『宇宙人』第3章 精励恪勤 2-⑤
※流血表現があります。苦手な方は読まずにお戻りください。
その学会が終わった後、ひとまず僕は家に帰った。
ずっと学会の発表の準備をしていたから、家でゆっくりすることなんて、ここ最近なかった。
学会の発表の準備で疲れていたし、発表が終わってなんだか気が抜けたようで、疲れが一気に押し寄せた。
だから、家で少しゆっくりしよう、と思ったのだ。
家に帰ってそう言うと、母親はとても喜んだ。
僕は自室のベッドに寝転がり、暫しまどろんだ。
その間に、夢を見たような気がする。
どんな夢だったかは覚えていない。
でも、とても不安な夢だったことは、覚えている。
はっとして目が覚めた。
気が付くと、手首に赤い紐が巻き付いていた。
あの、触るとぬるぬるする紐だ。
僕はまた、手首を切っていた。
そして、自分の部屋の床に座り込んでいた。
僕は眠っていたはずなのに、何が起きたのだろう。
一体、どうなっているのだろう。
まだ夢を見ているのだろうか。
僕の目の前の床には、カッターナイフが落ちていた。
僕は、カッターナイフを手に取った。
これは、夢なんかじゃない。
やってしまった。
僕はまた、無意識に手首を切ってしまった。
以前もそうだった。
あの時も、気が付くとカッターナイフを握っていた。
僕は、カッターナイフには何か、魔物でも取り憑いているんじゃないかと思った。
僕は、手首から流れ出た血が、僕の周りの床をじわじわと蝕んでいくのを見ていた。
床には、血だまりができていた。
血だまりはゆっくりと、その面積を広げていった。
僕はその中に、また宇宙を見た。
もしかしたら、宇宙の始まりも、こんなものだったのかもしれない。
なにか、とてつもなく大きな生命体から流れ出た体液が、少しずつ広がって、宇宙が生まれたのかもしれない。
キラリが、宇宙の果ては、今もどんどん広がっていて、どこが果てなのか、誰も証明ができない、と言っていた。
きっと、僕の手首から流れ出た血が広がるように、宇宙の果てもどんどん広がっているのだろう。
だんだん、眠くなってきた。
少し寒いが、とても心地よい。
僕は、その心地よい血だまりの中で、再び眠ってしまった。