物書きになりたいと思い始めてから、ずっと長いこと、思ってました。
「どうしてわたしに仕事依頼が来ないんだろう」

人気作家やライターにばかり仕事が集中して不公平! わたしだって書けるのに! いい仕事するのに! 自分なりにアピールしているのに、どうして依頼が来ないんだろう、と。


それから年月が流れ、ぼちぼちと仕事をいただけるようになり、そして逆に、わたし自身が仕事の依頼やお声かけをするようになって、ようやく分かりました。


あのころのわたしに依頼がこなかった理由。


あのころのわたしは、自分の作品が載ったアンソロジー雑誌や、自分で作ったペーパーを送ったりして、編集者さんや、出版社に、「自分はこんなに良い作品が書けるんだゾ!」と精一杯アピールしているつもりでした。


原稿をお願いする側としては、もちろん「いい原稿」であることは大事です。でも、「いい原稿で当たり前」なのですよね。「いい原稿を書けるから依頼する」わけではないのです。


依頼するときには、ちゃんと原稿を締め切りまでに出せる人かどうか、直しや再提出にもへこまずに対応できるかどうか、そして過去にトラブルがないかどうか(トラブルがあったらダメというわけではありません。理由が納得できて、再度くりかえさないのならOK)、また特にネット経由のお仕事の場合は、〆切が短い場合も多いので、体力やメンタルが大丈夫かどうか、もろもろクリアできてはじめて、依頼しよう、となるわけです。


つまり、いくら「いい原稿」を見せてもらっても、「その人がどんな人か」、ある程度時間をかけてお付き合いしてみないと、仕事依頼はできないのです。


あのころのわたしには、それだけの時間をかけて、きちんとお付き合いできている相手が、いなかったのでした。


今も、人見知りで出不精で対人恐怖ぎみのわたしは、人と会う機会は多くありません。それでもあのころよりはかなり、だいぶ、がんばっています。


SF関係のイベントや、児童文学関連、あるいは占い業界で、1度だけでなく何度も、いろいろな場所でお会いして、話して、わたしが、「約束の時間を必ず守ります」「きちんと電話で話すことができます」「継続して活動しています」「ビジネスメールマナーを知っています」などなど……少しずつ知っていただいて、そんな話が、いつのまにか伝わって、そしてようやく、仕事を依頼していただけるようになりました。


もし、この記事を読んでいるあなたが、いい原稿を書けるなら、わたしはいつか仕事を依頼したいと思います。そのためには、あなたがどんな人か、教えてください。話してください。年月をかけて。


あなたがいい原稿を書けるのに、原稿依頼がないとしたら、あなたがすべきことは、人と会わずに文筆修業……ではなくて! できるだけたくさんの人と会い、できればサークルやさまざまな活動に所属して継続して人と会い、つきあっていくこと。そうすることでしか、フリーランスの仕事は得られません。


小説を書く人や、絵を描く人、ものつくりをする人には、「人間が苦手」という人が少なからずいます。わたしもそうです。だから、ものつくりに熱中するのですよね。でも、それを仕事にするためには、苦手な人間関係を作って行かなくてはなりません。


上手につきあえなくてもいいのです。最終的には「作品勝負」ですから。ただ、誰とも会わなければ、作品を見てもらうチャンスさえないのです。


仕事依頼が来ない、と悩んでいるあなたの、参考になりますように。そして、あなたといつか、一緒に仕事ができますように。


大丈夫。こんなに「人間が苦手」なわたしが、お仕事いただけるようになったのですから。


最後におまけ。


「仕事くださいアピール」はしてはいけない、するなら「仕事忙しい」アピールにすべきという説があります。確かに「仕事ください」=「仕事ありません」=「自分は無能です」アピールになりかねないという危惧はあります。それなら「仕事忙しい」=「自分は売れっ子です」アピールのほうがいいのかもしれません。


でもやっぱり、仕事「ウエルカム!」というアピールはあったほうがいいと思います。依頼していいのかどうか、迷う場合が多いからです。


そのあたり、男女のかけひきに似ているかもしれませんね。下心丸出しの「させてください!」アピールは、ドン引きですが、かといって、「もうすでにモテモテ」という人には、声をかけにくいもの。「ウエルカム」なアピールがあれば、気軽に声をかけやすいですよね。


わたしももちろん、仕事ウエルカム!です!新しいご縁にも、気持ちよくこたえたいと思っています。




(098-2)あたしたちの居場所: イジメ・サバイバル (ポプラポケット文庫)/ポプラ社