2019年、アメリカの捜査当局はアジアに広がる密輸ネットワークを標的とした潜入作戦を開始した。

中心となったのは麻薬と武器の取引である。潜入捜査員はブローカーを装い、時間をかけて対象者の信頼を得ていった。

やり取りの中で「ヘロインや覚醒剤を供給できる」という話が持ち出され、国際的な取引の構図が浮かび上がってきた。

 

こうした潜入調査は海外の話であるが、日本国内の動向も無関係ではない。

 

2019年、日本の警察当局は暴力団関係者を中心に数多くの麻薬事件を摘発している。

 

 

国内の摘発事例

 

港湾での密輸摘発
神戸港や横浜港などの主要港では、海外からのコンテナに隠された覚醒剤が摘発されている。2019年には数十キロ単位の覚醒剤が押収される事例が複数あり、その背後には暴力団関係者が関与していたとされる。

 

国内ルートでの販売
都内や関西圏では、末端の販売グループが摘発され、その供給源として暴力団の関与が指摘された。特に、暴力団が資金源を多様化させる中で、麻薬取引は依然として重要な収益手段のひとつであることが確認されている。

 

国際的な接点
東南アジアから日本に持ち込まれた覚醒剤が摘発される事例もあった。国内市場だけでなく、海外の密輸組織とのつながりが存在することを示す動きである。

 

共通する傾向

2019年の摘発事例から見えるのは、国内市場が縮小傾向にある中で、暴力団が依然として麻薬取引を資金源として維持しているという現実である。

取引は従来の国内ルートだけでなく、海外からの輸入に依存する傾向が強まっており、国際的なネットワークとの結びつきが濃くなっている。

 

 

 

2019年に始まった海外の潜入捜査と、日本国内の摘発事例は一見別々の出来事に見える。

しかし、両者に共通しているのは「暴力団と国際ネットワークが交差しつつある」という点だ。

国内の港湾から摘発された覚醒剤も、潜入捜査で浮かび上がった国際的なやりとりも、同じ地下経済の延長線上にある。

2019年という年は、日本国内の麻薬取引と国際的な潜入捜査の両面から、組織犯罪の実態が改めて露わになった節目だったといえる。

 

 

 

 

 

 

※本稿は複数の匿名関係者の証言に基づいて編集した仮名報道。

 

 

SNS越しに「一緒に稼ごう」と煽り、大勢の若者を引き込む“カリスマ投資家”M氏。

だが画面を閉じると、そこにあるのは投資ではなく、半グレ的な力と暴力で資金を集め、統制する“現代の集金屋”の姿だった。

 

出自――暴走族、闇カジノ、振り込め詐欺の影

関係者によれば、M氏の若い頃は典型的な“荒くれ”の系譜だ。十代で暴走族に属し、二十代で振り込め詐欺グループの末端役を経て、やがて闇カジノの出入りを通じて顔を作ったという。

周囲は「腕っぷしがあって口がうまい。いつの間にか金を集める役に回っていた」と語る。

表舞台に出るきっかけは、SNSの隆盛とコロナ禍の“巣ごもり需要”。

M氏は投資を看板にしたオンラインサロンを立ち上げ、月額会費や出資名目で数千人規模を集める“仕組み”を作った。写真には高級車や豪華ディナー、海外のリゾート写真──若者が憧れるイメージが並ぶ。

 

 

勧誘と統制――“兄貴肌”の演出

元参加者はこう振り返る。「最初は面白半分で入った。相談に乗ってもらえるのが嬉しかった。

彼は“兄貴肌”を演じるのがうまい。飲み会を開いて、参加者を仲間にする。そこで“恩”を作るんです」。

仲間意識を植え付けたうえで、会費や追加出資を募る流れが生まれる。

飲み会や合宿、ツアーなどイベントを多数運営し、参加費や“VIP枠”で現金が集まる。

 

関係者は「月の会費だけで数千万、年単位なら数億に届くこともある」と語る。細かい内訳は多様だが、会費と高額な“出資枠”が主な収入源だ。

 

 

金の流れ――誰がどれだけ抜くのか

繁栄のピーク時、サロンは会費収入に加え、会員を募っての“仲間内ファンド”や、仮想通貨・NFTへの共同投資といった名目でまとまった資金を集めるようになった。

関係者は「実際に投資でまとまった利益が出ることは稀。大半は運営費と“上の取り分”に消える」と明かす。

具体的な金額感はこうだ――月1万円の会費が2000人集まれば月2000万円、年間で2億4千万円。

 

