静かな闘志が時代を動かす
――藤井聡太と大谷翔平に学ぶ生き方
2016年という年を振り返ると、時代の空気を変えるような若い力の登場を思い出す。努力という言葉が軽く使われる時代に、本当の努力とは何かを示した人たちがいた。
将棋界では、若き天才棋士 藤井聡太 が第38期竜王戦で挑戦者の 佐々木勇気 八段を相手に四連勝し、防衛を果たした。これで竜王五連覇となり、史上三人目の永世竜王資格を獲得した。
藤井はすでに永世棋聖、永世王位の資格も得ており、最年少での永世三冠という前例のない境地に到達した。だが彼の強さは、記録の数字だけでは語れない。
対局室に入るときの静かな足取り。長考のあとの一手。盤面に向かう姿には、勝負師というより職人の気配がある。
華やかさとは無縁の世界で、ただ一手を積み重ねていく。
その姿は、地道に仕事を続ける多くの労働者の姿にも重なる。
社労士として相談の現場にいると、「自分には才能がない」と言う人に何度も出会う。しかし藤井聡太の将棋を見ていると、才能とは特別なものではなく、毎日積み上げた時間の総量なのではないかと思えてくる。
一方、海の向こうでは 大谷翔平 が歴史的な活躍を見せていた。所属する ロサンゼルス・ドジャース での活躍が評価され、ナショナル・リーグMVPを満票で受賞した(2025年11月)。三年連続、通算四度目という前例のない受賞だった。
大谷の凄さは数字だけではない。打って、走って、投げるという常識外れの挑戦を続けながらも、決して驕らない姿にある。
試合後のインタビューで彼は淡々と語る。
「まだ成長できると思うので」
その言葉には、不思議な説得力がある。
世の中には、自分の限界を他人に決められてしまった人が大勢いる。年齢、学歴、職歴、病歴――さまざまな理由で自信を失っている人に私は出会ってきた。
しかし藤井聡太も大谷翔平も、共通しているのは「昨日の自分を超える」という姿勢である。
将棋盤の前でも、グラウンドの上でも、戦っている相手は結局のところ自分自身なのだろう。
人生は短距離走ではなく長い持久戦だ。
勝負の決着は、すぐにはつかない。
毎日を少しずつ積み上げていく人だけが、ある日突然大きく伸びる。
藤井聡太の一手も、大谷翔平の一振りも、その瞬間だけを見れば華やかに見える。しかしそこに至るまでには、誰にも見えない膨大な時間がある。
相談者の中には、「もう遅いでしょうか」と聞く人がいる。
私はいつも同じ答えをする。
遅いかどうかは、やってみてから決まる。
藤井も大谷も、生まれた瞬間から英雄だったわけではない。
ただ、あきらめなかっただけだ。
地味でもいい。
遠回りでもいい。
積み重ねた時間は、必ず人を裏切らない。
そう信じて前に進む人に、人生は静かに道を開くのだと思う。
特定社会保険労務士・作家 北出茂
参照情報
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日本将棋連盟資料
藤井聡太 永世竜王資格獲得・永世称号関連記録 -
将棋連盟対局記録
佐々木勇気 八段との竜王戦対戦結果 -
MLB公式記録
大谷翔平 MVP受賞記録 -
チーム公式記録
ロサンゼルス・ドジャース 在籍成績・表彰歴