ガンダム外伝 戦場の羽 01-1 | Makomakoのブログ

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自分が感じ、文章に残しておこうと思った事を綴っております。いいことも悪いことも。
社会のこと
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日記や食べたり飲んだりしたことなんかも。

テーマ別に見られるようにしております。
良い方向に向かう手助けになるといいな。

― コロニーが落ちたあの日 ―

 どこにでもあるようなごく普通のマンション。その六畳一間の一室で一人の青年が座っている。

真夜中で部屋の中は暗いのにルームライトもつけていない。

ただ冷蔵庫等の電化製品の電源ランプが灯り、部屋の中央に置いてある機器から立体映像が投影されている。そしてその映像を一人の青年が眺めていた。

彼の目前で純白のドレスを纏った美女二人の立体映像が現れ、歌う。部屋の中なのにライヴのステージの最前席にいるような感覚に包まれている。眼の前にいる美女がときたまこちらに微笑んでウインクもくれる。手も差し出してくれるので、青年がその手を握ろうとするが幽霊の如く握れなかった。触っているのが分からないかのように目の前の二人が歌っていた。

彼自身も触れないと分かってはいるのだが、ついやってみたくなる。どうせ立体映像だしこちらがこんなことしているのも向こうは分からないだろう、そう思い、気が大きくなって抱きつこうとするが、当然、すり抜ける。すっころびそうになるが辛うじて四つん這いになってしのいだ。

そんな機器の真上で四つん這いになっている青年の腹に光が当たり、映像が途切れる。音声だけが聞こえて過去のライヴ映像が一曲、流れた。青年は起き上がり座り直す。曲が流れ終わり、現れた二人は鮮やかな和服に着替えていた。

「最後の曲は、和[なごみ]!」

曲名を叫び、慎ましい大和撫子のように歌を奏でていく。いてて・・・額に出来たたんこぶの痛みをこらえつつ、青年は二人に見入っていた。

 

次の日、その青年は公園の喫茶店でカフェイン入りドリンクを摂り、眠気を我慢して職場に出勤する。

他の社員がそんな彼に冗談を言って声をかけた。

「キサラギ、眠そうじゃないか。夜の街に、お遊びにでも行っていたのか?」

「マコトさん、・・・いやあん!」

勝手な妄想で人を弄ばないでくださいよ、キサラギと呼ばれた青年はそう思いながら単に深夜番組見て夜更かししていたんですよ、と言っておいた。


彼の名は《マコト・キサラギ》

サイド2にあるコロニー修理の下請け会社に数年前、入社した平社員だ。


昨夜はあれから、応援しているアイドルユニット《ナデシコ》のライヴ配信を何度もアーカイブ放送で観ていて眠れなかっただけなのだが、わざわざ正確に言わなくても良いと思う。

しかし、眠い。夜更かしをし過ぎたか。こんな寝不足な状態でちゃんと仕事が務まるのか?早めに寝ておけば良かった。マコトはうつらうつらしながらそう考えていると、上司に背中を叩かれた。


「落ち着いてやれ、今日で今の修理を終わらせる。今年最後の仕事だ。気合入れて行けよ!少しでも危険を感じたらいつもの手順で休憩しておけ。明日から倒れていいからな。」

上司はそう言って更衣室へ入っていく。あとは俺が眠気とストレスに気合で勝てばいいだけか。マコトはそんな事を考えながら眠そうな目をこすり、あくびをしながら更衣室に入って空間作業着を着る。そして作業ポッドで宇宙空間へと出た。

働いている職場はスペースコロニーの工事を受け持つ会社だ。愛用の《SP―W003空間作業用ポッド》(宇宙での作業をする為の一人乗りの作業機械である。)を動かしサイド2でコロニーの補修作業をしている。多くの人間が住み続けるスペースコロニーも長年使用していると古くなった部品の交換をせねばならないところや故障が出てくる。機械というのは作ればそのまま永遠に使える、というわけではない。マコトが勤めている会社はそういったコロニーのメンテナンスを請け負う会社だった。今日でここ、自分達の住むスペースコロニー《アイランド・イフィッシュ》の補修工事を終わらせるぞ!と社員一同、頑張る。マコトだけ作業中に気を失いかけてデブリに衝突しそうになったが上司と仲間が支えてくれて大事にはならず、無事に終わらせる事ができた。眠そうなマコトをみて、失敗しないか気を付けていたらしい。

たまにミスするのは今に始まったことではないからな、昔よりは減ったよ、といわれた。

(申し訳ない。また助けられたか。気をつけているんだがな…)

