【85点】監督:クリストファー・ノーラン (脚本も)


面白いが微妙…
世界初の原子爆弾を開発した「原爆の父」として知られる、理論物理学者ロバート・オッペンハイマーの生涯を描いた伝記映画。製作費約1億ドル。


第96回アカデミー賞では作品賞、監督賞、主演男優賞、助演男優賞、作曲賞、撮影賞、編集賞の7部門で受賞。(ノミネートは13部門。)

上映時間3時間。

この壁を乗り越える必要があります。鑑賞前日、禁酒し、睡眠を十分にとって臨みました。確かに長いけど苦痛でない

しかし、アクション少なく(ほとんどない) 会話劇中心なので、字幕を追っかけ続けるのがつらい。



原作:2006年ピュリッツァー賞を受賞した、カイ・バードとマーティン・シャーウィンによるノンフィクション「『原爆の父』と呼ばれた男の栄光と悲劇」。未読。

第2次世界大戦中、才能にあふれた物理学者のロバート・オッペンハイマー (キリアン・マーフィ) は、核開発を急ぐ米政府のマンハッタン計画において、原爆開発プロジェクトの委員長に任命される。
しかし、実験で原爆の威力を目の当たりにし、さらには実戦で投下される。
恐るべき大量破壊兵器を生み出したことに衝撃を受けたオッペンハイマーは、戦後、さらなる威力をもった水素爆弾の開発に反対するようになる。



キリアン・マーフィ、主人公のロバート・オッペンハイマー。
原爆計画参加前の科学者の顔 (少し怯え気味の顔)、原爆作成までの顔 (狂気に取り付かれた顔)、原爆使用後の顔 (後悔と保身の顔)、いろいろな顔を見せてくれます。アカデミー主演男優賞、おめでとうございます。

でも、オッペンハイマーの女癖の悪さは、クズですね。m(__)m




エミリー・ブラント、オッペンハイマーの妻キティ。
生物学者で植物学者。アルコール中毒になるが、生涯夫の味方として支える。
恐妻です。叱咤激励なのですが、叱咤が恐怖です。般若の顔です。



ロバート・ダウニー・Jr、原子力委員会議長のルイス・ストローズ。
オッペンハイマーとの対立の根幹は、コンプレックスと馬鹿にされた仕返し、というくだりが怖いですね。アメリカの正義も、原爆の正義も吹き飛びます。
アイアンマンを1ミリも感じさせない演技力、アカデミー助演男優賞、おめでとうございます。



マット・デイモン、アメリカ陸軍の軍人・レスリー・グローヴス。
原爆開発プロジェクトを主導した、ゴリゴリの軍人。最後まで科学者を理解しないところが良い。
太った?レオナルド・ディカプリオに似ていませんか? m(__)m



フローレンス・ピュー、オッペンハイマーが大学の教授だった時代の恋人・ジーン・タットロック。
このエロさ、目がテンになりました。(だって、オッパイもろ見せですよ。m(__)m)
なんか、今後一気にトップに駆け上がりそうな予感がします。

体型は違うけど、シャロン・ストーンに似ていませんか? 






カラー映像モノクロ映像が交差します。
カラーがオッペンハイマーの視点、モノクロがストローズの視点です。
時系列で並べると、
1.原爆の開発。
科学者だったオッペンハイマーが、マンハッタン計画を主導し原爆を開発するまで話。
…原爆計画を始める前のエピソード、監督の意図がわかりません。少し長くない?
…粒子のイメージ映像や原爆実験の爆発映像…等、芸術作品を見るような美しさがあります。

2.水爆開発に関する会議
原爆を開発したオッペンハイマーが水爆開発の推進に反対し、当時の原子力委員会長官・ストローズと対立する。


3.オッペンハイマーの査問委員会。
不倫やソ連のスパイ疑惑など、オッペンハイマーの国家機密へのアクセス権を更新すべきかの査問委員会。
…役者vs役者、多数の役者が皆さん上手すぎます。オッペンハイマーを追い詰める人たち、憎たらしすぎです。
真っ向対抗するエミリー・ブラントの妻キティ、本当に怖くて強い。
しかし、こんなに酷い査問委員会って実話?アメリカ腐ってますね。(日本も同じか。)

4.ストローズの公聴会。
商務長官就任にあたって、オッペンハイマーとの関係について追及される。

※1と3がカラー、2と4がモノクロ。
映画の流れは時系列ではないので、頭がついていくのが少し難しい。(年号とかのテロップほしいですね。)




誰もが知ってる相対性理論で知られる、天才物理学者アインシュタインとオッペンハイマーの交流。
「へえー、そうだったんだ」なんか、ほのぼのする感じ。



(以下ネタバレ)


原爆投下については、広島、長崎の映像は出てきません。しかし、アメリカでの会議・会話には随所に出てきます。
ヒトラーが死んで、ドイツが降伏したので、原爆の投下を日本に向ける。
日本人としては悔しく思います。
戦争を終わらすためではなく、新爆弾の威力 (破壊力) の確認をしたかったんだ。


広島、長崎を描かなかったことについてノーラン監督は、
「これはオッペンハイマーの視点で語るものであり、自身も一般人と同様、投下をラジオで知ったからだ」と述べています。
複雑です…はたして、生々しい破壊映像が作品に必要なのか?



原爆投下後の観衆 (原爆作成関係者と家族) の前での、オッペンハイマーのスピーチ。
事実なのか、創作なのか……日本とドイツに対する暴言は許せません。日本人とドイツ人だって、この映画を観ているのだぞ!
直後の映像で、観衆の少女の皮膚が剥がれるシーンがありますが、そんなもので許されるものではないのです。

査問委員会で敗れて公職追放されたあとの、オッペンハイマー晩年の人生は映画では描きません。
つらい晩年に思えますが、水爆反対と軍縮の信念は貫いたと感じました。

映画全体のトーンとしては、
前半は、原爆開発までの科学者の止められない行動力を鼓舞する映画。
戦意高揚には、感じません。

後半は、原爆の威力に恐怖し、抑止を試みるが、敵が多すぎて無力化し埋もれていく。
反戦映画に立ち位置を寄せてはいるが、振り切ってはいない。

PS (映画鑑賞後に知りました。)

オッペンハイマーは、
1960年、日本に来日しています。

1967年、咽頭がんのため62歳で死去。