律などについて語ります。(補助 えみ+あり+まい)

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AI時代の労働者防衛論

――社労士が現場で見た「新しい支配」と闘うために

 

社会保険労務士・作家 北出茂

 

 

人工知能という言葉を聞くと、多くの人は便利な未来を想像する。

仕事は効率化し、人手不足は解消し、面倒な作業は機械がやってくれる。

政府も企業もAIを成長の切り札として掲げ、2025年には初めてのAI関連法が成立した。政府はAIを国家戦略の中核に据え、研究開発と活用を推進する方針を示した。

 

しかし、私は社会保険労務士として現場に立ちながら、別の現実を見ている。

AIは確かに便利な技術だが、それは同時に、これまでにない形で労働者を支配する道具にもなり得るという現実である。

 

かつて労働者の敵は分かりやすかった。

長時間労働、低賃金、露骨な解雇。交渉の相手は顔の見える経営者だった。

 

しかしAIの時代には、支配は静かに進む。判断を下すのは上司ではなく、アルゴリズムである。

採用の現場ではAIが履歴書を選別し、面接対象者を決める。

人事評価では行動データが集められ、数値化された「生産性」が人間の価値を測る基準になる。

シフトはAIが決め、配達ルートもAIが決める。労働者は決定の理由を知らないまま評価される。

 

相談者の中にはこう語る人がいる。

 

「理由も分からないまま評価が下がりました。会社に聞いたらAIの判断だと言われました」

 

これは未来の話ではない。すでに始まっている現実である。

AIによる管理の最大の問題は、責任の所在が曖昧になることである。

上司が決めたのではない。会社が決めたのでもない。

「システムが判断した」と言われた瞬間に、誰も責任を取らなくなる。

労働法は人間を前提に作られている。使用者がいて、労働者がいる。

しかしAIはその関係を曖昧にする。誰が決定したのか分からなければ、違法性の追及も難しくなる。

例えば不当解雇の事件では、「合理的理由」が争点になる。しかしAIが算出した評価が理由だと言われたとき、その合理性を誰が検証できるのだろうか。

アルゴリズムが企業秘密として公開されなければ、労働者は反論の手段を持たない。

これは新しい形の不公正である。

 

しかもAIによる管理は、これまでの監督とは比較にならないほど細かい。

位置情報、打鍵速度、作業時間、通話内容、表情分析まで利用される例も出始めている。

労働者は一日中監視される存在になりつつある。

私はこれを「静かな管理社会」と呼びたい。

 

だが、労働者は無力ではない。AIの時代にも防衛の方法は存在する。

 

第一に重要なのは、記録を残すことである。AI評価による不利益を受けた場合、評価内容や会社の説明を保存しておくことが重要になる。メールや通知画面の保存は、将来の紛争で決定的な証拠になる。

 

第二に重要なのは、説明を求めることである。

評価の理由は何か。データは何を使ったのか。修正の機会はあるのか。これらを問い続けることは労働者の正当な権利である。

 

第三に重要なのは、孤立しないことである。

AI管理は個人を分断しやすい。評価は個別化され、他人と比較しにくくなる。しかし同じ職場に同じ不満を持つ人は必ず存在する。労働組合や相談機関につながることは、AI時代でも有効な防衛手段である。

 

AIは冷たい技術である。しかし法律は人間の側に立つ。

たとえAIが判断したとしても、その責任は使用者にある。この原則は変わらない。会社は労働者を守る義務を負っている。安全配慮義務も、不利益取扱いの禁止も、AIの導入によって消えることはない。

 

むしろAIの時代には、社会保険労務士の役割は大きくなるだろう。法律と現場をつなぐ専門家が必要になるからである。

技術の進歩は止められない。しかし、人間の尊厳を守ることはできる。

 

私は労働相談の現場で、多くの人が自信を失っていく姿を見てきた。「自分が悪いのではないか」「能力が足りないのではないか」と悩む人は少なくない。しかし理不尽な評価の背後にあるのは、必ずしも本人の努力不足ではない。

不公正な仕組みが人を苦しめている場合もある。

 

だからこそ私は伝えたい。

AIに評価されても、あなたの価値が決まるわけではない。

 

機械は人間の道具である。人間が機械の道具になってはならない。

AIの時代に必要なのは、新しい技術への適応だけではない。不公正に立ち向かう勇気である。

 

そして、その勇気を支える制度と専門家が必要なのである。

 

AIの時代における労働者防衛とは、結局のところ、人間らしく生きる権利を守る闘いにほかならない。