【90点】監督:安田淳一 (脚本と撮影も)

お見事でござる。
タイムスリップが苦手ですが、これは上手い。良く出来た脚本です。

映画の成功は、製作費の多さやネームバリューのある役者ではなく、アイデアと情熱なんですね。
今のところ、今年の日本映画、ベストワンです。


幕末の京都。
会津藩士の高坂新左衛門 (山口馬木也) は家老から長州藩士を討つよう密命を受ける。
標的の男・風見恭一郎 (冨家ノリマサ) と刃を交えた際、落雷によって気を失ってしまう。
目を覚ますと、そこは現代の時代劇撮影所だった。
新左衛門は行く先々で騒動を起こしながら、江戸幕府が140年前に滅んだことを知り、がく然とする。
一度は死を覚悟する新左衛門だったが、心優しい人たちに助けられ、生きる気力を取り戻していく。
やがて彼は磨き上げた剣の腕だけを頼りに撮影所の門を叩き、斬られ役として生きていくことを決意する。



自主制作作品でありながら、東映京都撮影所の特別協力によって完成させました。
「自主映画で時代劇を撮る」という無謀さに、「脚本が面白い」と、東映京都撮影所が特別協力しました。
制作にかかわった関係者の皆様、本当にご苦労さまでした。



前半のサムライ高坂が遭遇する、現代日本とのコメディ描写。大袈裟過ぎないのが良く出来ています。
撮影所のゾンビに驚いたり、イチゴのショートケーキに涙したり、テレビの時代劇に驚愕したり、笑えるししんみりとします。
140年前の江戸幕府滅亡も、さりげなく解らせる。
そして、真剣を捨て斬られ役として生きる。…流れが上手い。



山口馬木也、主人公の高坂新左衛門。
まったく知りませんでした。すいません。m(__)m
絶賛!超人のような剣さばき、実直な身のこなし、本当のサムライに見えました。
後半の葛藤、決意、泣けます。会津弁の響きもよく、さりげない天然ボケも素晴らしい。
当然、主演男優賞にノミネートします。



冨家ノリマサ、大スターで高坂の宿敵・風見恭一郎。
テレビドラマでよく見かけます。ほのぼのした役や、悪役もこなしますが、いずれも脇役です。
参りました、凄いです。特にラストの大立ち回り、体力よく持ちこたえました。
62歳の大ベテラン、堂々と助演男優賞にノミネートします。



沙倉ゆうの、時代劇の撮影組で助監督の山本優子。
健気で前向き、まさにヒロインの王道です。
この作品を契機に、もっともっと売れてほしいです。



時代劇の撮影シーンや、立ち回りの稽古シーン、興味深く楽しいです。
ベタな笑いや、デフォルメもありますが、さじ加減が上手いので脱線しません。

斬られ役として生きていく高坂、ここからどうなるのか?
あっ、と驚く展開になります。





(以下ネタバレ)




大スター・風見恭一郎が10年ぶりに時代劇に主演し、相手役に高坂新左衛門を指名します。
なぜ?この謎解きがお見事。
風見恭一郎は幕末の京都で、高坂と真剣で斬り合った宿敵。
彼も、タイムスリップしていたのです。顔が違うよね?
風見は高坂より30年前の時代にタイムスリップしていたのです。
そして、斬られ役からのし上がって、時代劇の大スターになったのです。
10年前に時代劇を捨てた理由も、タイムスリップ前の人斬りが原因なのです。
そして、高坂を偶然見て、時代劇復活を決意し、相手役に指名する。
…なんて上手い脚本なんでしょうか!タイムスリップの時差による因縁復活劇です。

二人は映画共演し、順調に進みます。
が、脚本変更により、高坂の同胞・会津の人たちの、過酷な末路を知り、激しく動揺します。
…この脚本の流れは、上手すぎます。



そして、二人は映画の対決シーンを真剣 (本物の刀) で戦うこととなります。
この立ち回り、大迫力です。真剣の重みや鋭さがギリギリと映像に映し出されます。
えー!結末はどうなるの?マジにハラハラしましたよ。

答えは、書きません。映画館で観てください。

そうか……ハッピーエンドでよかったよ。
おまけに恋の予感もあって、さらにボケでエンド。

本当に、面白かった!


8月17日に池袋シネマ・ロサのみで公開がスタートし、9月13日より新宿ピカデリー、TOHOシネマズ日比谷ほかで順次全国拡大公開されることが決定しました。拍手!
私は、川崎のチネチッタで観ました。平日の夕方、けっこう観客入っていて嬉しい!
口コミとSNSの力です。(こうなるとSNSも悪くないかな…)