すみません。ありがとうございますと礼を言い、夜更かしは控えねば、と痛感した。

一部危なっかしいところもあったが今年の仕事は終わった。いよいよ会社も年末の休業に入る。「お仕事、お疲れさまでした、来年もよろしくお願いいたします!」と会社の事務所であいさつをかわし、それぞれ帰宅していく。マコトはありがとうございます、助かりました、と礼を言い、眠そうにしながら事務所を出た。

よし、年末年始の休暇に入った。早速明日、実家に帰るか。

マコトは実家に帰省するため、シャトルや飛行機のチケットの座席予約を取りスーパーの惣菜コーナーの弁当を物色、幕の内弁当を買った。焼きそばやカレー、丼など色々あるがなるべくバランスよく摂りたい、ということで肉や野菜のバランスをみて購入した。明日からの帰省が楽しみだ。両親や地元の皆に会いたい。久しぶりに北海道の自然を満喫したい。考えていると顔がほころんでくる。そんなマコトを通りすがりの人が、

?と眺め、すれ違っていった。

自宅の寮に帰りシャワーを浴びる。端末の電源を入れて、先程買ってきた幕の内弁当をいただく。明日から里帰りするので今日は早めに寝たい。荷物はもう先日の内に作ってある。シャトルのチケットはバッグのポケットにしっかり入れたのも確認した。昔見たかっこいいロボットアニメの再放送でもみながらポテチをパリポリと食べる。十数メートルのロボット同士が立体映像の空間の中で戦っていた。・・・かっこいい。いいなあ、この主人公のようにロボットに乗って悪と戦ってみてぇ、可愛いヒロインと愛し合いてぇ・・・今の俺には何がある?ヒーローみたいにカッコ良くないな。苦楽を共に歩む女もいない・・・でもコロニー工事だって人間の為に必要なんだぜ。わかってくれて一緒になってくれる女性でも現れればなぁ・・・マコトはそんなことを想いながら、心地良い疲れと眠気、シャワー上がりの気持ちよさに包まれて、すぐに眠りについた。

 

次の日、ベッドの中で目が覚めたマコトは寝ぼけ眼で辺りをキョロキョロ見回す。意識がはっきりしてきた・・・今日が地球に行く日だと気が付く。すぐさま身支度を終え宇宙港に向かう。何とか手続きに間に合いホッとするマコト。はあ、はあ、危なかった、空港手続きに遅れたら乗れないこともあるから時間に余裕をもって出かければ良かったのだが・・・走って乱れた息を整えてシャトルに乗る。席に座りシートベルトを着用、発進を待った。その後、さほどGもなくシャトルが地球に向けて飛び立つ。定刻通りに大気圏突入し、ホンコンの宇宙港に着陸した。そこから、飛行機での長旅をこなして久しぶりの北海道に到着。さすがにまわりは雪が積もっている。そこには車で両親が出迎えてくれた。

実家では両親がおいしいご馳走をふるまってくれた。焼魚等の海の幸、山菜や野菜等の山の幸、新鮮で白いご飯も旨い。ありがたい。食事を摂り風呂に入った後、昔住んでいた部屋でくつろぐ。一年ぶりの部屋に懐かしさを感じる。久しぶりに家に帰って来た実感が湧いてきた。

次の日、エレカを両親から借り近場の湖に釣りに向かう。雪道仕様にスタッドレスタイヤもちゃんと取り付けられてあり、安全運転でブラックアイスバーンになっていた道路も難なく運転をすることができた。湖畔のキャンプ場駐車場に車を止め、インレット(川の流れ込み)を狙ってみる。グッと竿をもたげ比較的軽いアタリが感じられたのでランディングネットを使わずに取り込む。上げてみると二十センチくらいのアメマスが上がった。久しぶりに出会ったアメマスにお久しぶり!と声をかける。ちょっと小ぶりだな、と思い大きくなってくれよ、と声をかけて湖へと放す。もっと大きくなってから、また勝負したいものだ。何はともあれ久しぶりの釣りを満喫した。その日は湖畔の観光施設でランチにしてから家に帰る。

その晩、食事の席で両親から従妹が結婚したことを話してくれた。いい話題だ、めでたい。実家に従妹から届いたメールには新婚旅行はオーストラリアに行ってきます、というメッセージ、それと幸せそうな従妹とちょっと軽薄そうな男性の画像が映っていた。こんな旦那えらんだのか?結婚自体は嬉しいニュースだが、大丈夫か?浮気したりして離婚に発展したら嫌だな。そんなことになったらライフル銃でも持って殴り込むか?そんな事を考える。

両親は自分にもそろそろ結婚して欲しいようだ。結婚して子供を育てていかなければそこで我がキサラギ家はおしまいだ。自分たちはしっかり育てたのに勝手に命のバトンを止めるな!って思うのも納得がいく。だが、現実は厳しく、なかなかいい伴侶に巡り合えない。どこかに自分だけのことを考えてくれる女性がいるといいんだけど・・・

