骨太映画の登場だ。泣いた。
日本のIT開発を大きく足止めしたとも言われる「Winny」(ウィニー)事件。これは実話を基にした、日本人が知っておくべき記録である。
(C)2023映画「Winny」製作委員会
金子勇という天才
あらすじは、法廷劇だ。Winny(ウィニー)の開発者・金子勇VS警察・司法である。
Winnyはインターネットの巨大掲示板2ちゃんねる上で配布された、ファイル共有ソフトである。誰もが映像や画像といったデータをネット上に載せて(upして)、他者と共有できるソフトだ。つまり、Winnyを使えば映画も音楽も無料で手に入る。
YouTubeが登場する前に天才プログラマー・金子勇が作ったWinnyは、2002年当時の最先端であった。だが、著作権侵害ほう助だとして逮捕される。本作で描かれるのは、その功罪だ。
裁判であり、被告人である。ところが不当逮捕・勾留を経ても、金子勇は笑いを忘れない。東大大学院助手の頭脳は、天然…ぃや、天才。なんとも憎めない。ITオタクで世間知らずで、騙されやすい。可愛らしい大の大人。飯もよく食らう。なんという魅力!
そんなオタクを救おうと、集結する弁護団のチームワーク。善意で堅実。生まれ出る友情に頬が緩む。まるで青春だ。
もう一人、仙波巡査部長という男がいる。本作は各人の背景をあえて語らない。何で察せられるかと言えば、部屋である。生活の光景が語るのだ。泣けた。
キャストとスタッフ
(C)2023映画「Winny」製作委員会
金子勇役の東出昌大は、全出演作が良作という貴重な俳優。今回は18キロ増量! ご本人にそっくり状態。物真似ではない。人物像を咀嚼して作り上げているよう。プロモーションで登場する度にいまだに盛大に叩かれているが、文句を垂れている人の多くは作品を観ていないのだと思われる。
壇弁護士役の三浦貴大も良い! 個人的に先日観た『仮面ライダーBLACK SUN』での剣聖ビルゲニア役が印象深すぎて、以来、ビルゲニアビルゲニアと呟いていたのですけれども、今日からは「壇さん」と呼びたい。丸み+分厚メガネが役に合う。
秋田弁護士役の吹越満がいつ悪者に豹変するかとドキドキした。優秀。
桂弁護士役の皆川猿時も増量していた気配。好き。
(C)2023映画「Winny」製作委員会
警部役の渡辺いっけいが良い表情。
検事役の渋川清彦が渋さ増量で震えが…
裁判傍聴芸人・阿曽山大噴火がいるリアルさが、愉快。
吉田羊は少ない出番で泣かせに来る。
仙波巡査役の吉岡秀隆は、あるシーンが猛烈に素晴らしい。シビれた。
松本優作監督は長編2作目らしくて驚く。細部まで目配りされた脚本で、観客を誘導。静かに熱い。心に残るセリフも沢山。お芝居の演出力が高く、今後も楽しみ。
敵は警察か、時代か
IT裁判で、裁判長がIT音痴。その絶望感といったらない。
が、おかげで観客にも状況が分かりやすくなるという効能が生まれた。小物使いが上手く、通帳に泣かされるとは思わなかった。エンターテイメントとして、敵味方の構図も分かりやすく。タイトルに長い副題が無いのも潔い。
大勢がIT駆け出しだった時代。Winny事件の何が怖いのか。この裁判のいったい何がおかしいのか。道具を作った人間が罪に問われるのは、正しいのか。
私事ながら当方(2ちゃんねるユーザー・オカルト板住人)は、この騒ぎを知らずにいたマヌケである。同時代に生きていたのに、だ。身内に警察関係がいることもあり、司法が著作権問題に拘った事情も慮りつつ、問題は罪状の焦点だ。やり方だ。
使い方を間違えたら、宝刀も凶器になる。パソコンソフトにしても、警察・司法にしても。自らが生み出した技術に人生を握られていく哀しみ。怖さも大きい。なのに、映画の後味は前向きなのだ。きっと、金子勇という人の魅力ゆえだろう。
時代の杭になった、一人の天才。実話法廷劇はハリウッドの得意技だけれど、邦画にも秀作が現れてとても嬉しい。
顛末は、壇弁護士が著した『Winny 天才プログラマー金子勇との7年半』でも詳しいです。
2023年製作/127分/G/日本
配給:KDDI、ナカチカ
監督・脚本:松本優作、脚本:岸健太朗、原案:渡辺淳基、企画:古橋智史、プロデューサー:伊藤主税、藤井宏二、金山、撮影:岸健太朗、出演:東出昌大、三浦貴大、皆川猿時、和田正人、木竜麻生、池田大、金子大地、阿部進之介、渋川清彦、田村泰二郎、渡辺いっけい、吉田羊、吹越満、吉岡秀隆
※読んでいただいてありがとうございます。情報に誤りがありましたらご一報いただけたら幸いです。(敬称略)
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