高齢化と単身世帯の増加によって、遺品整理を請け負う業者はこの数年で急増した。
依頼内容は「突然亡くなった親の部屋を片付けてほしい」というものから、孤独死の現場まで幅広い。
届け出さえすれば誰でも始められるため、清掃業や便利屋が次々と参入し、そこに“別の人間たち”が紛れ込んだ。
ある自治体の職員は「遺品整理は元反社が入り込みやすい」と打ち明ける。
葬儀や建設、リサイクルと並んで現金の流れが早く、監督の目が届きにくい。ひとつの現場で数十万から百万円単位の取引になることも珍しくなく、遺族は「とにかく早く片付けたい」と焦るあまり、見積もりの妥当性を細かく追及しない。
そこに“つけ込む余地”があるのだ。
元従業員の一人は、作業中に見た光景をこう語る。
「形見として残すはずの時計やカメラが、黙ってトラックに積まれていくんです。
後で『処分しました』と説明されるけど、実際は中古市場に流れている」
遺族の中には、アルバムや手紙が忽然と姿を消したと訴える人もいる。不用品処分と称しながら、現金化できる資産が抜かれていく。形式上は契約に含まれてしまうため、盗難だと声を上げることも難しい。
埼玉県在住の佐藤由美さん(仮名、50代)は、その不透明さと真正面から戦った一人だ。
父の遺品整理を依頼し、65万円を支払った。
しかし、作業後に確認すると、残すよう伝えていた古い掛け時計と刀剣が消えていた。
業者に問いただすと「処分しました」と突き放された。ところが数日後、ネットの中古販売サイトに同じ刀剣が出品されているのを偶然見つけた。刻印は父が集めていたものと一致していた。
「頭に血が上りました。父の形見を勝手に売ったんです」
由美さんは証拠を印刷して業者の事務所に直接出向いた。中には威圧的な若い男たちが並び、「事を荒立てるな」と牽制した。それでも彼女は引かなかった。
「私は泣き寝入りしません。警察に行きます」
その一言で空気は変わった。後日、業者からは現金30万円が“補償”として差し出されたが、彼女は受け取りを拒否し、警察と消費生活センターに相談した。結果、出品は削除され、業者は“廃業”を余儀なくされた。
「誰かが声を上げないと、他の遺族も同じ目に遭う」
由美さんは淡々と語る。
今の元反社は、表で暴力を振るうことは少ない。優しい口調で寄り添い、作業員は小綺麗な服装で現れる。だが裏で交わされる指示は冷酷だ。「骨董品は全部抜いておけ」。現場を知る関係者はそう言い切る。
回収された遺品は古物市場やネットオークションを経由して現金に変わり、領収書には「処分費」と一括で記される。
金の行方を追うことはほぼ不可能だ。
遺品整理とは本来、遺族の悲しみに寄り添い、思い出を大切に扱う仕事のはずだ。
だが現場の一角では、形見が市場に流れ、利益に変わり、遺族の知らぬ間に消えていく。
「反社が暴れていた時代は終わった。今は静かに、笑顔で金を抜いていく」――ある古物業者の言葉が、現場の実態を最もよく表している。