ここにVIP会員の高額枠(数十万〜数百万円)やイベント収入が入ると、表から見える収入は膨らむ。運営側の取り分、仲介役や“相談役”へ回る取り分、オフショア口座や現金化ルートを通じた抜き取り──関係者は「分配はブラックボックスだ」と語る。

 

※ここで注意だが、本稿は手口の指南ではなく、構造の解説に留める。

 

 

暴力の実態――見せしめと統制

もっとも衝撃的なのは、資金回収や内部統制における暴力の実例だ。複数の元参加者・関係者が以下のエピソードを証言する。

・ある若者が返金を求めたところ、夜に呼び出され、繁華街の駐車場で数人に取り囲まれて殴られた。翌日、顔面骨折で入院したという。周囲は「示談で済ませろ」と圧力をかけられたと口をつぐむ。

 

・サロン内でトラブルになった幹部候補の男が、グループリンチに遭い重傷を負った。同行していた側近の一人は「シノギ(儲け)の取り分の揉め事だ」と話す。

 

・内部告発を試みたメンバーが夜道で待ち伏せされ、スマホを奪われSNSアカウントを消された。恐怖を見せつける“見せしめ”が常套手段になっているという。

 

いずれのケースも、被害者は示談で済ませるか、沈黙を強いられることが多く、真相が表に出にくい。元側近は「暴力で黙らせるのは簡単。広告や投稿で夢を見せて、裏で脅す。両方が機能してる」と語った。

 

 

偽装と演出――“成功者”の澱(おり)

M氏のSNSは常に演出だらけだ。高級腕時計、ブランドのロゴが入ったスーツ、貸切のパーティー。

だが関係者の一人は「写真の多くはレンタルか借り物。豪遊の大半は一時的な演出だ」と暴露する。

実態は運営費やイベントの前払い金が使われ、実際の投資利益は限定的。だが“見せること”で新たな会員を引き入れ、資金を回転させるサイクルが出来上がっている。

 

 

側近と“番人”――刺青と忠誠

M氏の周辺には、元暴走族や闇カジノの顔役といった“側近”が数名いる。

彼らは表には出ないが、現場での統制、呼び出し、見せしめといった実務を担う。ある元参加者は「彼らは刺青を隠してスーツを着ているが、裏に出れば違う顔になる」と話す。表のソフトさと裏の硬さが同居する構図だ。

 

 

現状と余韻――画面の向こう側に何があるか

関係者の話では、M氏は現在もSNS活動を続け、表向きの“成功者”の顔を保っている。

だが、その周囲には傷ついた若者と、説明のつかない金の流れ、そして沈黙を強いられた者たちが残る。

 

「彼の言う『一緒に稼ごう』の裏で、泣いている人がいる」と元参加者はため息混じりに言った。画面の光に照らされた笑顔の向こうで、誰かが殴られ、誰かが金を失い、誰かが沈黙を選ぶ。その構図は、今もどこかで繰り返されている。

 

 

 

 

 

高齢化と単身世帯の増加によって、遺品整理を請け負う業者はこの数年で急増した。

依頼内容は「突然亡くなった親の部屋を片付けてほしい」というものから、孤独死の現場まで幅広い。

届け出さえすれば誰でも始められるため、清掃業や便利屋が次々と参入し、そこに“別の人間たち”が紛れ込んだ。

 

ある自治体の職員は「遺品整理は元反社が入り込みやすい」と打ち明ける。

葬儀や建設、リサイクルと並んで現金の流れが早く、監督の目が届きにくい。ひとつの現場で数十万から百万円単位の取引になることも珍しくなく、遺族は「とにかく早く片付けたい」と焦るあまり、見積もりの妥当性を細かく追及しない。

そこに“つけ込む余地”があるのだ。

 

元従業員の一人は、作業中に見た光景をこう語る。
「形見として残すはずの時計やカメラが、黙ってトラックに積まれていくんです。

後で『処分しました』と説明されるけど、実際は中古市場に流れている」

 

遺族の中には、アルバムや手紙が忽然と姿を消したと訴える人もいる。不用品処分と称しながら、現金化できる資産が抜かれていく。形式上は契約に含まれてしまうため、盗難だと声を上げることも難しい。

 

