変わる交通の常識④リニア危うし | 鉄道きさらんど

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新幹線の次はリニアの話題を。

 

前のエントリで書いたように従来は人口減少やIT化の時代であっても直接会ったり体験するニーズはむしろ増えるから新幹線などの利用も増えると思われて来た。しかしパンデミックを経験した後は今のようにまったく何もかも自粛する時代はいずれ終わるにせよ以前ほどビジネスでもエンタメでも観光でも直接お金と時間をかけて移動して会ったり体験する欲求にかられずに新幹線の需要は元通りにならないだろう。だから新幹線が豊かさや便利さを生む源泉としてありがたがられ新規整備を競って熱望する動きも沈静化するし、JRは新規路線の開業だかでなく既存路線の維持にも苦労するのではないかと書いた。


これからのそんな時代にあってJR(旅客)6社の、いや日本の鉄道界の、いや世界の鉄道界の一番の優等生たるJR東海はがけっぷちに立たされかねない危機になりかねない。今月の利用は前年比9割近く減少、GWの予約も全く箸にも棒にもかからないらしい。在来線はあっても社運を賭けられるのは東海道新幹線だけというこの会社はこの状況がすぐに好転しないだろうし安定経営から一転して経営危機に陥りかねないし、会社は残ってもリニア開業計画に支障は出るのは間違いないだろう。リニア中央新幹線はもともと2007年にJR東海が自己資金での整備をぶちあげたときは名古屋まで2025年開業(新大阪までは45年)予定だった。それが今の27年(47年)開業予定になったのはリーマンショック後に開業予定を後ろ倒ししたから。今回も用地交渉や工事がもともとカツカツのスケジュールであると訊くし、パンデミックがなくても静岡の水枯れ問題で遅れが出かねないと思われてきたころに、パンデミックの衝撃が押し寄せリーマンショック以上の経済危機が訪れた。もともと東海道新幹線はビジネス利用が多く利用率は景気に左右されるのだが、今回の場合は移動に感染リスクがあるからと何もかも自粛の動きで、東名阪の出張需要自体が丸ごと消えたかのような勢い。工事資金を借りて工事を始めた以上は回収するためには開業したいだろうが、資金に余裕がなくなれば年間の設備投資金額を減らすしかなく工事を先延ばしするしかないし今は緊急事態宣言で工事も中断してしまっているとあっては、延期は避けられないのではないだろうか。2020年代の名古屋開業も困難になりかねないし最悪の場合は中止や凍結もありうるか…。

JR東海がリニアを整備する理由としては人口減少やIT化でも直接会うために移動するニーズは不変であること、(東名阪の移動需要は今と変わらない)、陸路で今の新幹線よりさらに速い移動手段のニーズがあること、そして非常時の新幹線の代替がいるということを挙げてきた。もし、将来南海トラフ地震などの災害で新幹線が不通になっても東名阪の移動需要にこたえる必要があるし、新幹線が不通でもリニアというバイパスがあれば「のぞみ」利用者の需要をカバーできるので収入源を絶たれずにすむ。(あとは、リニアがあると新幹線を運休しながら昔の「若返り工事」よろしく再整備ができるとか)しかし、リニアは開業してもそれ自体では大幅なもうけが出せる路線ではなく場合によっては赤字かもしれないという。それでもJR東海が建設に踏み切った理由は東海道新幹線の莫大な移動需要は不変だし、それを担保に資金調達もできる。今はビジネスや観光での需要はむしろ増えてきたし、新幹線の儲けを新幹線や在来線の維持、社員の雇用確保や関連事業などに使ってもなおリニア整備をする余裕があるからだった。JR東海はリニア建設以前から使命として課せられた自社エリアの鉄道網の維持や長期債務返済、納税などもリニアをやることでむしろ従来より着実に行えるとまで豪語していた節があった。

 

しかし、この前提が一気に変わった。パンデミックで東名阪の移動需要が消えかねないし、前のエントリのように人はIT技術を利用して出張や観光など直接会ったり体験することを代替できること、ITなら移動コストも時間もいらないことを一度経験するとCOVID19が終息しても完全に元には戻らないだろう。そうなると新幹線の儲けをリニア整備につぎ込めるという前提は怪しくなってきた。またリニア建設の理由としてあげられる新幹線の不通での収入源確保だが、それはリニア開業後に新幹線に何かあったときに巨費を投じてリニア建設をする効果がある事であってまさかリニア開業以前に新幹線利用が激減することは想定していなかったのだろうか。今回のような感染リスクを恐れてお上から自粛を求められ、だれも移動をしなくなることはあまりにも予想外だとしても…。今までもリニア開業前に新幹線が災害に被災したらリニア整備はどうなるのか?と突っ込む人はいたし、繰り返すが今回のパンデミックは誰のせいでもないし意外だとしてもリニア開業以前に新幹線の需要が減り経営の危機に陥りかねないケースは想定してもよかったのではないかと思う。JR東海は日本経済や社会が安定している限りは盤石かもしれないが、今回のようなことがなくても国が有事に陥り社会が危機に、会社経営が危機に立つリスクは決してないとはいえないはず。となるとJR東海の経営手腕が問われかねい。

 

JR東海はリニア開業後は「3世代の鉄道」(リニア、新幹線、在来線)の1元経営をやりきれると自信満々だった。しかし、今は経営自体があやうくなりかねないしリニア開業も困難かもしれない。リニアが開業しても新幹線や在来線の利便性や路線維持にしわ寄せがきかねないし、場合によっては国の税金投入での経営支援や在来線維持、リニア建設費の補助という形で優良企業から一転して赤字で国や自治体の世話になる会社になりかねない。そうなるとリニアは民間事業だと言ってきたが、実は駅の周辺の再開発などは自治体のお金が人手が投入っされているし、すでに財政投融資を受けている。無事開業できても沿線は経済効果どころか負担ばかりを感じるようになりそうか…。

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