呆然である。
もう、全部コレだったんじゃないか。
今まで観てきた裏社会映画、傑作だと感じた数々の作品のルーツ。
文化の発信地はそうか、ここだったのか。
名作映画ドシドシ観ていきたいシリーズで、本日は邦画の巨大勢力。
深作組である。
(C)東映
警察とヤクザがズブズブの町
あの『仁義なき戦い』シリーズを上回って傑作と呼ばれる、深作欣二監督による死闘だ。
あらすじは、実話取材に基づく。
広島に2人の男がいる。
久能は刑事、広谷はヤクザ。
相反する立場ながら彼らは互いに認め合い、共存していた。
久能は職務も超えて、暴力団ともツルむ意気込み。
広谷は警察をうまーく使って、のし上がり生き延びている。
警察と暴力団、本来は敵味方のはず。
が、ここでは共に笑い、飲みかわし、策略を練る。
ベッタリである。
怒鳴る、蹴る、殴る、脅す、震え上がらせる。
ヤクザが、ではない。
刑事が暴力装置と化して大暴れ。
いったい、彼ら警察人は何のためにそうしているのか。
罵り合う広島弁が飛び交い、人のセリフなど待っちゃいない。
いま、この人なんて言った?と聞き取る間もなく、次々に怒鳴り始める人々。
その沸点の低さが面白いやら、怖いやら。
カーチェイス、銃声。
躍動するカメラワーク。
その熱量といったら!
男と男の必死の攻防で共依存だ。
汗と血と怒号で、この映画は出来ている。
キャストとスタッフ
(C)東映
久能刑事役は菅原文太である。おそらく、邦画史上もっともカッコいい俳優。(異論認めまくります) 宮城県仙台市生まれで東京育ちで宮城に疎開と、広島とは無縁に育ったのに、広島弁ネイティブである。今回、菅原文太のモノマネの原点はここにあると知った。猛烈に良い男。
若頭の広谷役は松方弘樹だから驚く。渡瀬恒彦の代役だったそう。迫真である。この人が『たけしの元気が出るテレビ』でバラエティ番組に登場した際に世間が騒然となった意味が、よく分かった。芸能一家の育ちの良さは隠しきれず、荒ぶるヤクザ芝居の中にも品が残るのも良い。
金子信雄の出番は抑えめで寂しいながらも、最高な策士。
成田三樹夫の一糸乱れぬヘアスタイル。
刑事課長役の藤岡重慶が若めなので、気づくのに時間がかかった。
佐野浅夫の際立つ小役人感。
田中邦衛の使い方には大笑い!
(C)東映
梅宮辰夫の笑顔にやられた。
山城新伍が美味しい役。
室田日出男の慌てぶりに手汗が出る。
池玲子さまが美しい。
(C)東映
川谷拓三には息を呑んだ! 御自身の願いで、本気の格闘だったとのこと。目も覚めるような、ボコられ。この働きがキッカケとなって大ブレイク俳優になったというから、目頭が濡れる。しかも御本人がのちに「あのシーンは楽しかった」と語っていらして、本気のマゾを見た思い。(語弊あります) 感激だ。
笠原和夫脚本は名セリフのオンパレードでいちいちシビれるけれど、何が良いかといって、女の言葉が胸に来る!
深作欣二監督は大部屋俳優も名前で呼び、一人一人に芝居をつけていったというから、さすが! 肝心なところは見せないセンス。それは深作監督から北野武監督に直接指導され、受け継がれている。東映の制作裏話を含め、Wikipediaを読むだけでも面白い。
深作映画の迫力は観客をも押し倒す
手持ちカメラはどこまでも走り追いかけ、転がりまわる。
狭い部屋の中でも、だ。
だから、乱闘は臨場感あるのみ。
空気が張り詰め、激流となる。
映画が沸騰している。
「こんにちは赤ちゃん」のメロディの雄弁さ。
今後、あの曲を聴くたびに思い出すだろう。
もう、カレーライスも平常心で食べられない。
ヤクザ・行政・企業の事情も、うすら寒い。
設定は昭和38年だ。
まるで、裏の昭和史である。
ドキュメンタリーを超えるホンモノ度。
本当に彼らが息づき、七転八倒していたかのような光景に圧倒される。
私感で恐縮ながら、ヤクザ・暴力団・暴力組織・ヤンキー物が苦手なのですが、深作欣二監督と北野武監督の作品は大好きなのです。
それは徹底的に、人間の情けなさを描いているから。
本作の久能と広谷という役名が『仁義なき戦い』で菅原文太が演じた「広能」から来ているのも、胸熱い。
男のズルさと弱さ。
覚悟と信念。
汚いのである。
綺麗事がない世界。
関わりあいになりたくない泥沼の苦悶。
画面から飛び散る、汗と涙と血の滴。
ここは、男の友情の終着点。
1975年製作/101分/日本
配給:東映
監督:深作欣二/脚本:笠原和夫/企画:日下部五朗/撮影:赤塚滋/照明:中山治雄/録音:溝口正義/美術:井川徳道/編集:堀池幸三/音楽:津島利章/出演:菅原文太、梅宮辰夫、池玲子、山城新伍、佐野浅夫、中原早苗、小松方正、室田日出男、川谷拓三、鈴木瑞穂、藤岡重慶、成田三樹夫、田中邦衛、金子信雄、松方弘樹
※以下、当方の顔面サムネイルになってしまってチビりますけれども、『仁義なき戦い』シリーズの感想です。中身は熱めです。お時間ありましたら。
※読んでいただいてありがとうございます。情報に誤りがありましたらご一報いただけたら幸いです。
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