そんな事を考えていると携帯端末のランプが点滅していたのに気付いた。チェックすると友人からメールが来ていたと表示されていた。学生時代からの友人のナオユキとセイイチからだ。部屋に戻り、メールを開く。セイイチは地球に、ナオユキはサイド3にそれぞれ住んでいる。学生時代は近くに住んでいたが、大人になり、バラバラに暮らすようになった。だが今もこうして連絡くらいは取り合っていた。二人からのメールはライヴは観たかい?年末はなにして楽しんでいる? という短い内容だった。観たよ。今は実家でゴロゴロ。そっち、どうよ?と近況を尋ねる返信をしてから、ベッドに横になる。しばらくして着信音が鳴った。

「こちらは地球で軍隊入っているからな。トレーニング漬けの毎日だ。」

「こっちは昨年1月からサイド3で徴兵されたんで訓練しているよ。引っかかるから詳しいことは聞かないでね。とりあえず元気にトレーニングしているとだけ教えておくよ。」

二人からの返信を確認する。連邦軍とジオン軍にそれぞれ入っている友人たち、か。もし戦争になったら二人は殺し合うことになるのかな?それは嫌だな。外交官さん、頼みます!と願わずにはおれない。社会情勢をチェックして初詣でも祈願しておくとしよう。

 

数日経って正月、近くの神社に初詣に行く。お賽銭を入れて二礼二拍手一礼。そして一年の健康と仕事の成功、平和を祈る。お布施を奉納してお守りを一体、授かる。

「マコト兄さん、新年あけましておめでとうございます。お久しぶりです。」

ここの神主の娘のケイに会い、新年の挨拶を交わす。小さい頃に一緒に遊んだ、昔から知っている馴染みだ。心の綺麗な人でいい嫁さんになりそうな女性ではあったが遠い血のつながりがあったし、神職の道に進む彼女と宇宙に上がってコロニーをいじっている俺では道も違っていた。口説いていい女性ではない。彼女を幸せにするのは同じ神職の道に進むしっかりした男なのだろう。そんな彼女が大人になり、お務めを果たしている姿にちょっと感動しつつ、俺も頑張らねば、落ち込んでる場合じゃねぇ!マコトはそう思いながら遠くの従妹が結婚したことなどを話した。

今度結婚したあの子=マリアはオーストラリアに新婚旅行に旅立ったらしい。と話していると、ケイも近々結婚すると教えてくれた。初めてケイが結婚することを知り、驚く。遅かれ早かれこうなることは予期してはいたが、同じ年に二人共結婚?と驚く。

「・・・おめでとう!それにしてもマリアと言い、ケイと言い、二人共、ちょいと早くない?いつの間にそんな話になっていたんだよ・・・隅に置けないな。」

などとケイを茶化しつつ話していたがあまり長く話してはほかの参拝客の迷惑にもなるので早々に話を切り上げて帰宅した。

知り合いが今年二人も結婚するとは驚いた。いいなあ、羨ましい。俺もそろそろ考えるべきか?と思いつつコタツの中で横になるマコト。みかんが何個か入ったお盆からひとつ取り出し、じいっと眺める。従妹のマリア、ケイ、ナデシコのユカリ、そしてユイを思い浮かべ、みかんの皮をむき、ほおばった。そして皮をこたつの上のお盆に置き、ごろ寝する。残りの一日はのんびりこたつとミカンで過ごした。

一月三日、帰りの日が来たのでマコトは旅客機とシャトルを乗り継ぎサイド2へと飛び立った。しかしシャトルはサイド2に向かわず、衛星軌道上の連邦軍宇宙基地内にある宇宙港に着陸した。地球の周りを回る衛星や地球からコロニーや月等に移動する際の整備や修理を行う中継地の役割を担っている場所だが目的地に向かわずに止められるとは何事だろうか?ただならぬ雰囲気が感じられる。何事かとざわめいていたが、十分くらいしてシャトルに乗り込んできた連邦軍の士官からサイド1、サイド2、サイド4に対し、ジオン公国軍が軍事攻撃を行っているという衝撃的な事実を聞かされた。それを聞いたマコトはすかさず、端末を操作し情報をチェックする。どこかの方が動画をアップしていた。

近くにはジオン軍の艦船やSFで見たような人型のロボット(後にザクという名のモビルスーツと知ることになる)が現れ、ピンク色に目を一瞬輝かせたかと思うと一瞬にして飛び去って行く。連邦の艦船や航空機等の様々な残骸が漂っている様も見受けられる。

