なんじゃろうか、コレは…
やめたほうがよいのかもしれない…ババアには合わない気がするこの感覚が…と思いながら真顔で観ていたのですけれども。
30分過ぎたあたりから謎に盛り上がり始め、観終わって1週間が経った今では毎日思い出し、しまいには懐かしくなっていたりするという謎現象。
そう、これは謎映画である。
(C)2016 Ironworks Productions, LLC.
死体を使い倒すアドベンチャー
あらすじは、こうだ。
無人島にただひとり遭難している男ハンクは、海岸でひとりの男の死体を見つける。
死体はブーブー屁をこいていた。
どう見ても死んでいるのに、である。
どうやら死後のガスがそうさせているらしい。
ハンクはその死体を使って、無人島からの脱出を試みる。
そこから始まるのである、ハンクと死体メニーとの冒険と青春の日々が。
何を言っているか分からないかと思うのですけれども、当方も分からない。
この監督の定番パターンである模様。
奇跡のアカデミー賞7冠獲得した『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』の監督コンビなのです。
冒頭からワケが分からないのである。
屁だとかウンコだとか(食事中の方には本当にすみません、この映画のせいです)、下ネタがドシドシ登場してくるのだけれど、例によって中学生レベル。
時には小学生レベル。
そういう感じにハマれなかった場合、もう無理じゃないですか。
笑えなかった時にもう、どうしたらいいか分からない。
このまま行くのであれば先に言って…と、戸惑っていたのだけれど、兎にも角にも展開が奇想天外である。
なんじゃこらが、続くのである。
ハンクには故郷に戻りたい思いがあって、自分だけではどうにもならない。
けれど、死体と一緒ならどうにかなるかもしれない。
しかも、この死体、使えそうである。
なんじゃそりゃ!
こんな脚本アイデア、どうやったら思いつくのか。
たぶん、監督たちはだいぶ頭がおかし…ぃや、実にアレと刃物は使いよう。
もしかしたら、一周回って天才なのか。たぶんそう。
キャスト&スタッフ
(C)2016 Ironworks Productions, LLC.
死体のメニー役はダニエル・ラドクリフである。みんな大好きハリー・ポッターである! 11歳からずっと、ハリー・ポッターとして魔法の世界で生きてきたスーパー子役。そのプレッシャー・ストレスたるや、18歳でアルコール依存症になったのも無理もない。魔法界を卒業してからは、自らのイメージに泥をジャンジャンかけていくスタイルだ。素っ頓狂な映画選びに驚かされる。本作では、ずっと顔色が悪い。なのに、上手い。生き生きしている。死体役なのに、だ。
(C)2016 Ironworks Productions, LLC.
遭難男ハンク役はポール・ダノだ。冴えない男を演じさせたら世界ランカー。ハマリ役。説得力が猛烈。上手いうえに、笑顔が可愛い。笑いの感覚も良いので、つい笑ってしまった。って、笑うべき映画なのだけれども! 12歳でブロードウェイでデビューした、この方も元子役である。個人的に『リトル・ミス・サンシャイン』のお兄ちゃん役が大好物。
監督は『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(通称エブエブ)で話題爆発中のダニエルズこと、ダニエル・シャイナート、ダニエル・クワンの2人だ。本作が初めての長編映画。サンダンス映画祭で好評を博し、制作会社A24が配給権を獲得したのだが、その先見の明がスゴい。作風はキテレツである。本作も「オナラをする死体」というジョークから始まったアイデアなのだそう。狂ってやがる。
アンディ・ハルとロバート・マクダウェルの音楽が素晴らしい! すでに完成していたメロディを現場で流しながら撮影したとのこと。だからピッタリ!(アホの感想)
ハリポタを使い倒して愛で包む
元ハリポタ俳優がブッ飛び、しこたま水を浴び、泥に落ち、ケツを出し、あんな扱いを受けるのは衝撃である。
スタントマンや人形も活躍しているけれど、大部分は自力で演じたというド根性。
ダニエル・ラドクリフは群発頭痛を抱えており、激しい痛みに時折、襲われており、闘病しているというのに、そんな俳優に無茶させやがるのである。
エグい。なのに、生き生きしているラドクリフ。
死体役なのに、だ。
死体という道具を使い倒していくアホアホしさに、勢いがある。
そんなシーンを観ていたら、あ!と、遅ればせながら気がついた。
タイトルの「スイス・アーミー」の意味だ。
そう、多目的に使える、あのナイフです。そうそう、コレ!↓
ナイスタイトルじゃないですか!(興奮)
ハンクと死体メニーが故郷を目指して歩くのは、森の中である。
そこに様々な光景が現れる。
軽快な音楽と共に、ファンタジーが繰り広げられる。
後悔を取り戻そうとサバイバルしていく2人の姿は、青春そのものだ。
スタジオ撮影はゼロだと思われる、オールロケ映画。
登場する獰猛な動物さえも本物だったようで、エンドロールに3人の動物トレーナー名を見つけて腰が抜けた。
そうして観終わった時には、少し放心していた。
今もまた本編をリピート再生してしまっており、気づけば『ジュラシック・パーク』のテーマ曲もついつい口ずさんでしまっている。
なんじゃろうか、と考えるに、たぶんこれは、愛の映画かと思う。
ハンクが手にしたように、生涯で、こういう冒険と内省の時間を持つタイミングは少ない。
鑑賞を迷っている方、よかったらお試しを。
ここから先はネタバレしております!
ネタバレあります! ご注意を!
ネタバレで褒めたい
最終盤で、メニーなんていなかったんじゃないかと観客は震えるわけです。ハンクがひとりで過ごしていただけの時間なんじゃないかと。本当は自力でここまで来たんじゃないかと。ええぇ…と、観客が不安になった時です、メニーが海に帰っていくという、あのシーンが現れるのは。
あれ、上手いですよね。
メニーは海をさすらう精霊の化身だったのかもしれない。ぃや、生粋の、生き返った死体なのかもしれない。
ダニエルズ監督のLGBT感覚も、ナチュラルで。
それにしてもアホだなあと眺めていると、うっかり心を持っていかれるのは新種の魔法かもしれないと思います。
2016年製作/97分/G/アメリカ
原題:Swiss Army Man
監督・脚本:ダニエル・シャイナート、ダニエル・クワン/撮影:ラーキン・サイプル/美術:ジェイソン・キスバーディ/衣装:ステファニー・ルイス/編集:マシュー・ハンナム/音楽:アンディ・ハル、ロバート・マクダウェル/出演:ダニエル・ラドクリフ、ポール・ダノ、メアリー・エリザベス・ウィンステッド
※読んでいただいてありがとうございます。情報に誤りがありましたらご一報いただけたら幸いです。
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