ずっと思っていました。
ムーミン谷に行きたいなぁと。
子どもの頃、アニメで知って、それから原作のシリーズをくり返し読みました。ムーミンと親友のスナフキン、優しく温かいパパとママ、こわがりなスニフ、やんちゃなミィ、飛行鬼、モラン、不思議なニョロニョロ……。個性豊かな生き物たちが自由気ままに暮らすムーミン谷は、現実の中で息が詰まりそうだった学童期のわたしにとって、夢と希望を与えてくれる憧れの地でした。
児童書作家としてのわたしの原点かもしれません。
ムーミン谷はもちろん架空の場所ですが、作者のトーベ・ヤンソンが生まれ育ったフィンランドの自然豊かな情景が土台になっています。
ムーミンたちが生まれた場所に行って、針葉樹の森を歩いて凜と冷たい空気を感じてみたい、とずっと思っていました。
2018年に飯能の森に、ムーミンバレーパークがオープンし、憧れの地が、ぐっと近くなりました。
今年、とうとう! ムーミンバレーパークに行ってきました!
人間サイズのムーミン屋敷の中に入り、映像やショーを楽しみ、マニアックな展示物やクイズ、スタンプラリーで一日遊んできました。
なによりすばらしかったのは、飯能の自然でした。ムーミンやニョロニョロが森からひょいと出てきそうでした。「フィンランドの森に似ている」この地が選ばれたことに、実際に行ってみて納得できました。
と、そんな話を、トリプルKの打ち合わせの時に話したところ、カレン先生もムーミン原作を読んでいたという話を聞いてびっくり! ムーミンというキャラクターを知っている人はたくさんいるのですが、原作読んでいる人に(児童文学業界以外で)、これまで会ったことがなかったので(話してないだけかもしれないけれど)。
カレン先生の「ただ可愛いだけじゃなく、深く考えさせられる話だった」という話に、「そうそうそう!」とうなずきまくり、そして一番好きなエピソードの話で盛り上がりました。
それは、スナフキンが、小さなはい虫に名前を付けてあげる「春のしらべ」というお話です。
ムーミンの世界には、名前もない、小さな生き物たちがたくさん登場します。この「はい虫」もそうです。おびえていて、はずかしがりで、そのくせ、空気を読まずにスナフキンに話しかけて、図々しくも名前を付けて欲しいと頼むのです。
ひとりでキャンプをしながら、新しい音楽の旋律が降りてくるのを待っていたスナフキンは、邪魔されて内心腹を立てながらも、はい虫に「ティーティ=ウー」という名前を付けてやります。
──虫はその名前をよくよく考え、あじわい、耳をかたむけ、いわばその中にもぐりこみました。それから鼻面を空に向けて、しずかにその新しい名前を、とてもかなしそうに、うっとりとさけんだのです──スナフキンのせなかを、ぞくぞくとふるえがつたわったほどに。
名前を持つことの喜びが、それこそ、ぞくぞくと震えるくらい伝わってきます。
一方、スナフキンは、最初は邪魔されて腹を立てていたのですが、縁あって名付けたティーティ=ウーのことが気になりはじめます。
わざわざ戻って、ティーティ=ウーにまた会いに行くのです。
ところが! ここがまたなんとも深いのですが。名前を付けてもらって自信と生きる意欲に満ち満ちたティーティ=ウーは、自分の家を作るのにいそがしくて、「どうぞおかまいなく」とそっけないのです。
スナフキンに憧れ、名前をつけてもらって、あんなに喜んでいた、はい虫。
翻弄されるばかりだったスナフキン。
でも最後に複雑な気分であおむけに寝転がったスナフキンの頭の中に、すばらしい春の調べが降りてきたのです。
ほんの小さな短編物語なのですが、創作すること、そして自分が自分であることについて、深く強く心が揺り動かされます。
なんだか、あらためてスナフキンを自分に重ねてしまいました。
わたしは創作をしたいと思いながら、日常の仕事にまぎれて、創作ができない、する時間がないとずっと思っていました。でも、その日々の仕事こそが、わたしを形作っているのかも……。
いつか、すばらしい調べが降りてくることを信じよう、と思いました。
他にもカレン先生が好きな「目に見えない子」、これもすごく素敵なお話です。
「ニョロニョロのひみつ」もシュールで好きです。
「春のしらべ」「目に見えない子」「ニョロニョロのひみつ」が収録された巻はこちら↓
今回ムーミンバレーパークで一番気に入ったおみやげは、うちのポル姉さんに、ちょっと似ている、「アングリームーミン」です。
今年一年、本当にお世話になりました。
来年もどうぞよろしくお願いいたします。
スナフキンのように、ニョロニョロのように、来年も生きます✨️
2023年初めのイベントはこちら↓