それは悪夢だった

私の家に知らない女がいて、、、
どうも私の妻らしい。

アメリカのアニメに出てきそうな妻と子供が2人いた。私は弟の方とは仲が良かったらしいが長男とは全く面識がなかった。だが、なんとなく家族のような気がしている。

妻は別の家族、つまりママ友たちの一族と団子になっているようで、その集団の中にいた、どうも私の家の庭でバーベキューをしているらしい。

手入れの行き届いたわたくし自慢の芝で、アメリカンカラーの服を来た度明るい人たちが、窓の遠くで何かやっている。ママ友のボスもいるし、一族の夫やその子供、私の子供達も皆楽しそーにバーベキューパーティーを楽しんでいるようだ。

私は室内の窓辺でそれを見ている。何故なら、私はその一族が苦手だからである。
ママ達にべったりな一族の夫達にもげっそりする。

そんな私は仕事人間。モーレツ社員なんて呼ばれていた。そんな時代の典型で、仕事のキリをつけるのが下手で、終電で帰る事も、夜中にタクシーで帰る事も度々で、私は孤立していた。

だが、郊外にこうして一軒家を持ち家族もできた。私は地域には常にいない。だが妻は地域に根ざしている。友人も知人も地域にわんさかいるのである。

ママ友を中心とした強い絆で結ばれたグループは私を除け者にしている。それは雰囲気でわかるのだ。私はどうも悪役らしい。その雰囲気は妻が発し、子供達も受け取っていて、嫌悪の空気に満ちているのだった。

嫌悪の中心のママ友のリダーは裁判官のようで、そこでの善悪の判断を一手に引き受けているのだった。

馬鹿明るい一族を遠目に、誰もいないリビンングで私は遠くの集団を羨ましくもなくボーッと見ていた。私の日曜日は少なからずこんな感じなのだ。

これでは、ますます家に帰りたくなくなってしまう。妻からは嫌悪の空気、庭もリビングも嫌悪に満ち私は無視という耐えがたい暴力に晒されているのであった。

何故こうなったかは相性や、私の仕事への逃避が原因などなどで、心当たりは十分にあったのだ。すでに仮面夫婦になって久しい。時々家族と出かける時も、一族の話ばかりである。誰これのパパは部長なったとか、所長になったとか、海外勤務を命じられて悩んでいるとか、カムウェイのなんとかを買ったとか。

ママ友のボスはネットワークビジネスのボスでもあるらしい。私はそういう怪しいのもを毛嫌いしているのだ。家にはカムウェイの石鹸やら空気清浄機やら化粧品やら健康食品やらがやたらにあって、妻は喜んで買わされ続けているのであった。

ママ友一族=信者なのである。楽しそうな笑いも私には嘘っぽく聞こえ、輪にも入れず孤立しているというわけである。妻の嫌悪の空気は子供にも感染し「皆で無視ね」と言った感じで、こうして窓辺にいても、誰一人よって来ないのである。

刷り込みで従順な子供達は、ママの手からなんとかに良い物質を何の疑いもなく口に放り込んでしまう。

情けないな。似非科学物質を子供に盛りやがった。
これは家庭を顧みず働いた罰に違いない。

離婚はすでに覚悟をしている。こんな状況は普通じゃない。

私は散歩に出ることにした。家の近くには誰もが羨む広い公園と遊歩道がある。
都内の小学生が大虚遠足に来る公園で、四季折々日曜に家族連れが集まる公園である。

独身時代、友人がこの公園の近くに住んでいた。春に満開に咲く桜を見て、ここに住むことを決めた。公園から歩いて15分ほどのこの家を買ったのは公園を散歩する為であった。

日曜日は家にいるが、10時になっても誰ひとり降りて来ないのが常、以前は朝早くから、皆で散歩に出掛けたものだ。出版界隈にいる私は、出世もせず安給料で終電づくめ日々を送っていた。仲間も随分離婚した。この業界は離婚もつきもので、締め切り離婚とでもいうか、付き合い離婚とでもいうか、家に居辛くなった人間が沢山いるのであった。

入社した時から先輩達を見ていたがこの有様である。ご多分にもれず、私は会社人であり社会人ではない。妻は社会に溶け込みカムウェイにハマってしまった。

私は家に帰るのが憂鬱であった。ワークホリックにはこのようにして、落ちいいってしまうのか、すでに病気である。早く帰宅しようとすると吐き気がするのだ。

ともあれ、日曜日には公園に散歩に行く。
寝ている妻達は11時までまるでストライキでもしてるように起きてこなのだった。私の日曜日はこんな感じで朝を迎える。

もう慣れてしまったので、近頃は起きたらすぐに散歩に出かける。これで家族との距離は離れっぱなしになった。もう家族とは呼べない。今日はホームパーティーなので、私はリビングで孤立しているのである。あの当てつけがましい、いけすかない明るさが嫌いだ。

悪い空気を体から剥がすように家を出て、新緑の遊歩道を大股で歩く、ヤマブキの黄色い花はいつもの通り咲いてる。今年の花見もこうして一人で楽しんだのだ。

公園まで遊歩道を歩く。公園の入り口を入ると広大な芝地が目に飛び込む。私はゴルフはしないが、ゴルフ好きはこれを楽しに行くんだなと思う。

芝の周囲を歩き四季折々の植物を愛でるのも散歩の楽しみなのである。子供達だって、この公園を楽しんだ筈である。家を持って、家族とこの公園を楽しみたかった。なのにこの有様である。私は自分のこれまでの生き様の結果だ、バチが当たったんだと思った。

妻と冷たい空気が流れ出したのはママ友と出会った頃であり、それまでは、日曜は買い物に行き、散歩に出掛け、時々ドライブもした。怪しくなったのは、ママ友が京都に行くと聞くと、妻も京都行きたがったり、伊豆に行くと、伊豆に行きたと言うようになった。ママ友の亭主の給与が上がると、「あなたも給与が上がるように頑張って」と言うようになった。「絆が大事」とか口にするし、どうもおかしい。

何かおかしい、と常々感じるようになり、離婚は間近と動物的な感でわかっていた。男の脳は疎いの、こうし雰囲気を察すのに時間がかかるのだ。女性の友人がいたならすぐ警告を発してくれただろうに鈍臭い男共は、離婚の危機に気付かないのか馬鹿なのか?こん風な家庭で離婚に至ってしまうのだった。

あの憧れの公園を散歩しているのに全く楽しくない。
歩いているうちに腹が立ってきた。

離婚届に判を押そうと、心に決めた。とたんに、わたくしは軽くなっていた。