貨物新幹線計画の話 | 鉄道きさらんど

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きのう30日の中日新聞で、JR九州初代社長の石井幸孝氏が貨物新幹線構想は具体的にあったと証言している。別に石井氏は中日だけではなく、今年の東洋経済『鉄道完全解明2013』でも同じように引退した300系を再活用しての新幹線での貨物輸送を提言しているが、旅客会社元幹部で貨物輸送の拡充を主張する人は凄く貴重な存在と言えよう。


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戦前の弾丸列車計画では貨客どちらも走らせることを前提にしていたし、(大体機関車牽引だから当然か)、昔のこども向けの新幹線の本にはきまって貨物新幹線用車両のデザイン図のキャプチャがのせられ、「新幹線は、当初貨物輸送も計画した。コンテナを電車で運ぶ予定であった」という解説があったものだが(たとえば、関長臣『カラーブックス593 新幹線』保育社1983年)「貨物新幹線」計画はどこまで本気だったか。東海道新幹線開業以前に入社した国鉄OBの発言を手持ちの著書から調べてみた。須田寛は『東海道新幹線』(88年)で、「開発銀行の性格から、新幹線の貨物輸送に大きい関心が向けられており新幹線に貨物輸送計画が盛り込まれていたのは、この世銀借り入れとの関係からと言われている(p41)」とこの一文からは貨物構想が本だったかどうかを推し量れないが、「貨物も想定需要の結果、(昭和)五十年の列車計画を片道二十六本と推定していた。(p33)」と開業から十年以上後の貨物輸送需要を国鉄が具体的に試算していたことがうかがえる記述がある。


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さらに、角本良平の『新幹線開発物語』(01年改版、初版は64年発行)を読むと、貨物輸送もすることで世銀を説得した云々という記述は須田と同じだが、世銀が最終的に融資を決めたのは貨物を運ぶからだけではなく、旅客輸送分野であっても「旅客輸送の相当も経済活動のためである」(p156)という説得を国鉄から受けたこと、訪日した世銀調査団が、「当時はすでに新丹那トンネルその他の工事が進んでおり、また技術研究所の研究成果も上っていた。東海道線が文明国として世界一人口密度の高い地域を走っており、いかに輸送の需給がアンバランスであるか、高速道路ができても依然として鉄道の必要なことが彼らにも認識された」(p157)と、貨物輸送のあるなしといったレベルの議論を超えて旅客輸送であっても経済活動に必要な輸送力がひっ迫していること、先進国らしい技術的優位性で産業や経済が発展することに貢献するという確信で世銀が融資を決めたとすれば、言い換えれば貨物構想を世銀を口説くための方便としてのみぶち上げられたものではないということが伝わってくる。大体世銀の融資と言っても当初見込みの建設費の17%でしかないから、それのためだけに貨物輸送を形だけ構想したということは考えにくく、貨物駅用地があって車両のデザイン図が残っているならそれなりに当時の国鉄は本気だったといえよう。



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170頁では、貨物新幹線といっても最高時速130キロの見込みだったようだが新幹線に夜行列車はいらず、夕方集荷したものを朝届ければいい貨物の特性から深夜の保守間合いの間を縫って貨物列車が走るダイヤを予定していたことがわかるし、「新幹線が開通しても、当分のあいだは旅客列車だけで貨物列車の運転はしばらく後になったけれども、それは主として資金事情のためである。貨物輸送の準備も最初からおこなわれ、すでに駅用地も購入されている。」(p183)と明記されているし、最初の段階では5tコンテナ輸送のみでのちにビギーパック輸送も始めること、新幹線開業に伴い新在ともにコンテナの規格を統一し、幅2.3m、長さ3.24mの寸法とし、新幹線では在来線と90度向きを変えて積むこと、(186p)貨物駅予定地は東京なら大井というのはよく知られているとして、静岡市東部、名古屋では庄内川付近、大阪は淀川北岸の鳥飼大橋付近で途中ヤードはなく、東京大阪で5時間半での走行を見込んでいること(p186-187)とかなり具体的に書かれている。「開業前の将来予測」の章では「貨物輸送の高速化も産業の発達に寄与すると思われる。」(p190)と開業前に展望を語っていた。(その後、皮肉にも角本は「鉄道貨物輸送安楽死論」を持論とするまでに至ってしまうのだが)


貨物先進国と言われる欧米でも、別にスーパーで売るパンや鉛筆やアマゾンから配達する本やDVDを運んでいるのはトラックだし、米国が世界一の貨物大国なのは鉱物などの資源大国だからである。サービス産業主体で天然資源が少ない日本では貨物列車が優位な石油や石灰石などの輸送の市場は少ない。(ただし、日本でも工業地帯や鉱山の貨物鉄道は旅客だけのローカル線より収支がいいのが現状だし、人より物を運ぶほうが接客用の要員がいらないし道路輸送に転移しにくいので結構手堅いのだ)しかし、大手運送会社やトヨタが専用貨物列車を仕立てるなど昔のヤードごとに停まってちまちま需要を拾う列車は淘汰されて当然といえ、大口の荷主がつき、長距離を早く大量に正確に運ぶコンテナ列車は鉄道の特性を十分発揮できるし、貨物新幹線は全くの夢物語でない日はいつかは来るかもしれない。