「マジかよ!」マコトは動画を観てつい、そう呟く。その隣で端末を覗き込んでくる方も何人かいた。・・・!このコロニーの外見、俺のアパートと会社のあるコロニーじゃないか?!人の家に何する気だ?会社を心配しながら携帯端末の動画を見入っていると、話をしていた士官に咳払いをされた。マコトは話し中に悪い事をしたと、お詫びの意味も込めてばつの悪そうな顔をして頭を下げて詫びる。

「状況は確認できたな。そういう理由で諸君らにはこれからしばらく軍の指示に従っていただく。追って連絡するのでその場で待機をお願いする。」そう話して去っていった。

「戦争が始まってしまったのか?冗談じゃない!」

人知れずそう呟く。いよいよ開戦してしまったのか。いったい、何人死ぬことになるだろう。戦争は多くの人間を巻き込む。嫌だね。早く終わって欲しいものだ。サイド2が戦場になっているから、もしかしたら俺の家が衝撃で本棚が倒れたり何か壊れていたりするかもしれない。それに戦争が長引けば俺の友人たちも負傷したり、殺し合う羽目になるかもしれない。

 「俺もそう思うよ。奴らを返り討ちにしてやるから、待っているんだな。」

 マコトの呟きが聞こえたのか去り際に一言、付き添いの兵士がそう付け加えていった。

その後、シャトル搭乗員や旅客は一室を与えられ、身体を伸ばすことが出来た。座った姿勢で(というか同じ姿勢で)長くいると血流が悪くなり余計な病気になりやすい。ストレッチをして体を伸ばす。他の旅客たちも何人かやっていた。だが長旅で疲れていたので早々に切り上げ、毛布で体をくるんで睡眠をとることにした。体が興奮しているのか寝付けないが、横になって仮眠でもいいから充分な睡眠は取らねばなるまい。マコトは、そう考えていたが乗り継ぎで疲れていたせいか、いつの間にか眠っていた。

 

気がつくとコロニーの職場の事務室にいた。職場の先輩方、事務のお姉さん、同僚たちがいてお茶をすすっている。これは、会社が休みに入る前の夢か?それとも・・・

「キサラギは実家に行ってきたから元気そうだな。俺達も旅行を楽しんでくるわ。」

上司からそんな声がかかる。・・・お、社員旅行ですか?いいですね!なら社員の私も当然・・・と言うマコトに職場のみんなは悲しい顔や険しい顔をする。

「何言ってやがる、また北海道でも行って来いよ。元気でな。」

そう声をかけられた。いくらなんでも村八分はあんまりだ、とマコトが思った瞬間、

 

視界が急に何もない体育館のような一室に変わる。周りには毛布にくるまって寝ている人や体操をしている人がいる。あ、見覚えのある人だ、確か一緒にシャトルに・・・そうだ、俺、シャトルに乗っていたんだ。そして確か宇宙ステーションで止められて・・・

さっきの社員旅行で村八分、は夢か。どのくらい寝ていただろうか、あんな夢を見るなんて、なにかあったのだろうか?サイド2がジオン公国軍に攻撃を受けていたと軍人さんが言っていたし、会社の連中の身に何かあった気がする。胸騒ぎがして携帯端末をチェック!すると衝撃の動画が出てきた。コロニーが地球に向かって落ちる・・・

「ちょっと待て!あんなものが落ちたら人も生き物も!仲間たちも!」

人知れず叫んでしまったマコトをみて近くの人が集まってくる。ちょっとみせていただけますか?と持っている端末を周りの人が覗き込んでくる。コロニーの塗装、番号が辛うじて見えた。拡大してみる。・・・俺の居たコロニー《アイランド・イフィッシュ》に間違いない。何年も仕事で毎日見ていたものを見間違えるわけがない。

 

「アイランド・イフィッシュが、うそだろ・・・俺の家、会社のみんなは・・!」

 

マコトは拡大した動画を観て、落下するコロニーが自分たちの向かっているスペースコロニー=《アイランド・イフィッシュ》だと確信し、つい声に出してしまった。それを聞いた周りの人たちも地球に落下しているコロニーが、自分たちが向かっているコロニーだという信じがたい事実を知る。

「え?・・・いやあああ、あなたぁ!」 

「なんてことを・・・娘たちはぁ!」 

「そんな・・・ことって」

 

動画を見て悲鳴をあげる者、怒りに震える者、皆、様々な表情を浮かべて動画に映る、落ちていくスペースコロニーを見ていた。そんな時、着信音が鳴り、メールが一件届いた。その音で遠くの従妹、マリアの携帯端末からだとわかる。オーストラリアに新婚旅行に行っているあいつらからだ。動画が終わったところで周りに失礼してメールアプリを開く。

 

 

マコトさまへ

いままで、お世話になりました。私たちは天国で暮らすことになりそうです。

母をよろしくお願い致します。戦争が終わったらシドニーにお花を送ってくださいね。

 

 

気付いたら、俺は叫んでいた・・・