夏ですので、怪談映画。
四谷怪談を知らない人がいるでしょうか。(いない)
日本一有名な怪談話。
なので、本日はネタバレありといいますか、ご存知のお話を踏まえてしまいます。
破綻した夫婦のもつれ
江戸時代後期に登場して以来、あらゆる分野でオマージュされてきた珠玉の恐怖譚。その中でも最高傑作とされる、1959年の中川信夫監督作品である。
あらすじは、言うまでもないけれど言わせてください。
江戸時代。
浪人・民谷伊右衛門が、殺した女房・お岩に祟られまくるエピソードが横糸。
伊右衛門に殺られた親の仇討ちが、縦糸だ。
この伊右衛門、稀に見るキングオブクズ男。
良家の娘と結婚するために、幼子を抱えた女房を殺すのである。
しかも、エラそう。
後ろめたいことをしているのだから、もう少し猫背であってしかるべき。
伊右衛門は、浪人暮らしの鬱憤から博打にハマって文無し状態。
お岩さんにはDV。
良いところは顔と姿勢だけ。
武士は食わねど高楊枝というけれど、侍は大変だ。
プライドで失敗するタイプ。
激高して人を殺し。
職のために人を殺し。
悪知恵の指南役に流されるうちに、恐怖が襲い掛かる。
私事で恐縮ながら、こども時代に観た本作がトラウマとなり、ナゼか逆にホラー好きになってしまいました。
以前は、夏場にTV放映されていたのだ。
今では考えにくい、良い時代。
キャストとスタッフ
民谷伊右衛門役は天知茂。ザ・良い男。DV男の例に漏れず、罵倒したかと思うと甘い言葉を吐くという、バイオレンス&ハニー。幽霊を見た直後でも息を整えられる、生粋の武士でもある。
お岩さん役の若杉嘉津子が壮絶な芝居。天井から吊るされ、水没させられ、肉体を酷使。この方の根性あってこそ名作になったのだろう。しかも高所恐怖症だったというのだから! それは泣く!
妹役の北沢典子が可愛いらしい。
良家の娘お梅役が池内淳子だったとは、気づかなかった!
渡辺宙明がホラー音楽の定番を作った。気がします。
原作は四代目鶴屋南北による歌舞伎の演目だ。今で言う実話系怪談。怪異パートは創作だが、元になる事件は実際にあったと言われている。詳しくは→Wikipedia
『仮名手本忠臣蔵』のスピンオフであり、映画では割愛されているが、民谷伊右衛門は討ち入りでお家お取り潰しになった赤穂藩の武士である。
中川信夫監督は才能が炸裂。総天然色のカラーをフル活用。赤い色を効果的に挿入。血の一筋の威力といったら。光と影を駆使して心情も発露させてくる。幽霊攻撃を受けて慄く伊右衛門でさえも、美しく撮るセンスだ。
恐怖と哀しみが畳みかける
お岩さんが倒れてから、伊右衛門が祟られるまでが早い。
怪奇現象の畳みかけである。
ひー!と驚いている間に、もう次の怪異が足元で待機。
幽霊になってからも、なる前も、有名すぎるお岩さんのメイクはやはり衝撃的だ。
怪奇現象の仔細を知ったうえで観ても、失禁。
「うらめしや」も「この恨み晴らさずにおくものか」も、耳から離れない。
戸板返し。水飛沫。
恐怖シーンは怖いだけでなく、全てが絵になる。
スタジオ撮影と思えぬ、天候の操り方にもシビれる。
伊右衛門のいかんともしがたい心情も描かれるから、つらい。
婿養子なので、嫌味も言われる。
生前のお岩さんは親を殺され、貧乏暮らしで心が荒んでおり。
良家の娘だったプライドも残っている。
2人の周囲の人々も、哀しい人生なのでやりきれない。
1959年には三隅研次監督による『四谷怪談』も作られ、なんと同じ公開日であった。
いまだに、お岩さんの呪いは生きていると語られる名作怪談である。
名前を呼ぶだけで呪われるというホラーのパターンも、お岩さんからではないか。
殺した女に祟られる、まさに因果応報。
恐ろしさだけではなく、人の心の格闘に見ごたえがある。
ラストの余韻の切なさ。
Jホラー最高の1作だ。
1959年製作/76分/日本
監督:中川信夫、原作:鶴屋南北、脚本:大貫正義、石川義寛、撮影:西本正、美術:黒澤治安、照明:折茂重男、録音:道源勇二、音楽:渡辺宙明、出演:天知茂、若杉嘉津子、北沢典子、江見俊太郎、池内淳子、中村龍三郎、大友純、林寛
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