三菱地所とロックフェラー

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三菱地所、続きがあったロックフェラー物語
「ジャパンマネーが米国の魂を買った」――。
1980年代後半のバブル経済を経験したことのある日本人なら、高揚感と表裏一体になったわだかまりを覚えていることだろう。
ニューヨークの目抜き通り5番街にある複合施設、ロックフェラーセンター。かの大富豪ロックフェラーが大恐慌をまたいで建設した、70階建ての超高層ビルを含む重厚な複合施設だ。89年に三菱地所が、その保有会社、ロックフェラーグループ(RGI)を約2200億円で買収することを決定するや、米国全土で激烈な「日本たたき」のうねりが巻き起こった。
「バベルの塔」ならぬ「バブルの塔」と呼ばれたロックフェラーセンター。だが、程なくバブルは崩壊。RGIは95年に米連邦破産法11条(チャプターイレブン)を申請してあえなく破綻する。三菱地所は96年3月期にRGIの株式評価損として1500億円強の特別損失の計上を余儀なくされる。53年の上場以来、初の最終赤字転落だった。かくして三菱地所とロックフェラーの物語はバブルに踊った日本人の失敗事例として歴史に刻まれることになるのであった……。
一般の人が覚えている「ロックフェラー物語」は恐らくここまで。だが、実際には続きがある。
17年後の2013年10月31日。「海外事業が好調で、2ケタ増益を確保することができました」。13年4~9月期決算発表の記者会見の席上で、三菱地所の加藤譲専務執行役員はこう胸を張った。連結営業利益は前年同期比26%増の737億円となり、2014年3月期通期では前期比35%増の1600億円を見込む。そのけん引役が海外事業なのだ。海外事業の営業利益は上期に201億円と前年同期比5倍弱に膨らみ、全体の27%を占めた。通期でも全体の15%の営業利益を海外事業が稼ぎ出す計画だ。
上半期の収益を押し上げたのは、世界中から投資マネーが流入し、不動産価格が高騰しているロンドンの物件の売却。金融街シティにあるパタノスター・スクエアにある1棟で、テナントにはロンドン証券取引所も入る。
詳細は明らかにしていないが開発に着手した時期は1990年代初めのいわゆるバブル期だが、3ケタ億円規模の売却益が出たもよう。リーマン・ショック以降、先進国のオフィス市場はそろって落ち込んだが、日本よりも先にロンドンや米国が回復。一部では過熱感も指摘され始め、「グッドタイミングの売却」(外資系証券)と評される。
今やRGIは米国10州、合計で約30の開発プロジェクトを進める。従業員の350人のうち三菱地所からの出向者は9人だけだ。2006年には、RGI傘下の米不動産仲介大手のクッシュマン・アンド・ウェークフィールドを600億円強でイタリアの投資会社に売却。
10年にはRGIを通じ、欧州で不動産ファンドを運用する英ヨーロッパキャピタルグループを傘下に収めた。
さらにRGIは今夏、米国で日本の機関投資家向けの不動産ファンド「ロックフェラーグループU.S.プレミア オフィス ファンド」を立ち上げ250億円を調達した。
三菱地所の戦略は明快だ。本拠地である東京のビジネス街、大手町・丸の内・有楽町地区のオフィスビルは保有し続けるが、その他地区の物件は国内外を問わず、収益機会があれば売却して開発利益を確保する。今上期のように、国内オフィスビルの賃料収入などが主体のビル事業が不振(営業利益は前年同期比10%減)でも、売却益で補うことが可能になる
。海外事業の営業利益を中長期的に全体の20%に引き上げる計画を掲げている。
足元では、三菱地所株は4月5日の年初来高値(3350円)から1割強下回る水準で、年初来高値圏に迫る三井不動産や住友不動産などに比べ出遅れ感がある。「株価の上放れには、主力の大手町・丸の内・有楽町地区の新規ビルの空室が埋まり、既存ビルの賃料回復が確認できることが条件」(野村証券の福島大輔氏)との指摘がある。「丸の内の大家」としては、現時点では当然の指摘。だが、中長期的に海外事業の存在感が一層明らかになれば、また違うストーリーを株価が織り込むことも、あるかもしれない。遠い思い出となったバブル期に始まった「ロックフェラーの夢」は今も終わっていない。
(戸田敬久)
http://s.nikkei.com/1lnbkNA
関連記事:
三菱地所、経常3年ぶり最高益 4~9月は36%増の627億円
http://s.nikkei.com/1lnaQqH
三菱地所が31日発表した2013年4~9月期の連結決算は、経常利益が前年同期比36%増の627億円だった。4~9月期としては3年ぶりに過去最高を更新した。オフィスビルの空室率は8%強と高止まりしたが、国内外の保有物件の売却が寄与した。
売上高は4810億円と10%増えた。部門別では主力のビル事業が11%増の2469億円、ロンドンでのビル売却がけん引した海外事業が70%増の558億円だった。一方、単価が低い郊外物件の引き渡しが多かった住宅事業は1290億円と11%減少した。
14年3月期は売上高が前期比15%増の1兆700億円、経常利益が32%増の1220億円とする従来予想を据え置いた。
ロックフェラーセンターにあるマグロウヒルビルは三菱地所グループが保有している
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