積み重ねの物語 | 劇団 貴社の記者は汽車で帰社

このたびは、年末のお忙しいところ、また、このような時勢にご来場くださり、本当に本当にありがとうございました。

「女」役を演じました新田です。

今回の公演を行えたのは、支えてくれた団員のみんな、力添えくださったスタッフの方々、そしてご来場くださった観客の皆々様のおかげだと思っております。

 

さて、15周年に寄せる思いや振り返りは劇中でしましたので、役どころの話を少し。

今回、「男」役の千野と話した際にお互いそうだったので安心したのですが、

今回の公演で初めて、私たちの役は「男」の描いた『松浦宮物語』を見ていく(語りをきいていく)ことで、完成するものだったんだなぁと実感しました。

 

役どころとしての一番感情が爆発するべき場所は、『伊勢物語』に世界が揺らぎかけるところなのですが、そこできちんと『伊勢物語』の「女」になって「男」との物語を紡ぐには、氏忠と女君たちの物語を丁寧に自分の中で積み上げていくことが必要であり、大切だったんだなぁ、と、舞台の中で物語の舞台を見つめながら思ったのです。

 

 

神奈備皇女の入内しながら結ばれない人のことを思い続ける物語。

華陽公主のたったひとつだけ結ばれる方法として命を懸ける恋の物語。鄧皇后との抗いがたい恋の物語と氏忠との公主の珠を挟んだやりとり……などの要素を積み上げていって、気持ちよく『伊勢物語』の世界に入っていけました。

あと、華陽公主と氏忠の最後、「お待たせして申し訳ありません」」で、手を取ってふたりで去っていくところ、「女」としては、叶わなかった「男」との未来の姿なので(「男」が「女」を攫った時と、手を取るのと場所が同じなんですね。)、なかなか感無量のエンドでした。

 

 

私は、わりと芝居の前に気持ちを盛り上げるために、役柄のイメージソングを勝手に決めて、それを聞き続けて気持ちを高めて芝居に入っていくのですが、今回はそれがなかったんです。たぶん、氏忠と女君の物語が、その気持ちを高めるイメージソングの役割を担ってくれたんだなぁ、と、終わったあと、思い当りました。

女君たちと氏忠ありがとう。あの最後の女と男のシーンは、物語世界の男女の積み重ねによって、ある意味、つくられた物語でした。

 

また、これは余談なのですが、『松浦宮物語』を外から見ている者として、基本的にどの場面も、どの役者も楽しく面白く見ていたのですが(皇太子可愛い、とか)、『伊勢物語』を語る氏忠が、「女」の方をがっつり向いて、「可哀そうに、女は鬼に食われてしまった」って語るきりっとした顔と、「氏忠に華陽公主との誓いを貫かせてあげてください」と言いながら氏忠見ると、ちゃんと反応してくれていて、物語人物と交流できたような不思議な気持になって楽しかったところが、個人的な役得一押しシーンでした。

 

 

 

それでは、この物語の話はこのあたりで終わりにして……

重ねてになりますが、この舞台を支えてくださった皆様、見守ってくださった皆様、本当に本当にありがとうございました。

どうか、また、新しい物語の世界で、皆様に安心して会うことが出来るようになることを心から祈っております。