命よりも 大切な尊厳がある

犯されたのは故郷だけじゃない 魂の拠り所が奪われた

けれども力がない知恵も無い 今日も生きるのすらままならない

それでも進む 未来は朱の荒野の先にある

 

松岡圭祐さんの 【砂の進撃

 
―――「確かに成長は必要だ。―――けれども義和拳にそんな暇はないんだ。彼らの故郷は疲弊してる。干ばつが続き、のうちは荒れ果て、食べ物もろくに口にできない。外国勢は、先祖代々の信仰を捨てるように迫って来る。改宗しなきゃ医者にかかることも、ひとにぎりの米を求めることもできない」
「だからといって、頭の足りない若造が何万人集まったところで、外国の軍隊に立ち向かえるはずがない。真の意味での統率力や団結力もない」
「有能は指導者がいないからだ。だから頼む。彼らを導きたい。あんたも手を貸してくれないか」
 
不思議な感覚だった。撃たれたものたちの死を悼み自分のごとく感じながら、群衆全体に己が同化したかのような、不可解な強靭さを自覚する。あたかも義和団がひとつの巨大な生き物とかしたかのようだ。失われていく同胞とは、個々の細胞に過ぎない。いくらか剥がれ落ちようと、母体の生命は失われずに存続する。従って悲しみや哀れみなどない。義和団は今や一匹の龍だった。
 
―――「人があってこその教義だ。先に教義ありきではない。洋人の宣教師らはそこを履き違えている。だから我らには我らの神がある。戦うのは俺たちだ。目に見えるような奇跡の後ろ盾はなくとも、思いは天に通ずる。なぜならここは、俺たちの大陸だからだ。俺たちはこの土と共に生きる。何も間違ってはいない。天に意思があるなら、正しきに味方するはずだ」
 
―――「強いものにすがって、ご飯にありつけて、銃を手にできる。それで満足。二毛子のならず者と、軍に加わった義和団と、どこが違うの!」
思わず言葉を失った。張は無言で眺めるしかなかった。
 
―――「私たちの民族はずっと強かった。三千年の歴史があるんだもん。強いと信じてた。だからみんな最後まで勝利を疑わなかった。古来の伝説にすがるのも、おかしいとは感じなかった。仲間が死んでいき、本当は不死身になれないとわかってからも、国のあすのため、死んでいくことに価値を見出した」
「そうなのか。君はその目で見たんだな」
「ええ」―――「あなたたちも、自分たちを強いと信じてる。いずれ勝ち目のない戦いに直面した時、同じように奇跡にすがる」
「そんな非合理な事が起きるとは思わんが」
「言ったでしょ。本当に進んでるのは日本より、私たちだって。だからさkに経験した。あなたたちの知らないことも知ってる。そうならないで欲しい。人の命を無駄に散らせるだけだから」
 
 
中国版 超絶リアルな・史実に基づいたマンガ【進撃の巨人】―――
といっても良いぐらい 色んなところで絶望しかない
あまりにも無い無い尽しだけど 沸き上がる想いだけは負けない
その「想い」が古代英雄譚・仙人思想と結びつき 戦術も命も度外視した一億総玉砕アタックを捻り出した
でもそれすらまやかしだった 詐術と脳内麻薬が作り出した「魔境」でしかなかった
気づけば あれだけ険悪していた洋鬼たちの暴力に縋っていた
でも後追いの急造・ツギハギの海賊版でしかないから 本物の大津波の前では総崩れに……
それでも光は差していた 何もなくとも・奪われていても民衆は立ち上がれた
もう大帝国の夢想に縋ることはない 想い立ったらすぐさま行動するのが漢民族だから―――
 
秦の始皇帝が 人類史上初めての「帝国」を作り出した
土地に紐付けられた国とは違う それらを束ねて君臨する雲上の・架空の大国
その帝国の母たる中華が 最新の帝国たちによって滅ぼされる
思い切って言ってしまえば 生まれたばかりの日本帝国によって滅ぼされた
バラバラだった世界を一つに和合させて 中華・清帝国の大包囲網を作れたのは日本あってのこと
ソレを思うに もしも江戸時代の武士たちが西洋ではなく中華と手をつなぎ続けていたとしたら?
軍艦やら最新科学の目新しさに度肝を抜かされて 言い方悪いけど媚びて下っ端に成り下がらなければ
当時のアジア全体の総力であったとしても 西洋列強は追い返せたのでは?
彼らを受け入れ窓口となり下っ端にならなければ この義和団の大虐殺は起こり得なかったのかもしれない……
ただその代償に「帝国」は残り続けたのかもしれない
アジア圏への出鼻をくじかれてしまった西洋列強たちは 撤退させられ内側に押し戻される
その後は魔女狩り時代に逆戻り 50年早い「世界大戦」が勃発したのかもしれない
ヨーロッパ圏内での内輪揉めだから 小規模な「事件」程度で収まるはず
この義和団の様な民衆の怒りが 中華ではなくヨーロッパの地で起きたのかもしれない
人種に本当に区別がなく基本スペックは同じであるのならば そこでDS(ディープステート)の原型も抹消されたのかもしれない
現代の悲惨さを省みるに 日本の明治維新は世界や未来にとって間違いだったのかもしれない
ただしかなり近年まで魔女狩りの暗黒時代で荒廃しきっていたので もう一度起きたら民族あるいは人種そのものが絶滅してたのかも……
 
それでもソレは起きた
フィクションの中ですら 「もしも日本に明治維新が起きなかったら?」なんて仮想シュミレートはなされたことがない(もしかしたら誰か描いてくれたのかもしれないけど……)
日本しいては世界・人類にとっての大正解 妄想することすら不可能な「真理」のごとくそびえ立ってる
思考は何者にもとらわれず自由でこそフル活用できるのならば 一度はその「剪定事象」を見聞するべきなのかもしれない
ソレが分かれば比較によって 明治維新が必要不可欠だった本当の理由が判明するはず
義和団や現代までの悲劇を起こしても成さねばならない 神様といってもいい超存在の目指すべき理念がみえてくるはず
 
今作のヒロインの女性が 負け惜しみのようにも聞こえてしまう・吐き捨ててきた未来予測
「面子」への異常すぎる執着がもたらした悲劇 西洋列強・彼らが嫌う洋鬼と変わらない本質だったがゆえに起きた
自我を抑えて和合へと努力しなかった点ではどれも同じ穴の狢 最後に出てきたのがそんな負け惜しみなのもその証左になる
おそらくは作者の意図 この数十年先に大日本帝国がたどる大敗北を暗示(罵倒気味だったので揶揄かもしれない)させているのだろうけど……どうにも違和感があった
義和団事件が意味することと 大日本帝国の敗北は同じだったのか?
大国に勝利し続け広大な領土を手に入れたことで傲慢になり 清帝国と同じ末路を迎えてしまったのか?
見当はずれな忠告・未来予測に聞こえてしまった

そこだけが不協和音だったけど 彼女ならばそう吐き捨てるのも自然な話の流れ

どこまで作者は狙っていたのか? この一冊丸ごとがソコへ導くための壮大な仕掛けだったのか?

とてつもないハイペースで良作を生み出し続ける作家・松岡圭祐

彼自身のなぞが大いに気になってしまう ……自伝を書いてくれたらぜひとも読んでみたい

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