
一年後、第三次越冬隊員が再び宗谷に乗って南極の昭和基地を目指す。
大氷原の中に、黒く大きな影が二つ。
隊員は思わず目を疑った。
氷原に残した15頭の霊が、二つの影となって現れたのかとさえ思った。
「犬だ!」
「な、なにっ!」
「まさか、一年間も生きているはずがない。アザラシだろう。」
「いや、確かに犬だ…!」
「犬だ!犬が生きていたぞ!」
2頭の黒い犬が、氷原に佇んでいた。
モクか、ゴロか。
2頭はまるで小熊のようにまるまると太っており、隊員たちでさえ見分けがつかないほどだった。
野生化している可能性もあり、恐ろしくて誰も近づけなかった。
犬たちも警戒しているようだった。
恨まれているのも無理はない。
噛みつかれても仕方ない。
「おれが近づいてみる。
腕の一本や二本、食いちぎられたって仕方がない。
おれたちはそれだけ酷いことをしたんだ。」
北村隊員はゆっくりと近づき、身振りてぶりで話しかけ、号令もかけてみた。
だが、犬たちは無反応。
なんとか通じ合えないものか。
犬の頭を撫でたが反応がない。
「なあ。お前はゴロか?」
犬は頭を上げない。
「それではモク?」
15頭のうち、体が黒かった犬たちの名を片っ端から呼んでみた。
「クロ、フーレン、デリー…」
そして最後に
「タロ」
と呼んだ時、わずかにしっぽが動いた。
「タロ…?」
もう一度呼んだ時、今度ははっきりとしっぽが動いた。
「タロ!タロか!するとお前はジロだな?」
もう1頭の犬が、招き猫のようにひょいと右の前足をあげた。
これはジロのいつもの癖だった。
もう間違いはない。
タロとジロだ!
「なんとまぁ…」
北村隊員の顔はみるみるうちに涙にぬれた。
タロとジロも北村隊員のことを思い出したようだ。
激しく尾を振り、擦り寄ってきた。
「よく生きていた、よく生きていた…!」
あとは言葉にならなかった。

再会を果たした北村隊員とタロとジロ。
左タロ、右ジロ