埼玉県在住の佐藤由美さん(仮名、50代)は、その不透明さと真正面から戦った一人だ。

父の遺品整理を依頼し、65万円を支払った。

しかし、作業後に確認すると、残すよう伝えていた古い掛け時計と刀剣が消えていた。

業者に問いただすと「処分しました」と突き放された。ところが数日後、ネットの中古販売サイトに同じ刀剣が出品されているのを偶然見つけた。刻印は父が集めていたものと一致していた。

「頭に血が上りました。父の形見を勝手に売ったんです」

由美さんは証拠を印刷して業者の事務所に直接出向いた。中には威圧的な若い男たちが並び、「事を荒立てるな」と牽制した。それでも彼女は引かなかった。
「私は泣き寝入りしません。警察に行きます」

その一言で空気は変わった。後日、業者からは現金30万円が“補償”として差し出されたが、彼女は受け取りを拒否し、警察と消費生活センターに相談した。結果、出品は削除され、業者は“廃業”を余儀なくされた。

 

「誰かが声を上げないと、他の遺族も同じ目に遭う」
由美さんは淡々と語る。

今の元反社は、表で暴力を振るうことは少ない。優しい口調で寄り添い、作業員は小綺麗な服装で現れる。だが裏で交わされる指示は冷酷だ。「骨董品は全部抜いておけ」。現場を知る関係者はそう言い切る。

 

回収された遺品は古物市場やネットオークションを経由して現金に変わり、領収書には「処分費」と一括で記される。

金の行方を追うことはほぼ不可能だ。

 

 

遺品整理とは本来、遺族の悲しみに寄り添い、思い出を大切に扱う仕事のはずだ。

だが現場の一角では、形見が市場に流れ、利益に変わり、遺族の知らぬ間に消えていく。

「反社が暴れていた時代は終わった。今は静かに、笑顔で金を抜いていく」――ある古物業者の言葉が、現場の実態を最もよく表している。

 

 

 

 

 

 

 

コロナ禍でペット市場は急拡大した。犬猫は“家族”と呼ばれ、ペットショップでは30万、40万の値札が当たり前に並ぶ。
だが、そのショーケースの裏で流れるカネの行方は、驚くほど複雑だ。

 

地方の繁殖場で生まれた子犬は、まずブローカーに引き取られる。
この段階での買い取り価格はせいぜい数万円。血統や人気犬種でも10万円に届くことは少ない。

ブローカーはまとめて仕入れ、オークション市場に流す。ここで1匹あたり数万円の“上乗せ”がされる。
例えば、繁殖場から3万円で仕入れた子犬は、オークションを経てブローカーが8万円でショップに卸す──そんな図式だ。

ショップに並ぶ時点で値札は20万~40万円。
「単純計算すると、繁殖場に3万で渡った犬が最終的に30万になる。その差額のどこかで、誰かが大きな利益を抜いているわけです」
そう業界関係者は語る。

 

資金源として反社が狙うのは、この差額だ。
繁殖場の運営資金を出資し、ブローカーを介して現金を回収する。あるいは、オークション市場そのものに人を送り込み、“相場を作る”側に回る。

「オークションは半分は“顔”で決まる世界。誰が出した犬を買うか、どのブローカーに有利に回すか、見えない力学が働く。そこに筋の人が座っていることは珍しくない」
取材に応じた業者は声を潜める。

 

本来なら行政が繁殖場を監視すべきだが、実態は甘い。
「検査は事前通知制。帳簿を差し替え、檻を掃除すれば通ってしまう。数百匹を劣悪環境で飼育していた繁殖場も、発覚するまで何年も野放しでした」
過去には犬数百匹が救出された事件が全国紙を賑わせたが、資金の流れは結局追及されなかった。

 

ただ一方で、裏社会の人間の“可愛い”一面も見え隠れする。
親分がチワワにヴィトンの服を着せて、『寒がりだから』と自慢していた。

人間の部下はユニクロで十分でも、犬にはブランド品を着せている。
「会合を切り上げて『犬の散歩があるから帰る』と言い出す親分もいました」
関係者は苦笑しながら語る。

 

 

30万円の値札の裏に、どれだけのカネと影が動いているのか。
繁殖場で3万だった子犬は、ケージの中であなたを見つめている。
可愛さと残酷さ、行政の甘さ、そして黒い資金が入り混じる市場──。

次にペットショップでその目と合ったとき、あなたは値札を見るのか、それとも背後に潜む“影”を見るのか。