千石正一氏が亡くなってもう12年が経つ.......。当時の爬虫両生類界を席巻した巨人であり、氏の残した書籍や記事は今でも、筆者の宝物である。手紙のやり取りも何度かさせていただいたが、お会いする機会はなかった。

専門の爬虫両生類に限らず、他の生物ひいては色んな分野に詳しい博覧強記の人物との評価が高く、表題の言葉も氏が雑誌に執筆していた記事の中で初めて見て知った言葉だったと記憶している。意味は「珍しいものも見馴れてくると違和感を感じなくなる、逆に日頃から見馴れたものにも新しい発見がある」ということ。

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 爬虫両生類についても、外国産の珍奇な種の形態、生態のものは当初は関心が湧くが、馴れるとすぐに飽きてしまいがちである。勿論、全てではないが......。そして、飼っている個体をその辺に放す。見つかって問題となる。飼育禁止になる。最悪の流れである。さて、見馴れた種類の場合であるが、研究が進むにつれ、意外な側面が発見されて今更ながら驚くことがある。だから、見飽きない、飼ってて飽きないのかもしれない。例えば、ヒバカリという日本産の普通のヘビ。筆者は飼ったことはないが、大人しくて殆ど咬み付いてこない種類とされてきた。名前の由来は、咬まれたらその日のうちに死んでしまうと言われてきたことにあったが、そんなのは迷信であると思われてきた。しかし、近年は、上顎の後部に長い牙があって、そこから白い「毒液」が分泌されることが分かってきたのである。牙は彼らの主食である魚やカエル、オタマジャクシを捕えた時に、滑らないようにするためであるのは容易に察しがつくが(カエルの場合は牙でパンクさせる目的もあるかも)、「毒」まで備えていたとは.......。この「毒」、人間にはほぼ害はないが、咬まれたカエルが動かなくなることが観察されているので、それなりの効果はあるようだ。しかしである。こんな基本的なことに今まで気づかなかったとはお粗末である。我が国の爬虫類学者のレベルの低さに呆れる(以前から半ば密かに半ば公然と指摘されてきたことではあるが、趣味人の方がレベルが高いのでは?)。そして、こんなことも考えた。昔は、咬まれてその日のうちに亡くなった人がいたのかもしれないと。たとえ、弱い毒でも体質や体調によっては重篤化することはあって、正真正銘の無毒蛇のアオダイショウやシマヘビでも、咬まれて発熱したり嘔吐することもあるようだし。

 これにて、一旦、終了。