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新しき世界へ

私たちは母なる地球の元に生かされて存在しています。
宇宙、自然、生命から「調和」「秩序」「法則」を学ぼう。


われわれは体中の異物を排斥する病気という過程のなかに その痛みのうちに ひとつの有機体が ふたたび純粋を

とりもどそうとする心の働きを見ないだろうか

そしてそのときわれわれの体験となるものは 異物と痛みのどちらであろう

記憶の奥に抜きがたい根を張って もはやわれわれ自身となるものはー


この痛みという生きものは たぶんわれわれを解くための重要な鍵のひとつなのだ

なぜなら肉が激痛のとき 肉にかかわるどんな場所にわれわれの逃げ場があるだろう

われわれの全身は否応もなく魂のなかに避難して

一刻も早い時の経過を じっと願うことができるばかりだ


私的なものをすべて黙らせ そこで痛みが主人のように君臨するのは ぜひともわれわれには必要であり 

私的なものより大事であり 私的なものよりすぐれたものの在ることを すぐれたもののひとりとして魂に書きつけているからなのだ


この万国共通の深い言葉は 魂に最も近い肉であり

此岸と彼岸をゆききできる選良のひとりであるだろう

そしてまた死の公平に導くための われわれの公平な教師でもあるだろう


                 石橋千濤詩集 荘厳歌より抜粋


    山奥の深い湖水よ


山奥の深い湖水よ 野に向かってあふれ出よ

おまえの塵ひとつない清浄はおまえだけのものではない

そのうつくしい静寂が生まれるためには

どれほど多くのざわめきが使い果たされたことだろう


原因から原因へと 今なお移りうごいている雑踏のなかへ

成熟したおまえという結果を流しこむがいい

すべての水は 億という歳月を黙々と水の使命に従っている

天地をかけて あらゆる変転を成しとげたそののちに

完成された地表のうえで ふたたびひとつに手をつなごうとして


                        石橋千濤詩集より転載

   ブラームス 「バイオリン ソナタ」 から


歌曲のなかでは背景となるにすぎないものらが

ここでは 言葉となって歌っている

名前となることを嫌うさだめない魂が 深いやまみちをさまよったのち 

夢想と瞑想との谷間にかかるゆりかごのなかでまどろむように


彼らは 意識の裏側の世界に家を持ち

日常のなかでは不在となり しじまにおいて目を覚ます

おもての世界はいそがしく その正体が”不安”であることを知っているので 

彼らは通常 欲望のすべての対象のもの陰にいる


                       石橋千濤詩集より転載

   フォーレの歌に寄せて

   ーー幻想の地平線ーー


幾重もの闇をつらぬき その円周のそとにあふれて

まるで過去の宇宙をふりむくように

ひとつの歌がめぐっている


それは諸々の感情を脱ぎ捨てた意志のようで

悲しいのでもなく 喜ばしいのでもない

また断念でもなければ 郷愁でもなく

すがすがしい大気のなかに ほのかな憧れを孕み

生の裸体のように


存在と呼ぶにはあまりに透明に

肯定そのもののようなこの生命は 何を告げているのだろう

このうえもなく純粋に 真実に

強く 明るく わたしの生の届かないところで・・・・・・・・


                       石橋千濤詩集より転載




    宮殿の廃墟の地下に


宮殿の廃墟の地下に永年埋もれていた王家の柩

ふたをあければ この独房に閉じこめられて窒息したかのようなミイラたちー

彼らに添い寝の宝物がかっての栄華を語っているが

それらも鈍色に朽ち果てて 今は腐敗物も同然だ

ああ 彼らがほんとうに所有したのはどんな富であったろう

はかないものと知りながら それを追いかけなければならなかった人間のはかなさがここにある


欲望に忠誠を尽くしたひとの行路とその終局とがここにある

たぶん彼らは忘れたのだ 自分たちにも豊かな幼年時代があり その日々は 欲望の対象とは別のところで明け暮れていたことを

そして太陽は人間のさまざまな運不運の上空で 常に公平な昼と夜とであったことをー

おそらく彼らは忘れたのだ 世界を抱きしめることに夢中なあまり 自分がまた世界に抱かれたものであることを


そうでなければ城を捨て 裸となって野に帰り

ひろびろとした大地の胸で 星々と共に眠ったろうにー

われわれのなかの獣の舌は 甘美や愉楽をむさぼるけれども それらは消化されて毒液となり 牙を伝って心に落ちる


ああ 空気や風 ひとのかすかな心ずかい 疲れた視線に突然ほほえみかける路傍の小草

われわれが富むということは これらのものをよろこぶことだ


                       石橋千濤詩集より転載



人間にとって本当に大切なものは目の前、身近なものの中にあり、本当の財産は目には見えないものの中にある。