汚い、臭い、えげつなくてフザケてる。
ある意味、歴史観が変わる。
こんなに全員悪くて、全員アホな戦国時代劇は初めてだ。
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クソヤロウの織田信長を潰したい
あらすじは、本能寺の変だ。
サイコパスこと織田信長は、やりたい放題。
パワハラ上司の極みなうえに、セクハラ上司でもある。
ずっとネジがブッ飛んでいるので会議にならない。
一生、知り合いたくない人物像。
この時代のメンツはおそらく、誰もが知る人気度を誇る。
だが、実際の様相はどうだったのか、現代の誰も目にしたことがない。
つまり、いかようにも描ける。
本作は天才・北野武監督が思う戦国時代だ。
当方のように笑いをビートたけしに教えられた者には、楽しくて仕方がない。
バカだねー！と突っ込めるこの感じ。
信長このやろうバカやろう！の勢い。
当時の多くの主従関係が男性同士の色恋で成り立っていたという事実を、恥ずかしながら当方は、だいぶババアになってから知った。
そして軽く興奮した。（ばかやろう）
同性愛（衆道しゅどう）による契り、繋がりがあるから生死を懸けられる。
そんな北野監督の解釈は、実に納得の動機である。
大義だけで人は動けない。
もはや、これが正しい歴史かもしれない。
いっそ、そういうことにしてしまいましょうか。
キャストとスタッフ
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羽柴秀吉をビートたけし、羽柴秀長を大森南朋、黒田官兵衛を浅野忠信が演じるのだが、全員ハマり役。この3人組がたまらない。あのシーンはアドリブですよね？ 笑いをこらえる黒田官兵衛を初めて見た。
逆に言えばです、この人達にハマれないと映画に乗れないかもしれない。気の毒。
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明智光秀は西島秀俊で、溢れ出る生真面目さが良い。
信長役の加瀬亮は本来は上品な方なのだと思うが、暴れっぷりに目をみはる。言語学者監修による岐阜弁も完璧で、日頃は岐阜弁丸出しの当方も舌を巻くレベル。
遠藤憲一の全感情。
木村祐一＝キム兄がおいしい役。
ガチガチに緊張していたという小林薫の徳川家康に、ツボる。
中村獅童の泥臭さよ！
津田寛治、勝村政信、寺島進といった北野組、そしてアマレス兄弟が良い味。
北野武監督は黒澤明監督と大島渚監督の美学を受け継ぐ。テストを経るだけの一発撮りの威力。そこにコント…いや、ゆるゆるタイムを注入。もっとゴリゴリの謀反を描くのかと思いきや、『アウトレイジ』のような完璧バイオレンスとも違う人間くささが根本だ。
歴史は刀の血飛沫で作られていく
ここで描かれるのは偉人伝ではない。
狂った時代に生きた、狂った男たちだ。
彼らがズルくて情けないのは、過去の北野映画と同様。
それでいて戦場は大掛かり撮影である。
かつての角川映画も思い出す壮大さ。
本作は製作のKADOKAWA側とイザコザがあり、公開が大いに遅れてしまった。
「製作総指揮・角川歴彦」のクレジット記載も要求してきたそうで、角川歴彦（元会長のちに五輪贈賄罪で起訴）このやろう！だった模様。
なお、北野監督にとってはオフィス北野を解散し、森昌行プロデューサーと決別してから初作品だ。
織田信長に翻弄される家臣が企む、クーデター。
血飛沫と、刀一閃の首落とし。
泥だらけの農民武者の奔走。
城の中で、あーだこーだ言い合う時間は少ない現場主義。
こういう有様だったのだろうなと実感できる。
これから先、信長といったらこの狂いっぷりが真っ先だろう。
戦国武将を思う時には、この滑稽さを思い出す。
彼らは偉人として扱われているが、やっていることは残虐である。
それが日常だった光景だ。
時代の異常性が人を狂わせる。
期待の高さゆえ映画の評価は賛否あるようだけれど、当方にはとても面白い。
部下をハゲだサルだと足蹴にする人間には、人望は生まれない。
そうして、この合戦が愚かに見えてくるのだから。
翻って、現代。
世界も今、同じような光景ではないですか。
人間というものは変われないのだと、一太刀、皮肉を入れられているようで。
2023年製作／131分／R15+／日本
配給：東宝、KADOKAWA
監督・原作・脚本・編集：北野武／製作：夏野剛／プロデューサー：福島聡司／撮影監督：浜田毅／照明：高屋齋／録音：高野泰雄／美術：瀬下幸治／装飾：島村篤史／衣装デザイナー：黒澤和子／特殊メイク・特殊造形スーパーバイザー：江川悦子／VFXスーパーバイザー：小坂一順／編集：太田義則／音楽：岩代太郎／殺陣師：二家本辰己／能楽監修：観世清和／出演：ビートたけし、西島秀俊、加瀬亮、中村獅童、木村祐一、遠藤憲一、勝村政信、寺島進、桐谷健太、浅野忠信、大森南朋、六平直政、大竹まこと、津田寛治、荒川良々、寛一郎、副島淳、小林薫、岸部一徳
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